Cheer up
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すでに暗くなった道を多分白くなってる息を吐きながら歩く。
見上げる空は街明かりで星も見えないけど、きっとキラキラしてるだろう。
そして、隣を見下ろすと可愛い彼女がマフラーをグルグルに巻いて歩いてる。
寒いからと手袋を外さないから、手を繋ぐコトは諦めた。
代わりに腕を組んでもらってる。
「やっぱり、好きな子だとこれだけでドキドキするっスね」
「弁解なら聞きませんよ」
「弁解ってワケじゃ…。オレ、本当にカナミちゃんにくっつかれた時何も思わなかったっスよ」
「まあ、それについてはカナミの悪ふざけだと解っていますから」
「じゃあ、ヤキモチ妬いてなかったんスか?」
上体を屈めて茗子を覗き込むと、茗子は一瞬驚いたように立ち止まった。
「………」
「オレはタダシ君が茗子にキスするって言っただけでも嫉妬したのに、茗子はオレが他の女の子にくっつかれても平気なの?」
うっと言葉に詰まる顔は、あの時のババ抜きとは違って感情がダダ漏れだ。
オレにだけは見せてくれるとか、本当可愛いんだから。
「嫉妬したから涼太を勝たせたんです」
「………え?」
オレを勝たせた…って、それって…
──………
カナミが机に伏せたカード。ジョーカーがどれなのか確かめる術は無かった。
そのカードは、中盤に私から涼太に回ったもの。
タダシがジョーカーの動きに気付かない筈は無い。だからカナミで止まった。
今日の私は誰の目から見ても解る程に不調だった。
きっとジョーカーを取ろうとしたら、ペアのカードを取ってしまうだろう。
だから私は勝ちに行く事にした。
涼太の命令なんてカナミが喜ぶ程の物じゃないから。
それならもうせめてこのゲームには勝とう。
「何なに?勿体振んなよ」
周りが急かす中、確認したカードを私は…
「す、捨てない……ってコトは…」
「うそ!?」
カナミが慌ててカードを捲れば、そこにあるのは数字のカード2枚。
「うっわっ…マジか!!」
「茗子スゴッ!3分の1でジョーカー取るとか」
そう。拾ったジョーカーを手持ちに混ぜた。
「え、何なに!?そこまで涼太のコト死守したいの!?」
「愛だね~」
「え、あ…いやぁそんな…えへへ…」
周りが囃し立てると涼太が破顔するが、そうなのだろうか?
私は涼太を誰にも渡したくないと思っているのだろうか?
けど、そうじゃなかったら涼太を勝たせはしなかったはず。
涼太が1抜けしたあの局面、私はジョーカーなど持っていなかった。
私が持っていたのはペアの片割れ。そして、それが涼太の持つ1枚だと気付いていた。
涼太が選ぶ瞬間、力を込める。
最初のジョーカーを無理矢理引かされたと気付いている涼太なら、その瞬間に私がジョーカーを持ってると思うだろう。
だから、力の入らないカードをもう一度持てばまた引かされるからと逆のカードを取るだろう。
もし私を勝たせようと考えたならジョーカーだろう方を取る事もあったが、どちらでも涼太にリスクは無い。
周りには気付かれない程度だし、イカサマだと言われる道理も無い。
そこまでして勝たせたかったのは、カナミとキスさせたくなかったから。
つまり、そういう事だろう。
私は、どんな理由であれ涼太を他人にあげたくなかった。
「では、カナミ。勝負です」
机の下で調整したカードをカナミの前に出す。
私からはカードの位置が見えるから、カナミは1枚1枚触れながら私を窺った。
どんなに不調だろうとこの勝負だけは──負けられなかった。
「………ねぇ、茗子」
「なんでしょう」
「今日、ウチ来ない?」
「急になんですか?」
全て説明した直後、少し黙り込んだと思ったら話が飛び過ぎだ。
けど、私を見下ろす眼差しは嫌に真剣で…
「──茗子に触れたい」
「っ!」
慈しみに満ちた微笑みを浮かべてハッキリと告げられれば、嫌だなんて言えない。
涼太はたまに退路を塞ぐから厄介だ。それを無意識でしているというんだから質が悪い。
“………これ!”
カナミが引いたのは、数字だった。
“……うっそ”
呆けるカナミが机に表に向けたままだったカードからその数字じゃないカードを取った。
“私の負けですね。今日は不調過ぎて駄目でしたね”
ヒラヒラとジョーカーを机に落とす。
その瞬間、周りが謎の喝采を上げた。
高次元の駆け引きパネェ!とか、茗子逆にスゲー!とか、興奮気味に私の肩や背中を叩いたり頭を掻き混ぜたりされた。
“じゃあ、黄瀬ちゃん。茗子に命令ゴー!”
アカネさんが涼太を押すと、全員の視線が涼太に集まった。
“え?あー、じゃあ……”
私を見てくる眼差しは少し困惑の色を孕んでた。
“今日一緒に帰るコト!”
全員のブーイングの波を縫うように涼太が私の手を取って教室から連れ出した。
──………
茗子から返事はなかった。おもむろに手袋を外すとそっと手を伸ばしてきた。
ただ口にするのが恥ずかしいからなんだろうけど、合意の代わりに手を差し出してくるってなんなんだろ。
手つないで一緒に帰ろうって意味だと思うけど、そんな仕草されて可愛いって思わないほうが無理。
緩みまくる頬も構わずに茗子の手を引いて、オレの家に向かった。
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