Overtime
Name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
もう、関わらないと言ったのに…。
嫌われても仕方無いと思ってたのに…。
だから、彼を好きだと気付かされた事が罰なのかと思った。
気付いた時には終わった想い──なのかと思ったのにな。
「涼太は何故私を嫌いにならなかったんですか?」
「え、なんスか?急に」
私の処女を奪って、その後もう一度求めてきて驚いた。
身形を整えて色々と片付けて、やっと落ち着いた時に涼太に聞いた。
「私を好きになった事にも疑問を抱いていましたが、何故まだ好きだったのかなと」
「ん~…あ、まずココ来てくれたら答えるっス」
そう言って指し示したのは、自分の足の間。
壁に凭れて隣同士で座っていたのだが、涼太は足を開いて床を叩く。
「動けません」
「…それは、ごめん」
しゅんとなる涼太に苦笑が漏れる。
「涼太が来ますか?」
「行かないから足開かない」
「仕方無いですね…よいしょ」
「あっ、いいっスよ!無理しなくて」
重たい身体を起こして、涼太の足の間に入る。
「これで良いですか?」
「向かい合ってどうすんの」
呆れながらグリッと反転させられれば、後ろから抱き締められた。
「最初はただの好奇心。きっと好きになったのはあの時…」
「あの時?」
「オレが絡まれてて茗子が助けてくれた時…」
「…それ、吊り橋効果ですよね」
「吊り橋?」
「恐怖による高揚感を性的興奮と間違えて認識してしまうんですよ」
「………違うっスよ。オレが好きって気付いたのはその後のおサボりデートの時っス」
「そうなんですか?」
「黒子っちと楽しそうに話してたじゃないっスか。あの時、確かな嫉妬があったんス。で、気付いたんスよね」
言って、私を強く抱き締めてくる。
太陽の匂いが幸福感を募らせてくれた。
「茗子は、モデルの黄瀬涼太じゃなくて、一人の男としてオレを扱ってくれるでしょ?」
「それは私だけでは無いと思いますよ?」
「うん。今まで付き合った子も最初はそうだった。けど、すぐに自己顕示が激しくなって、モデルとしてのオレを望んでた。欲しかったのは結局モデルのオレかよって幻滅したよ」
「仕方無いのでは?」
「え?」
「だって、モデルとしての黄瀬涼太も貴方であるのは確かなんですから。それなのに上手くいかなかった原因を相手の所為にするのは間違っていると思います」
「……………」
「それに私も同じですよ。いえ、その人達の方が黄瀬涼太という人間を見て、想って近付いているだけマシでしょう?」
「……………」
「黄瀬涼太という人間に興味すら無く、ただの遊びの為だけに近付いた私の方が酷いです。なのに何故、その人達には幻滅して私にはしないのですか?」
「………相変わらず厳しいっスね」
「怖いだけです」
「怖い…?」
「私だってこれから貴方をモデルとして見ないとも限らない。自慢だってするし、見せつけたりもする。そうなった時、貴方は私に愛想を尽かします」
「…………」
「今までそうなってきたのだから、私だけ例外なんて有り得ないです。私、もう今は…涼太に嫌われるのが怖いんです」
「っ!」
「でも、嫌われても仕方の無い人間だから…それなら、早めに──っ!?」
強く、きつく抱き締められる。
顔が私の肩口に埋まって、身動きが取れなくなった。
「りょ…た?」
「好き……好きっス!マジで大好き!」
「っ!!…あの…」
「茗子だけは例外なんスよ。どんなに酷くても、知ってるから」
「な、何を…」
「計算高い子だって知ってる。サイテーな遊びをする子だって知ってる。だけど、優しい子だって知ってる。臆病な子だって知ってる」
「………」
「オレを、本当のオレを好きになってくれたって知ってる」
「………」
「それにあの時嫌いになろうとした。でも、なれなかった」
「……何故」
「簡単だろ?そんなの…嫌いを上回るくらい茗子を愛してるんスよ」
「………どうしようも無い人ですね」
「普通に茗子を好きになっただけのコトっスよ」
「普通…じゃないです。全然」
肩口に乗るキラキラした髪に手を添えてそっと撫でた。
こんな私を好きになるなんて、変な人だ。
だけど、誠実で真っ直ぐな人。
思えば、初めてこの人を見た時から惹き付けられていた。
「ははっ…そういう事か…」
「ん?なんスか?」
笑い声を漏らせば、涼太が顔を上げて私を見てくる。
真横に感じる涼太の視線を意識して、涼太に体重を預ける。
「今気付いたんですけどね。私一目惚れだったんだなって」
「………へ?」
「初めて体育館で涼太を見た時、汗を流して練習している姿に、キラキラオーラを撒き散らす姿に…心を奪われていたみたいです」
「…………」
「我ながら本当に無頓着も良いとこですね。笑えます」
あの頃の自分を思い出して、哄笑する。
だけど、あの時に一目惚れだと気付いていたら、私はあの場を離れていただろう。
彼とこんな関係になれなかっただろう。
「涼太…今まですみませんでした。これからは、この気持ちを大切にしたいと思います」
「茗子…」
「出逢えて幸せです。私を好きになってくれてありがとうございます」
「………茗子~」
「はい?」
やっと認められた想いを告げたというのに、情けない声で呼ばれた。
涼太を軽く振り返ってみれば、その直後に唇が重なった。
「んっ、………」
えっと、何故?
「………涼太?どうしたんですか?」
「茗子ってなんでそうなんスか!?」
「は?何がでしょう」
「そんなコト言われたら嫌いになんて絶対なれないっスよ!むしろもっともっと好きになるだけだから」
「はあ…それはありがとう、ございます?」
「なんで疑問系なんスか!もう!」
「……ふははっ」
「ったく…」
よく分からないけど、可笑しくて笑った。
こんな風に笑うのは初めてかもしれない。
彼は、私に色々な初めてを与えてくれる。
1/4ページ