白と黒
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戦に参加して一ヶ月が経とうとしていた。
もう何度か襲い来る天人と刀を交えた。
圧されつつあった戦況も私達が加わった事で好転し始めているらしい。主に銀時と晋助の戦果が大きかった。
戦慣れしている銀時を先陣に戦場を駆ければ、負けず嫌いな晋助が張り合うように暴れ回る。そんな二人に、残りの私達は呆れつつも頼もしく思いながら付いて行っていた。
先輩達もそんな私達を認めてくれていた。
そんな中、江戸に近付く為に陣を北上させる事になった。支援してくれる町人達へ被害が及ぶ前に陣を移動させるのが鉄則だと教えられる。
五日後には移動を始める為、兵達に移動前の準備の時間が与えられた。
衣服や武器など必要な物を用意するなら、町で買い物をして来いと隊長にも云われ、私は同門の皆と町に出ていた。
「こっちの袴はどうだろうか」
「さっきのとどう違うの?」
「見て解らんか?全然違うではないか」
「…………………解んない。同じにしか見えない」
「紫乃、お前はもう少し観察眼を養うべきだぞ」
「結構眼は良い方だと思ってたよ…」
「ちょいとお兄さん」
「お兄さんじゃない、桂だ」
「桂さん…それとさっきの、全く同じやつだよ」
「…………………………………そうか。道理で」
「道理でじゃない!アンタが観察眼養え」
「痛ぁ!」
呉服屋で小太郎が袴を選んでいたが、同じものを比べて悩んでいただけというなんとも不毛な時間を過ごした。
小太郎の頭に手刀を軽く当てて、奥で店主の旦那と話している晋助の下へ向かった。
「……カッコ良く頼む」
「はいよ。それじゃ、採寸するから服脱いで」
「あ?今すぐか?」
「仕立てんのに時間も無いだろう?」
様子を見に来たけれど、採寸の為に着物を脱ごうとしていた晋助と眼が合ってしまった。
「なんだ?」
「どんな様子かなって思っただけ」
「見ての通りだ。今から裸になるぜ?」
ニヤリと悪戯な笑みを浮かべて胸元を少し開いた姿に、心臓が跳ねた。
「見物しててもいい?」
「…………やめろ」
それに気付かない振りをして、同じような笑みを返せば、晋助の表情が一瞬で不機嫌に変わった。
照れてるんだなと解る。
小さく笑い声を立てて、その場を離れる。
着物の見本が置いてある棚で、う~んと唸る後ろ姿を見付けた。
「何か悩んでるの?銀時」
「ああ、なあ!紫乃は、赤と白どっちがいい?」
「赤と緑じゃなくて?」
「いや、うどんと蕎麦の話じゃねぇよ」
銀時の手には、赤い反物と白い反物があった。
猩々緋ともいえる鮮やかな赤と、汚れのない真っ白な白。
何方も青空の下で映えるだろう色味だ。
「私は、赤が好きかな。あ、でも銀時に似合うのは白かな」
「俺はなんでも似合うだろ」
なんて話しながら、各々が注文を終えた頃に店を出た。
次いで向かったのは、鍛冶屋。
武器の新調をしたいと云った彼らに付いて行く。
「…なんかさ、伝説の剣みたいなやつねーかな」
「道具屋行けばあるさ」
「いやー、今の俺にとっての道具屋はここしかねぇんだ。親父、作ってくれ」
「あーわかったわかった。ほら、そこの籠に入ってんだろ」
「マジでか!……………って、これ竹光じゃねぇか!!」
鍛冶屋の親父と漫才のようなやり取りをする銀時の声を背中に受けながら、壁に掛かる太刀を手に取ってみた。
隣では、晋助と小太郎も刀を手に取っている。
打刀よりも刀身の長い太刀は、鞘から引き抜くのも大変そうだ。
抜刀術を使うのなら、長刀の方が速さも乗って良いかもしれないが、私は居合が得意ではない。
「紫乃、お前そんな長ぇの扱えんのかよ?」
「んー、どうだろう。やっぱり短い方が良いかな?」
晋助に訊かれ、首を傾げる。
其処へ、背後から私の肩に顎を乗せて覗き込んでくる奴が居た。
「長い方がいいに決まってんだろ」
「なんで?」
顔の横に白いもじゃもじゃがチラつく。
その先に冷めた表情の晋助が見切れて見える。
「そりゃあ、長い方が奥まで行けるからな」
「………………………」
「太けりゃ尚良しだな。そしたら奥の奥まで届いて、ポル──」
「「なんの話してんだぁぁぁ!!」」
ドカァ!!
