祭
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仕事で晋助達と別行動を取って、戻る頃には会津に潜伏していると訊き、江戸に降り立ったその脚で会津へと向かった。
江戸のような高層建物は無く、昔ながらを保っているがそれでも活気に溢れた街は、なんとも平和に見える。
そんな街の住宅地の一角に長屋を幾つか買ってあるそう。鬼兵隊が散り散りに潜伏しているのだとか。
晋助が住まう家屋へと向かう途中、提灯の灯りを見付け、誘われるように其方に脚が向いた。
直ぐにそこそこの規模の祭会場に出会す。
屋台が立ち並び、子供から大人までごった返し、美味しそうな匂いを漂わせ、賑やかな景色を見せてくれる。
丁度祭時期だったらしい。
一人、的屋を見て回る事にした。
なんとも懐かしい光景。
松下村塾の頃を思い出す。
神社であった祭に皆で行った。
「これで好きに遊んできなさい」
そう云って、松陽先生が皆の掌に硬貨一枚を乗せていく。
「よっし!綿菓子ーっ!!」
「今日こそはヨーヨーを全部釣り上げてやろう!」
銀時と小太郎が我先に人混みを縫って消えていった。
「アイツらはしゃぎすぎだろ」
「そういう晋助もワクワクって擬音見えるよ?」
「何言ってんだよ。祭は楽しむもんだ」
そう云って晋助も人混みに消えていく。
残った私は先生を見上げた。
「先生は?」
「私も行ってきます。屋台制覇してきますね」
一番の大人が一番燥いでた。
皆、無邪気に楽しむ姿に私もその雰囲気を楽しむ事にした。
先生から貰った一枚の硬貨をどう使おうか、屋台を一つ一つ物色する。
あれもこれもとなっていては直ぐに無くなる為に悩んでしまう。
「お、紫乃~」
誰よりも先に出た銀時と逢った。
その両手に四つの綿菓子袋を持って、更に綿菓子を一つ既に食べている。
全部それに注ぎ込んだのか…。
「お前まだ金持ってる?」
「うん。まだ使ってないよ」
「じゃあ、綿菓子一つおごって」
「………………」
何云ってるの?この子。
「五百円って意外とすぐなくなんのな」
「そうね。アンタの場合そうね」
「だからおごって」
「綿菓子なら両手に持ってるでしょ」
「えー?これじゃ足りねぇよ」
「綿菓子なんてすぐ消えるもの。……あ、リンゴ飴は?」
「え?いいの?アレ百五十円だぜ?」
だから百円で買える綿菓子五個ね。質より量だなんて銀時らしい。
「いいわよ。ちょっと待ってて」
小さく微笑ってリンゴ飴を買いに行く。
祭になるとどうしてリンゴ飴とか食べたくなるのか不思議ね。
あんな食べにくい物なのに。
買ってきたリンゴ飴を銀時に渡すと嬉しそうに受け取って何処かへ消えていった。
そして、また店を物色する。
すると、一つの屋台に熱心な背中を見付けた。
「小太郎、釣れてる?」
「今話し掛けるな!ここが正念場なのだ」
「あ、ごめん」
ヨーヨー釣りで真剣な表情をする小太郎の隣にしゃがむ。
ぷるぷると震える手が一つのヨーヨーを掬っている様をじっと見ていた。
上まで持ち上げて笊に移動させようとした小太郎だったが…
「よし!…………あ!」
笊に乗る前に紙が切れてヨーヨーは水の上に逆戻り。
水飛沫が顔にかかった。
「おのれ…ヨーヨーの分際で!」
握り拳を作る小太郎の手許には一つのヨーヨーも無かった。
果たして何回やったのか…。
「何回したの?」
「これで最後だった」
だからあれ程悔しがったのね。
「じゃあ、私も一回」
百円を渡すと、針の付いた紙の糸を渡される。
水に触れないように慎重にやるのを隣で小太郎が真剣に見てくる。
もう少し右だの水が付くだの煩い中、ゆっくりと引き上げたヨーヨーを笊へ移す。
「取れた」
「おおっ!やるではないか紫乃」
「ふふ。はい、小太郎にあげる」
「え?しかしお前が取ったのだから…」
「いいの。あと、コレも小太郎にあげる」
ヨーヨーとまだまだ元気な紙糸を小太郎に渡すと、遠慮しながらも嬉しそうに引き継いで、再びヨーヨー釣りに熱中した。
小太郎と別れて、何か食べようかなと腹を鳴らしていると…
「っし!」
拳をグッと握る晋助を見付けた。
もう片手にはコルク銃。
射的屋のおじさんが今し方晋助が狙い落とした物を拾って渡した。
そんな晋助の隣に立つ。
「何取ったの?」
「うわっ!?」
「……ごめん」
そんなに驚かれるとは思ってなかった。
「な、なんだよ…お前も射的やんのか?」
「うーん…そうね。一回やってみようかな」
晋助の隣で銃とコルク四個を貰って、早速棚にある物を狙う。
けれど、射的なんて初めてだから中々標準を合わせられない。
どう構えればいいのかも解らない侭に引鉄を引けば、コルクは在らぬ方へと弾かれた。
「むず…」
「下手だな、紫乃」
晋助に小馬鹿にされて、火が点いた。
もう一度構えて撃つ。が、先程と変わらない。
もう一発、今度は少し構え方を変えて撃ってみた。
「……全然中る気がしない」
おじさんも苦笑いしてくる中、隣から小さな溜息が聴こえた。
そこまであからさまに呆れなくても…。晋助を睨もうとすれば、晋助の方を向くより先に晋助が私の手を取った。
「構え方、もう少しこう脇を締めろ」
重ねた手を誘導されて、気付けば晋助に背中から包まれるような体勢になっていた。
「で、この目印と先の目印、それから獲物が重なるように合わせるんだよ」
背中から伝わる温もりに鼓動が速まっていくのを感じる。
どうしてこんなにドキドキするのかなんて、この時には気付く由も無かったけれど、きっとこの頃にはもう惹かれていたのかもしれない。
「最後に、ゼッテー仕留めるって気持ちで行け」
私から離れて顎で指された。仕留める気持ちは良いけれど、動悸が激しい状態で標準なんて合わせる事など出来ず、結局外れた。
それを見て「お前センスねぇな」と呆れられたけれど、半分は晋助の所為でもあったのよね。
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