夜桜酒血
縁側に座って、三味線を弾く。
月夜に瞬く星はどこか弱々しく見える。
“ねぇ、三味線を教えてくれないかしら?”
“三味線でござるか?それなら晋助に教わればよかろう”
“無理ね。晋助に教えを乞うなんて”
“恋人なのに、か?”
“そんな関係じゃないわ。それに喩え恋人だとしても、教わるのは別の話ね”
“そうか。拙者で良いのなら、指南するでござるよ”
私の三味線の師は、貴方なのよ。
まだ教わりたい事が沢山あったのに。
“筋が良い。その調子ならすぐにプロになれるでごさろう”
“プロは云い過ぎじゃないかしら”
“いや………お主、本気で拙者にプロデュースされてみぬか?”
“ふふ…。嫌に決まってるでしょう?”
“主ならお通のようになれると思ったのだが”
“職業病ね”
世辞か本音か知らないけれど、誉められて厭な気持ちは無かった。
貴方はいつも正直だから。
ねぇ、万斉。
届いてる?
「隣、いいか?」
「………ええ」
空を見上げながら三味線を奏でていると、隣に座った気配がそっと三味線の音色を重ねてきた。
言葉も無く重なる音。
“主は飲み込みが早いな”
“先生が良いのよ”
“教え甲斐のある生徒が良かったでござる”
“いつかもっと上達したら、晋助と三人で一緒に奏でましょう?”
“そうでござるな。晋助の機嫌の良い時にでもセッションするとしよう”
二つの音色は、鎮魂歌なんて奏でたりはしない。
貴方が好きだった音楽を弾いて、決して哀しまない。
染みっ垂れた空気なんて鬼兵隊には合わないもの。
晋助が率いているんだもの、派手にいかなきゃね。
──ベン………
「!」
私達では無い三味線の音に、私も晋助も其方を振り返った。
「……あぁ、なんだ。万斉も入りたかったのね」
その音がした先には、万斉の三味線が置かれていた。
「そうだな。トリオといこうじゃねェか」
もう一度旋律を奏でると、万斉の三味線が共鳴して音を鳴らした。
やっと…三人で共演出来たね。
私達もいつかそっちに行くから、待ってて。
「おやすみなさい、万斉」
-終。
※このお話は、単行本71巻を読んだ直後に書いたものです。
お疲れ様という言葉を贈りたくて書きました。
時間軸が何処にも属しませんが、ネタバレもあるので原作沿いに置く事にしました。
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