融雪
Name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「はぁ~…………」
吐き出した息が、白い。
それは、すぐ空に消えていく。
「はぁ、寒…」
そう呟けば、空から雪が降ってきた。
「雪………道理で寒いわけよね」
手を出せば、ふわりと落ちてくる。
けれど、すぐに溶ける。
掴めそうで掴めない。
「まるで誰かさんみたい」
「そいつは…お前か?」
背後からした声。
振り返る事もなく、背中で気配を感じる。
「私?」
「触れれば、溶けて消えそうじゃねェか」
「そんなに儚くないでしょ?私は」
「どうかねェ」
私は、軽く眼を瞠った。
まさかそんな風に見られていたなんて思っていなかったから。
「紫乃」
すぐ後ろで呼ばれた名が、妙に熱を持っているようだった。
「テメェは溶けたら消えて無くなるか?」
「どうしたの?そんな風に訊くなんて…らしくないわね」
「オレらしいってのは、なんだ?」
後ろから伸びてきた腕がすっぽりと私を覆う。
「少なくとも、私が知ってる晋助はこんな風に優しく抱き締めてはくれないわね」
「ほォ?」
「熱でもあるんじゃないかって心配になるわ」
「熱があるのはお前だろう?ほら、こんなに熱いじゃねェか」
そう云うと、晋助は着物の合わせから静かに手を滑り込ませてきた。
「晋助が抱いてくれてるからよ。溶けるかも」
その手を掴んで制止してみるけれど、どうにも止まりそうにない。
「望み通り、溶かしてやるよ」
「消えちゃうかもしれないわよ?」
「そいつァ困るねェ」
そうは全く思ってない音色で、晋助は私の素肌に触れてくる。
後ろから抱き留められているから逃げる場所なんてないのは解っているけれど、どうしても慣れない行為に私の身体は自然と逃げを打つ。
「紫乃」
低い囁きで呼ばれる名は、甘美の響きを私に齎す。
「───消えるなよ」
泣きたくなるくらい切なくなった。
晋助が与えてくれる熱で、私の心も身体も溶けていく。
ゆらゆらと降る、あの雪のように…。
だけど、きっと………
「…………ぁ、晋…すけ…」
「──もっと…啼け」
雪も溶けたら、ただ消えてなくなるだけじゃないんだろうな──。
晋助に抱かれながらそんな事を思うと、少しだけ心が軽くなった。
-終。
1/1ページ