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「っあーー!!どこでも的なドア欲しいー!」
暗く静まり返った廊下を走る。自分の教室へ向かって。
今日も練習を遅くまでやってた。
笠松先輩と森山先輩が一緒に残ってたから余計長く練習に時間を費やした。だから、教室への廊下は非常灯以外の電気が消えてる。
そんな中を孤独に駆け抜けてるのは、忘れ物を取りに戻るためだ。
ロッカールームで着替えてる最中、携帯が見当たらないコトに気付いた。
確か机に入れたような記憶があるから教室に置き忘れてるはず。
携帯はないと困る。仕事関係の連絡とかあるし、何より!
夜、彼女に電話出来ないってのが辛い!
だから早く帰ってゆっくり電話したいワケだ。
なのに、校内広くてムカつく。空間がオレらの邪魔すんなっつの。
「っあーー!どこでもなドア欲しいー………あれ?」
自分の教室のある廊下に差し掛かると、明らかに自分の教室より手前の教室から明かりが漏れていた。
こんな時間まで誰か残ってんのか?なんで?
手前でスピード緩めて、歩いてその教室を通り過ぎた。
自分の教室はその2つ先だ。
通り過ぎる時に気になって閉められたドアの窓から視線だけで中を見てみた。
「………………」
一人、教室のド真ん中に生徒がいた。
その教室を完全に通り過ぎた時、オレは足を止めた。
「………え、なんで?」
そして、バック。
もう一度その教室を、今度はちゃんと覗き込んでみた。
一人、教室のド真ん中の席に座る女子。
頬杖着いて俯いている。その机には紙、手にはシャーペン。
オレはドアを開けて中に入った。
「何してるんスか?──茗子」
「………………」
一人、教室のド真ん中で頬杖着いて俯いているのは、オレの彼女──茗子だった。
茗子がこんな時間まで残ってるなんてオレが知る限りじゃ初めてだ。
てか、考えてた彼女にこうして逢えるなんてオレツイテる!
返事のない茗子の前まで行って、顔を覗き込んでみた。
ははっ、そりゃあ返事しないよな。寝てるし。
「茗子~、風邪引くっスよ~?」
今にも崩れそうな頬杖をしてる茗子の肩を軽く揺さぶった。
時間も時間だし、起こさなきゃマズイだろ?
「…ん、………」
「茗子ー?起きてー」
「………はっ!?」
「うおっ!?」
急に顔を上げたからビックリした。
パチクリと瞬く瞳がオレを捉えてくれたから、オレは笑顔を浮かべる。
「………涼太?何してるんですか?こんな所で」
「いや、それ全面的にオレの台詞っスけど」
冷めたような呆れたような声と眼差しで言われて、笑顔が一瞬で崩される。
オレの無敵スマイルが通じない女の子って、この学校じゃ茗子くらいだよ。
「何してたんスか?こんな時間まで」
「補習です」
「補習?…え、茗子成績悪いんスか?」
そういえば、茗子の学力とか全然知らない。
てか、茗子のコトほとんど知らない…うわ、ヘコむ。
「この前の考査で0点を取りました」
「れっ……マジっスか…」
頭の回転速いから勉強も出来るもんだと思ってたけど違うのか?
てか、0点って……さすがのオレでもまだ取ったコトないんだけど。
「その補習として必修のレポート各10枚ずつ書いてたんですよ」
「必修?…ってまさか全部0点なんスか!?」
「そうですが?」
いや、だから何?みたいにしれっとしないでほしい。
「あー…で、こんな時間までかかってたんスね」
「いいえ」
「は?いや、かかってるから今いるんスよね?」
「違います」
ちょっと頬を膨らませてむくれる顔が可愛い。
その尖らせた唇にキスしたくなるんだけど…。
「レポートはもう完成させました」
そう言って指差す隣の机に紙──原稿用紙の束が置かれていた。
結構な分厚さなんだけど。え?これ全部書いたやつなの?
「じゃあ、なんでまだいたんスか?もしかしてずっと寝てた?」
「先生へ手紙を書いていたんです」
ぷぷっ、と吹き出すように笑う茗子にハテナしか浮かばない。
うん、オレの可愛い彼女は今日も七不思議全開だ。
「それで…なかなかパンチの利いた言葉が浮かばなくてですね。気が付いたら寝ていました」
あははー…じゃないっつの。
「じゃあ、今からその手紙書き上げて。で、一緒に帰ろ」
「え?いいですよ、真逆なので」
彼氏からの誘いを即却下って酷い。
「ダメっスよ!こんな時間に一人で帰せないっスから。オレが嫌なの!」
「………では、まずは手紙を書き上げてしまいますね」
「!」
実質的OKに胸が躍った。
やっと茗子と一緒に帰れる!
ほぼ毎日部活づけのオレと仲間と遊ぶ茗子。たまの部活休みの日に誘っても真逆だからと断られてた。
そんな感じで意外と一緒の時間がないんだよな。
だから、今スッゲー嬉しいワケだ。
茗子がなかなか速いスピードで原稿用紙に文字を走らせている間に教室に携帯を取りに行った。
やっぱり机の中にあった携帯をチェックして茗子の教室に戻ると、茗子は原稿用紙の束を整えていた。
「もう書いたんスか?速いっスね」
「あと3行だったので」
「……………」
たった3行って。いや、そのお蔭でこれから一緒に帰れるんだから何も言うまい、うん。
「じゃあ、これ先生に持って行きますね」
物をしまった鞄を肩に架けようとしたのを奪うように取った。
鞄を取られた理由が解らないのかきょとんとしてる茗子に微笑む。
「鞄持つっスよ」
「はあ…」
大抵の女の子なら喜ぶ所なのに、茗子はずっときょとんとしてる。
その分厚い原稿用紙持つの大変だろ?だから鞄を持ってあげるって普通じゃん?
なのに、こういう普通のコトが茗子にとっては珍しいコトなのかもしれない。
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