追憶-夜-
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雨もすっかり上がり、ぬかるんだ山道に一つの足跡が続いていた。
その足跡の先に、新たな足跡を付ける晋助の姿がある。
星空が見え始める道は、静寂に包まれている。
その静寂を破ったのは…
「私だったのね…」
「ア?」
背中からした声に晋助は眉根を寄せた。
晋助の背中には、凭れて身体を委ねる紫乃がいた。
「男だとか女だとか…囚われていたのは、私だった」
「………勝手に囚われて勝手に雁字搦めになっただけだろ」
紫乃を背負い直しながら、晋助は一人歩いて行く。
「けれど、女を出したらそれこそ迷惑だと思ったの」
「誰に迷惑なんだよ」
「それは……………誰にだろう?」
「何をした所でお前が女である事実は変わらねェ。女をどうこうするより、お前はお前らしく生きればいいじゃねェか」
「私らしく…」
「隠す必要ねェよ。全部曝け出して、堂々としていろ」
「……堂々と?」
「あぁ。紫乃らしく、堂々とな」
「…………………」
紫乃は、眼を閉じると晋助の言葉を深く胸へと刻み込む。
「ありがとう、晋助………」
穏やかな声に晋助はそっと笑みを浮かべた。
それから再び静寂に包まれる。
「そういや、紫乃。お前いつも………」
晋助が紫乃に意識を向けると、紫乃から規則正しい吐息が聴こえてきた。
「寝てやがらァ」
安心し切った様子で背中に全てを預けて眠る紫乃。
退路を護る戦をして、その後にも無理をさせた。
気も張っていただろうし、疲れが出たのだろう。
晋助は、口を閉ざして山道を歩いた。
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