隠れんぼ
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情報屋・紫燕として、全宇宙を股に掛けた私の持ちうる全てのコネクションを駆使し、松陽先生の事を調べた。それが、虚という存在の一部である事も、天導衆の全権を握ろうとしている事も、春雨を手中に収めようとしている事も、今現在の居場所も、全て調べ上げた。
同じ頃に晋助が一橋と手を組んで現将軍を暗殺しようとしていた。
晋助を止められなかった事を少しだけ悔いて、それ以上に銀時に託すしかなかった。
腑甲斐無い自分に鞭打つように、自分の成すべき事に専念した。
そう。私は、接触しなければならない。
あの男と。
その為の糸は垂らした。
凄腕の情報屋と売り込んだ。
目当ての獲物が掛かるのに、然程時間は掛からなかった。
「情報屋紫燕です。宇宙海賊春雨の総大将にお目通りを」
春雨の艦船に乗り込んで、天人に案内される。
建物のように広い艦内を歩けば、周囲から奇異の眼で見られる。
不躾な視線も意に介さず、前を行く天人に付いて歩いていくと、一つの扉の前で止まった。
扉が開くと、中に一人の男が居た。
鳥の羽根をあしらったような外套に身を包み、ゆっくりと此方を振り向いてくるその顔は、口許を烏を思わせるマスクで隠している。
唯一つ見える目許は、湾曲を描いて笑みを湛えていた。
一歩中へ踏み込むと、案内していた天人とを隔てるように扉が閉まった。
春雨を掌握している男──虚。
「やっと逢えましたね───松陽先生」
そう口にすれば、虚の瞳が俄かに開かれた。
太陽のような温かさも輝きも何も映していない瞳。
「…私を、知っているのか」
包み込むような声は、押し潰されるような声。
「いえ…もしかしたら他人の空似だったかもしれないわ」
コレを先生と呼ぶには、余りにも乖離している。
「………まぁ、いいでしょう」
頭を振った私を暫く見詰めた虚は、問い詰める事も無く本題へと移った。
攘夷戦争終焉の刻、確かに銀時が斬った首は何事も無かったように繋がっている。
松陽先生が没した後、この男が蘇るようにその身体を使っている。
松陽先生も虚も元は同じ男。けれども、似て非なる別の存在で在る。
こうして対面しても、何処にも松陽先生の面影は見付けられない。
それでも、どうしてだろう。微かに懐かしい匂いを感じるのは……。
依頼を受けた情報を集めに出て、そろそろ戻ろうとした矢先に武市さんからの連絡。
向かえば、瀕死の晋助を見舞う事になった。
本当は、不安が過ぎった。けれど、彼は鬼兵隊に任せておけば大丈夫だと確信した。
集めた情報を全て虚に明け渡す。
本来なら相手の情報に一切の興味を持たないけれど、今回ばかりは解ってしまう。
その情報を得て、何をしようとしているのか。
私をも乗せた船は、一つの星に吸い込まれていく。
大気圏より中へ入ると、眼下にガラクタのような街が広がっていた。
柄の悪い天人達や貧しい天人達、行き場の無い者達の吹き溜まりの星──烙陽。
あの神威が生まれ育った星。
そして、鬼兵隊がもしもの時に落ち合う予定の星。
そう。私は、仲間を売った。
だけど、一つ…望みは託した。
今も尚、昔と変わらず友と呼んでくれるかつての仲間に。
春雨の戦艦が烙陽上空を包囲するように浮遊する。
コクピットで虚と共にモニターを見詰めた。
銀時が来てる。
小太郎が来てる。
辰馬も来てる。
無事合流出来たようで、そっと安堵した。
「お前は、行かなくていいのか?──荒姫よ」
モニターを見詰めていると、後ろから声がした。
振り返れば、かつての仇敵・朧が血色の悪い顔で見てくる。
「行っていいのかしら?」
「私を退けられたならな」
何を考えているか読めない瞳は、十年前と変わらない。
可能なら、今すぐに刺して殺してしまいたい。そんな感情を理性で抑え、自嘲の笑みを口許に浮かべた。
「十年前も敵わなかったのに、戦に身を置いていない今の私に出来るとでも?」
「何時までも噛み付いてきたあの時とは、まるで別人だな」
「それでも、戦うべき相手くらい心得ているつもりよ」
「……………その眼は、変わらぬか」
あの時、朧と対峙し、戦い、そして捕われた。
何故、結果あの時晋助を助けたのか。何故、私を異星へ売り飛ばしたのか。
「一つ、訊いてもいいかしら?」
「なんだ?」
「私を売り飛ばしたのは、どうして?」
「金の為だ」
「何故、もっと酷い星に売らなかったの?」
「それを訊いてどうしようというのだ」
「……………確かめたいだけ。アンタの真意を」
「そんなものは、何処にも存在しない」
あの星は、確かに奴隷を求めていたが、その見解が違った。私に苦痛を与える事など無かった。寧ろ、あの星で私は自身の性に目覚めた。
まるで、私の性格を知っていたかのような身売り。
晋助といい、私といい、被害を最小限に抑えようという意志が見え隠れする。
その意図が私には解らない。
敵である朧がどうして、私達に温情を掛けたのか。
それだけが、見えない。
何も話さなくなった朧も、地上が騒がしくなったのを見計らって行ってしまった。
私は、今一度虚を見据える。
「松陽が弟子…あなたは、何を成さんと此処にいるのです」
視線を受けて、虚がモニターを見ながら問うてきた。
モニターには、小太郎と銀時が各々の敵と戦ってる様が映し出されている。
「取り戻したくて」
「……それは?」
「──松陽先生」
自分でも驚く程、穏やかな声が出た。
その名を呼ぶだけで、私の心は温かくなる。
「ほお…死んだ者を、誰から、何から取り戻すというのですか?」
徐に振り返ってきた虚の表情は、浮かんだ笑みとは対照的に身震いしそうなモノだった。
けれど、見慣れた顔の見知らぬ微笑みに臆している場合じゃない。
鬼兵隊を裏切ってまで自分を売り込み此処に居るのは、生半可な気持ちじゃない。
飲まれぬよう強い意志を持って、虚を真っ直ぐに見詰めた。
「アンタからよ──虚」
そっと開かれた瞳に、未だ先生の熱は見付けられない。
「松陽先生……いつからそんなに隠れんぼが上手くなったんですか?」
呼び掛けても尚、先生は現れ出でなかった。
昔は、才能が無いんじゃないかってくらい簡単に見付けられていたのに──
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