弱った時にこぼす言葉は…
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「おはようございまーす」
少年新八がいつものように万事屋へ出社して来た時だった。
「新八ぃ!」
玄関に上がって草履を脱いでいると、珍しく居間の扉から出迎えがあった。
「どうしたの?神楽ちゃん。そんなに慌てて」
こんな朝早くに起きている事にも驚きだが、何処か慌てた様子の寝癖を付けたままの少女神楽を丸くさせた眼で見遣る。
「銀ちゃんが…銀ちゃんがぁぁぁぁ…」
動揺したような神楽に新八は、驚愕しながら居間へ駆け込んだ。
「!!銀さんがどうした…………って…」
神楽のように慌てながら居間に入って直ぐ、隣の和室の開いた襖の隙間に蒲団に眠る大人を見付け、怪訝がる。銀さんの身に何かあったのかと心配しちゃったけど──と、和室へ入っていく。
「なんだ。神楽ちゃんが慌ててるから心配しちゃったよ」
「何ゆーちょーなこと言ってるアルか!銀ちゃん苦しんでんダロ」
「うぅ…寒いよ…頭痛いよ……心細いよぉ………」
和室の中心で苦しそうに喘いでいる銀時を、神楽は不安そうに見下ろす。
そんな神楽にそっと笑みを浮かべた新八はやんわりと言った。
「大丈夫だよ、神楽ちゃん。ただの風邪だよ」
「風邪…?風邪って金かからないアルな」
「そっちのただじゃねぇよ」
なんてやり取りをして、新八は昨日の事を思い出す。
銀時がこうなっても不思議ではない出来事があったから、新八は殊冷静でいられた。
簡潔に説明するなら、昨日依頼の為にとある屋敷で仕事をしていた。その最中に銀時が池へ落下。そのまま寒空の中走り回っていた。
夜に一旦解散する時、少し具合が悪そうだったのを見ていた新八。
早めに来てみれば案の定だったという訳だ。
「とりあえず、温かくして安静にしててくださいね」
乱れた蒲団を銀時の肩まで掛け直し、新八は銀時を見下ろす。
「今日は、僕たちだけで依頼の続きしますから」
安心させるように笑顔を見せる新八だったが、
「え、行っちゃうの?…銀さんを独りにすんなよ…」
か細い声で銀時が弱々しく手を伸ばしてきた。
「さっきからずっとこんな調子だったネ。だから、何か変なモノでも食べたんじゃないかって思ってたアル」
神楽の慌てた理由も判明し、呆れながらも新八は銀時を見遣る。
病気して弱っている時に独りにされる寂しさは理解出来るが、だからといって依頼をほっぽり出すのは万事屋の名折れ。
「新八…神楽……近くに……顔を、見せてく、れ………」
「…………………」
なんだか最期の刻でも迎えそうな雰囲気だ。
だが、この人の打たれ弱さは知る所だ。風邪くらいでも絶望したくらいに沈んでいくのは解ってる。
「しょうがないですね」
はぁと溜息を吐いた新八は、銀時の枕元に正座して銀時の手を握った。
「傍にいますから、安心して眠ってください」
落ち着かせるように言いながら、その手を蒲団の中にしまう。
「ほんとか?…何処にも行くなよ…」
「わかったから休むアル。銀ちゃんが静かだと私もつまらないネ」
神楽も隣に座って、蒲団をポンポンと叩く。
二人が居てくれると解り、銀時はゆっくりと瞼を閉じていく。
辛そうに、だけど安心したように眠りについて、程なく規則正しい寝息が聴こえ始める。
「よし、それじゃあ行こうか。神楽ちゃん」
「銀ちゃん独りにしていいアルか?」
銀時が眠ったのを見計らい、新八は神楽を連れて玄関に向かう。
「早めに依頼をこなして、いちご牛乳でも買って帰ろう」
「…うん」
後ろ髪を引かれながらも二人は家を出て、仕事に向かった。
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