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「黄瀬く~ん!」
「今日もカッコイイー!」
「こっち向いて~」
「どもっス~」
「「きゃーっ!!」」
いつもと同じくらいに登校した私を出迎えたのは、朝から元気な黄色い声の渦と人だかりと、それにひらひらと手を振り返している黄瀬涼太だった。
「……………」
この時間に昇降口付近が賑やかになる事なんて初めてではないだろうか。うん、初めてだ。
「ねぇ、これ涼太の為に作ったの。もらって?」
「え?手作りっスか?」
「あたしも黄瀬くんの為にお菓子作ってきましたぁ!」
「へぇ~、嬉しいっス」
キラッキラなオーラでニッコリと微笑う彼に、彼を取り囲む女らは恍惚と見惚れる。
よく見れば、彼の両手は既にプレゼントで埋まっていた。
あれじゃもう持てないだろう。
と、思って成り行きを見守っていると、
「涼太。それは私が持ってあげるわ」
彼の横からスッと手が伸びてきて、両手で抱えていたプレゼントの山を取っていく人影があった。
「涼太はみんなからプレゼント受け取ってあげて?」
「ありがとうございます。安芸野センパイ」
「いいのよ、これくらい」
その人影…成る程、安芸野さんか。
彼から取ったプレゼントを後ろの女子に渡すと、彼女らは予め持っていた紙袋にプレゼントを詰め始めた。
安芸野さんの好意に微笑みを返した彼が周りの女らに向き直り、プレゼントを貰い始める。
「大好きです、黄瀬君」
「ありがとっス」
頬を赤らめる女ら。笑顔で対応する黄瀬涼太。
「……………」
そして、その後ろで人知れず彼を囲んで浮かれる女らを氷のような眼差しで見つめる安芸野さん。
誰も見ていないと思って…人前では気を付けなくちゃ駄目ですよ?
誰かが見ちゃってるかもしれない。今の私みたいに、ね。
「…………!」
見過ぎたか。安芸野さんと視線がかち合う。
一瞬だけしまった!という顔をして、直ぐに視線を逸らされた。
そんな彼女の傍らを口許にうっすら弧を描いて通り抜けてやる。
耳に付く黄色い声らと乗せられて馬鹿みたいに浮かれる黄瀬涼太と、内心では真っ黒な渦が巻いているだろう安芸野さんを後目に自分の靴箱に向き合う。
靴を履き替えて廊下を進めば、丁度始業を報せるチャイムが鳴った。
「うわっヤベッ!みんなも早く教室行ったほうがいいっスよ!」
「あーん、もっと一緒にいたかったのに~」
「またね~涼太ぁ~」
今からどんなに慌てて急ごうと遅刻は遅刻。
それでも時間を忘れていた女らは素早く靴を替えて教室へ急いだ。
皆早いなぁ。先に廊下を歩いた私なんてあっさり追い抜いていった。
「すいません。安芸野センパイに荷物任せちゃって」
「涼太の役に立てるならそれでいいのよ」
人だかりが消え、プレゼントの山の運搬に苦戦する黄瀬涼太とプレゼントを入れた紙袋を持つ安芸野さんがその場に残った。
「センパイってホント優しいっスね」
「普通だと思うわ?」
「そう思えるってスゴいっス」
彼に素敵な笑顔を向けられて、なんて事無いといった様子で微笑みを浮かべる安芸野さん。だけど、その目は物凄く嬉しそうだった。
これだけ見ていれば、モテる後輩の世話を焼くそれはそれは優しいお姉さん…といった所だ。
なんとも微笑ましい光景じゃないか。
「あれ?石丸っちじゃないっスか」
「………」
成り行きを傍観していたから歩数がちっとも嵩んでいなかった私の背中に黄瀬涼太の声が届いた。
「おはようございます黄瀬さん。朝から賑やかですね」
「ああ、いつもこんなっス」
「いつも遅刻しているんですか?」
「そっちじゃねっス!」
「知っていますよ。今日初めて遭遇しましたからね」
「遭遇って……石丸っちはいつもこの時間なんスか?」
「はい」
「遅刻ギリギリっスね」
「黄瀬さんは遅刻ですね」
「いや、アンタもっスよ!」
「………あの、涼太?」
「あっ…」
彼が私と会話を繰り広げていると、控えめに安芸野さんが割り込んでくる。
ハッとする黄瀬涼太。存在忘れていたな?
「すみませんセンパイ。荷物もういいっスよ」
「え、あ…」
安芸野さんの手から紙袋を取ると、安芸野さんは一瞬戸惑う。
「ありがとうございました」
「……う、うん。じゃあ、私はこれで」
「はいっス」
屈託の無い笑顔に安芸野さんも何も言えないらしい。
きっと、このまま教室まで一緒に行く算段だったのだろう。
名残惜しそうに自分の靴箱に向かうのを少しだけ目で追った彼は、素早く靴を替えて私の下まで駆けてきた。
「教室まで一緒に行こ!石丸っち」
「……はぁ」
「なんでそこで溜息っスか!」
「冗談です。どうせ同じ階ですからね。ご一緒しましょう」
「最初からそう言って」
「……ついでなのでそれ、半分持ちましょうか?」
「あ、気が利くっスね。お願いするっス」
「はい。責任持って運び抜きましょう」
「そんな気負わなくていいっスよ」
「…………あの子、なんで涼太と…」
和気藹々と教室へ向かう私らの後ろ姿をあの氷のような目が捉えていた。
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