「ぶべら!」
私と晋助の脚を腹部に喰らって、銀時は店の端へと吹き飛んで行った。
「全く、お前達は静かに買い物も出来んのか」
転がる銀時に小太郎の呆れた声が送られた。
なんて、賑やかな買い物も無事に終え、移動の予定日。
私達は、新調した装束に身を包んでいた。
と云っても私や小太郎、他の皆もあまり大差なくて代わり映えはしない。
しかし…
「おおー。高杉カッケー」
「それ、洋装じゃん!いいなぁ、俺もそういうのにすれば良かった」
相弟子達からキラキラした眼差しを受ける晋助。
和装から一変。真っ直ぐ伸びたズボンにベストの肌着。裾の長い外套。
黒っぽい生地に
そして、腰には鍔の無い長めの直刀。添える手には、指先の無い手袋。
「それで採寸してもらってたんだね。洋装なんて思い切ったね」
「いつまでもあのバカと同じ格好ってのが気に喰わなかったからな」
云わずもがな銀時を指しているのだろう。色味や細かな部分で差異はあったが、同門達は皆似たり寄ったりな服装で参戦していた。
「てか、それはこっちのセリフだ。何同じ理由でイメチェンしてんの?」
そう文句垂れる銀時へ視線を寄越せば、私は…私達は唖然とした。
「銀時、お前…その格好で戦をするつもりか?」
呆気に取られながら確認する小太郎に、銀時はニヤリと笑んだ。
「目立つだろ?」
「目立ちすぎだろ!お前、白って!」
「あの時選んでたのって普段着の方じゃなかったんだ…」
赤と白の目立つ色で悩んでいたのは、戦用の服だったなんて。
「高杉と同じような色が嫌だったから、ぜってーアイツが着ない色にしたんだよ」
「だからって白はないだろ。お前どうするんだ!」
「いや、だから目立っていいだろ?」
「目立ちすぎるぞ!俺は知らんぞ、カレーが飛んでも」
「そっちかよ!戦中にカレーなんて洒落たもん喰えねぇよ!」
小太郎のズレた意見に呆れながら、銀時がどうして目立つ色を選んだのかを考えてみた。
暗闇に紛れる分には色なんて関係無いけれど、日中や月明かりの下では光を反射させるような白い羽織。肌着も袴も灰よりだが白っぽい事に変わりない。
「銀時、お前ちょっと膨らんで見えるけど大丈夫か?膨張色みてぇになってるけど」
「え?マジでか……いや、見ようによってはデカく見えるってことじゃねぇ?」
優平に半笑いで云われ、銀時が真っ白な羽織を翻しながら自分の姿を確認する。
「ただのデブにしか見えねェ」
「はぁ?チビに云われたくねぇんだけどぉ」
晋助が嘲るように笑えば、銀時が条件反射のように云い返す。
そうなれば、始まるいつものアレ。
「それともアレか?その爆発した頭紛らわしてんのか?」
「え、なにぃ?俺が大きく見えるからって嫉妬ですかー?」
「横にな!」
「高杉君は縦にも横にも小さすぎるもんねぇ。黒くてきっちりした服着て更に小さく見えてるけど大丈夫ぅ?」
「テメェにゃ着こなせねぇからって僻むなよ」
「いやそれお前だろ」
「テメェだろーが」
「お前!」
「テメェだ」
「おま……」
「テメ……」
「さ、みんなそろそろ行くぞー」
小太郎の声に全員が本隊に合流すべく歩き出す。
額をぶつけ合い「お前」「テメェ」と繰り返す晋助と銀時を残して。
相変わらずな二人に呆れる私達だけれど、移動した先で新調した服で戦を再開させるとアイツらが何故あんな服を選んだのか瞬時に理解した。
皆と違う黒い洋装の晋助。皆と同じ和装だけれど太陽光を反射させる白の銀時。
双方、私達からも敵からも一目瞭然な程に目立ち際立ち、存在感を放っていた。
二人とも、敵の眼を自分に引き付ける為に目立つ格好にしたのだと。
戦中、二人にばかり向かっていく敵兵を見て確信した。
アイツらは本当に……
残った私達は、互いに情けなく笑い合って、しかし二人に護られるばかりじゃないと証明するように
その白と黒に混ざって行った。
-終。
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