強かな女と強い男には特にご用心
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自分が生きている世界で、無縁だと思っているものが多々ある。
特に興味も無く関わり合いにならないと気にも留めない事柄。誰にでもあるんじゃないかな。
そんな物でも、唐突になんの前触れもなく関係することが、時にはあるという事も。
夕暮れのかぶき町。のほほんと帰路に立っていた時だった。
「あ…どうしよう…せっかく買ったのに…」
そこそこの人の往来の中、道の片隅に困り果ててる少年を見かけた。
膝を着いて座る目の前には、悲惨な事になってる…恐らくケーキだったもの。
袴が汚れている所を見ると、どうやら転んでしまったのだろう。
そんな少年をチラッと見て通り過ぎる人々。
事故でも事件でもないなら、気にする必要はない。
「もうお小遣いないのに…」
「大丈夫?」
「え?…あっ、はい!大丈夫です!」
声をかけると、少年は慌てて立ち上がった。
「ケーキ…好きなの?」
「えっと…お母さんにあげたくて」
「あぁ。昨日母の日だったから?」
「はい。貯めたお小遣いで…でも、この通りです」
母の為にお小遣いを使ってケーキを買った、そんな心優しい少年が悲しそうに俯く姿を見ると、このまま立ち去る事が出来なかった。
これが、そのきっかけだった。
「そっか…残念だよね」
「僕の不注意なので…」
どうしたもんかと考える。
なんとかしたいなと思うけど、不躾な事はしたくないし。
うーん…と、少し考えて思い付く。
「あ、ねぇ。少し付き合ってもらえるかな?」
「え?お姉さんに?」
「ちょっとそこまで買い物に行きたいから、荷物持ってくれないかなって」
「……………い、いいけど」
不審に見てくる少年に持ってた風呂敷を手渡した。
「そのケーキ買ったお店って何処なの?」
「この先の洋菓子屋だよ」
少年から場所を聞き出して、そこへ向かった。
私の荷物を持って後ろを着いてくる少年と一緒に洋菓子屋に入ると、美味しそうな匂いが漂う。
「キミが買ったのってどれ?」
「これだけど…え?もしかして買おうとしてるの?」
どうやら察したらしい少年が「いいよ、駄目だよ」と引き止めるのを無視して、店員に注文して包んでもらった商品を受け取った。
そして、そのままお店を出てからそれを少年に差し出した。
「はい。今度は足下気を付けてね」
「そんな…僕、お金も持ってないし、貰うわけには…」
「何言ってるの?これは、荷物持ってもらった見返りだよ」
「え?」
「私の荷物持ちしたお給金分。正当な取り分だと思うよ?」
「………………いいの?」
「荷物持ってくれてありがとう。はい、お給金」
「!…ありがとう!お姉さん!」
私の荷物とケーキを交換して、嬉しそうな少年に笑みを返す。
そのまま、お別れしようとした時だった。
「あら、てる彦。何してるの?」
「あ、お母さん!」
私達の前に誰かが立ち止まった。
少年が嬉しそうに見上げる先を私も見上げる。
「わっ!」
予想してなかった程に大きくて凄みのある表情にビックリしてしまう。
「ん~?貴女は?てる彦とどういう関係?」
ずいっと顔を近付けられると迫力がある。
「あ、いえ…私は…」
「待って、お母さん!実はね──」
息子が誑かされてるとでも思ったのだろうか。親の顔で私を見定めようとしていると、少年が止めに入ってくれた。
そして、隠す事なく全てを話した。
「…てる彦、アンタほんとおっちょこちょいだねぇ」
「ごめんなさい」
「いいのよ。ちゃんとお姉さんにお礼言ったの?」
「うん」
イイ関係なんだなと解る親子のやり取りにほっこりする。
微笑ましく見ていると、母親が私を今度は柔らかい表情で見てくる。
「てる彦が世話になったわね」
「いえ、通りすがりのお節介ですから」
「気立ての良い子だね。気に入ったわ。是非お礼させてちょうだい」
「え、そんな…お礼だなんて…」
「あら、遠慮は無用よ」
「………それじゃあ、お言葉に甘えて」
「優しい子だよ、アンタ」
例えば、帰り道で困った少年がいなかったら。
例えば、その少年を無視して帰っていたら。
困ってる人を見かけて無視をするというのは、私には出来ない。助けるのは必然だとして、その助けた少年の親が特殊な仕事じゃなかったら、きっと私は一度もそこへ行く事はなかっただろう。
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