Reflexes
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「声出してけ!」
「オーッ!!」
「早川!飛ぶタイミングもっと見極めろ!」
「はいっ!!」
「森山ぁ!!お前はどこ見てんだぁ!」
「あの角にいる子…あの子のために今日は決める」
「ウルセーッ!!」
「笠松さん、相変わらず元気ですね」
「いや、元気とは違うと思うんスけど」
私は今、とある学校の体育館の設置された椅子に座っていた。
眼前に広がる右に左にと行き交うユニフォーム姿の若者達を眺めている。
ウィンターカップを目前に控え、近隣校に協力を仰いでの最終調整を兼ねた練習試合だそうだ。
そんな試合に、涼太に懇願されて記録係という形で私も同行させられ、今此処に至る。
「茗子、スコア付けるの上手いっスね」
「上手いとかあるんですか?」
「見やすいっス」
私の膝にはノート。ゲームのデータを忙しなく書き綴る。
そして、隣に座ってノートを見てくるのは涼太。
「あの、肩が重いのですが」
「あ、そこ間違ってるっスよ」
「……………」
聞く耳無しか。
涼太は気付いているのかいないのか、態とか天然か。
体育館の入口と2階のギャラリーを埋め尽くす女の痛い視線なんてお構い無しだ。
この学校を訪れた瞬間、海常バスケ部は歓迎の嵐を受けた。主に女子生徒から。主に、涼太が。
校外でもその人気は凄まじい物がある。モデルとして活躍し、高校バスケ界でもその才能で注目を浴びている。
女が騒ぐ外見であるのは勿論だが、受けた声援に気軽に応える姿が親近感を呼び、人気に拍車をかけているようだ。
彼と懇意にしたいと思っている人はどれくらい居るだろう?
涼太に恍惚とした眼差しを送り、私には強い嫉視を向けている…この全員だろうか?
皆、あの女はなんぞやと思っているに違いない。
目当てのモデル黄瀬涼太が、その煌めく髪色の頭を無防備にも隣に座る女の肩に乗せている。
その近過ぎる距離感な女は一体涼太のなんなのか!と。
皆、怒気を孕んだ表情で伝えてくれていた。
「茗子、楽しそうっスね」
「そうですか?」
「データ書くの好きっスか?」
「…そうですね。纏めて、展開を予測するというのは楽しいですね」
「予測?」
「はい。このデータから次に起こり得る事を予測してみるんです。今の所五分ではありますが当たってますよ」
「五分じゃ予測とは………あ、でも茗子って桃っちと同じってコトっスね」
「桃っち?今度はどなたですか」
「中学の時のバスケ部マネージャーっス。データの解析と予測がスゴい子なんスよ」
「マネージャー…バスケはされない方なんですか?」
「するかは分からないけど、一緒に試合出るコトは無理っスね。女の子スから」
「女の子…」
「何度も助けられて頼りになったけど、敵になった今は厄介なほどスゴい子なんスよ」
「へぇ~、頼りにですか。それは良かったですね」
「…ん?茗子、なんか声……えっ!?まさかヤキモチっスか!?」
何故そこで喜ぶ!
「知らない方には妬けません」
「とか言ってむくれてるじゃないっスかぁ。え、ホントに?」
「違います!」
「うわ…ヤバイ。可愛いし嬉しいし可愛いし嬉しいし」
「違いますってば」
「あーもう、大好きっス!茗子。ん~…」
肩からやっと顔を上げたと思ったら、そのまま私の頬に唇を寄せてきた。
ギャラリーが騒然とする。
「人様んトコでイチャついてんじゃねーっ!!」
──ドカァ
「アダァッ…!」
──ガシャーン
頬にキスして来ようとしていた涼太の姿が忽然と消えた。
「……………ご愁傷様、涼太」
笠松さんの怒りの飛び蹴りをダイレクトに食らい、椅子ごと後ろに倒れ込んで動かなくなった涼太に手を合わせた。
「助かりました笠松さん」
「てか、お前がコイツ止めねーでどうすんだよ!!」
「すみません。以後抜かり無く」
「ったく。メンドクセー二人だな」
呆れ返って腕組みする笠松さんに苦笑を漏らすと、消えた視界の下で動く気配を感じた。
「っっ、痛いっスよ~センパーイ。怪我したらどうするんスかぁ」
もそっと起き上がる涼太を笠松さんと見下ろす。
「んなヘマはしねぇ」
「いや、コレ結構危な──」
「黄瀬」
「っはい!」
落ち着き払った声で呼ばれ、涼太はビクッと姿勢を正した。
最早パブロフの犬だな、涼太は。
「交代だ」
「え?あ、はい!」
お咎め無しで更には交代を言い渡され、涼太の顔は瞬間的に明るくなった。
バスケの事となると本当に変わり身の早い人だ。
表情を引き締め、森山さんと入れ替わりでコートに立つ。
先程までの様子が嘘のように涼太の纏う空気が張り詰めている。
その姿に此処に居る女全員が惹き付けられる。私も例に漏れず。
「はぁ~、こんなトコでもイチャつかれると目に毒だ」
涼太が座っていた椅子に座った森山さんが嘆くように言った。
タオルとドリンクを手渡す。
「すみません。涼太には言って聞かせますから」
「まさか黄瀬とくっつくとは思わなかったな」
「私も思っていませんでした」
「やっぱり、女の子は黄瀬の方がいいのか?」
「さあ?少なくとも私は森山さんの事は嫌いではありません」
「でも、好きでもない…だろ?」
「はい」
「茗子ちゃんにフラレたの2回目になった」
「それは残念ですね」
「残念だよ本当」
はあっ、と溜息を吐く森山さんに苦笑を浮かべてコートの方を見た。
丁度涼太がシュートを決めたらしく、黄色い声が飛び交った。
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