命
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互いの熱を刻み込んで、全ての想いを酒と共に飲み干し、終わりを迎える為に始まりの地へ降り立つ。
地球の、江戸から離れた地で船から降り、深呼吸を一つした。
懐かしさが胸に広がる。
「さて…これからお前はどうする?紫乃」
軽く首を傾げて尋ねられる。此処からは、行動を共にする必要が無い。
「江戸に向かうわ。晋助は?」
「オレは、松下村塾に帰る」
「そう」
「一緒に帰るか?」
悪戯に笑われて、手を伸ばしてくる。
けれど、私はその手を軽く叩いた。
「嫌よ。先生になんて思われるか解らないもの」
「いいじゃねェか。先生に報告するのも」
「何をなんて報告するのよ」
「……………仲良くやってます、ってか?」
「勝手に報告すれば?」
呆れた溜息を盛大に吐いて、私は晋助に背を向けた。
「それじゃあ、私は行くわね。あまりヤンチャしちゃ駄目よ」
「………じゃあな。お転婆も程々にな」
背中に届いた声に振り返らずに返す。
「互いに生きてたら、また逢いましょう」
ひらひらと手を振って、私は歩き出した。
こんなにもあっさりと別れられたのが不思議だった。
また逢おうと突いて出た言葉に自分でも驚いた。
晋助がこれから何をするのか、何を企んでいるのか…全て解る。
私がこれから何をするのか、何を企んでいるのか…きっと解ってる。
遣る事が違えど、目的は同じ。
全ては、松陽先生の為。
星芒教を、天導衆を、奈落を。
そして、虚を叩き潰す。
今度こそ、松陽先生を救う為に──
その想いは、松下村塾の生徒全員が抱いている。
故郷に残った同門、戦場で別れた同門、共に足掻く同門…
皆の想いは、常に一つだと──
「…私は、そう信じている。アンタはどうかしら──小太郎」
江戸に着いたその足で、総理官邸に侵入し、総理大臣の背後を取った。
「俺も信じていたさ。つい先程までな」
スーツに身を包む背に一つ突き付ける。身動きが取れない男が振り返らずに告げる。
「まさかお前に暗殺される日が来ようとはな」
「アンタの気持ちを教えて。返答次第ではこのままグシャッといくわ」
「クッ…卑怯な」
「さぁ、話してちょうだい」
小太郎が何故総理大臣なんてものになっているのか、その真意を訊いた。
想像は、ある程度出来ていた。
けれど、本人の口から説明してもらわなければ意味がない。
国のトップになれば、日本各地の情報が集め易いと読んだという。
その通り、情報は着実に集まった。
星芒教の事も天導衆の事も奈落の事も、虚の事も把握していると云う。
九曜を引き擦り下ろさんと画策していると云う。
行動の意図は、唯一つ。
──弟子として、松陽先生の為。
結局、私達は同じ事をしているらしい。
それが確認出来ただけで充分だった。
背中からそれを引き抜き、振り返って来る小太郎の手にそれを乗せた。
「土産よ。好きだったわよね」
「あぁ。良かった、グシャッと暗殺されずに済んだか」
手に収まる“んまい棒”を見て、笑った小太郎に私も笑みを浮かべた。
「して。紫乃、お前の方は何をしていた」
「小太郎と同じような事よ。晋助と共に動いていたわ」
「高杉と?あの日消えたアイツを見付けていたのか」
「えぇ。そして、星芒教の本山・九曜を引き擦り下ろす為に戻って来たわ」
「俺達は、何処まで行っても松陽先生の弟子だな。みな、目的は同じか」
「銀時もね。今頃、晋助がアイツの大切にしてるモノを奪いに行ってると思うわ」
「奈落が狙っているというアレか」
「小太郎は、アレが何か解る?」
「──虚の心臓」
「松陽先生の心臓、かもしれない」
「だが、残しておけんモノだ」
「そうね」
「……アイツらが動いたというのなら、俺も始めるか」
そう呟く小太郎の顔は、アイツらに負けぬ悪ガキの微笑みだった。
「私は、暫く江戸を観光してくるわね」
「相変わらずフラつきおって」
呆れて頭を振る小太郎ににこりと微笑って、私はその場を後にした。
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