灰かぶり
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アッシュブラウンのパンツスーツ。ピシッと折り目の付いた白シャツ。ヒール高めの黒いパンプス。ナチュラルメイクに艶だけ出したネイル。
それが私のお仕事スタイル。
同じようにスーツに身を包む仲間達の中にいても浮かないし、こういう格好は背筋も伸びるし、自分が少しだけカッコ良くなれた気になる。
外見から入るタイプなんやな──なんて、自己解析もしてみたり。
胸を張って歩く前を、スーツやけど一人まるっきり違う派手な格好をした男が歩く。
数人を引き連れて歩く姿に、周りの人達は慌てて道を開ける。
別にええのに、やっぱり怖いんやろな。オーラあるからな、真島さん。
なんて、考えながら歩いてた時やった。
ボキッ──と。
「おうっ!?」
足が急にガクリと崩れて、半分捻りながらその場にくず折れた。
ボキッというた先を慌てて見れば、パンプスのヒールが見事に折れていた。
「もっと色気ある声出せんのかいな…」
呆れながら立ち止まって振り返ってくる真島さん。
先に心配くらいしてほしいもんや。
「ビックリした時に色気なんて出るわけないでしょ!」
「で、どないしたん?」
呆れたまま、部下の間を通って私の下まで引き返してくる。目の前に来たら、膝を開いてしゃがんで私を見てきた。
「ヒールが折れました。あたしはもうこれまでのようです」
「………………」
顔だけで私の足下を確認した真島さんは、しゃーないなって表情を見せる。
「あたしの事は置いてってください。こない情けない姿で現場行けませんから」
カッコ付けてた分、余計ダサくて、人の往来激しい道での恥ずかしさに項垂れる。
そしたら頭上にため息が吐き出された。
ちょっとひどない?自分の失態やけど、笑い飛ばすでもええからなんか声かけてほしいやん。
「西田!」
「はい?」
頭上で真島さんが声をかける。西田さんやなくて私にかけて!
「先行っててくれや。先方には適当に理由つけてええから」
「……わかりました」
真島さんの言葉に西田さんや他の人達が去って行く気配がした。
たぶん、項垂れる私と目の前にしゃがむ真島さんだけがその場に残ってる。
なんや、どういう状況なん?なんで真島さんも行かへんの?
ハテナしかない私の頭上に、今度はなっがいため息が吐き出された。
「さっきっからため息はひどないですか!?」
ついつい八つ当たるように声を張って、顔を上げた。
すると、目の前にいた真島さんとガッチリ視線がかち合った。
呆れた中に心配と情けとほんの少しの愉悦が混じりあった隻眸が、そこにある。
その眼見た瞬間、言いたい文句が出なくなった。
「………………………」
「……………アマアマや」
ポツリと言われる。いつもの高い声音じゃなくて、少し低めに言われてまたハテナが浮かぶ。
「なに?どこが?」
「いつもの甘いちひろチャンはどこいった?」
「どういう意味です?」
「こういう時も甘えたらええんやで?」
「……え?」
まだ意味が解りきってない私の頭に、真島さんの手が乗った。
そっと撫でられて、何が起きてるのか理解出来ずに呆けてまう。
「“置いてって” やのうて、“肩貸して” くださいや」
「………………」
「俺もアイツらも仲間なんやから、遠慮なく頼れや」
仲間と言うてくれたのが嬉しかった。
「……はい」
頼れと言うてくれた事も嬉しかった。
頭を撫でる手も優しくて、思わず涙出そうになる。
「素直でよろしい。ほな、行こか」
ニッと笑ってから頭から手を離して、その手を私の背中に添えてきた。
その瞬間に真島さんと密着する。
「!?」
涙も引っ込むくらい大量のハテナが浮かぶ。
気にせんと、もう片手が膝裏に入り込む。そして、そのまま立ち上がれば、私の身体も浮かび上がった。
「えっ、ちょ…」
「暴れんなやー、落ちるで」
いわゆるお姫様抱っこいうやつ。
不意に抱え上げられて、ビックリしながらも反射的に真島さんの首にしがみついた。
こっち見下ろされれば、半端に顔が近くてなんや恥ずかしい。
慌てて顔反らしても胸元は裸やし、他見れば好奇心の目がめっちゃ見てくるし、どこ見ればいいのか分からへん。
「てか、降ろしてくれればええねん!真島さん降ろしてくださいよ!」
そもそもお姫様抱っこされなきゃ周りに見られる事もない。
もう一度真島さんの顔見れば、真島さんはまた呆れた顔に戻ってた。
「アホか!怪我人は黙っとれ」
そう言われて、もう言葉も出んかった。驚きの方が勝って。
確かに、ヒール折れた時に一緒に足首捻ったみたいで痛いけど、そんな素振り見せてなかったのに、どこで気付いたん?
「ちひろチャン、結構カオに出とるで」
小馬鹿にしたような笑い方されたけど、嫌な気にはならへんかった。
真島さんの言う通りやなって感心するしかできない。現に私の心の声と会話してもうたし。
「表情豊かやなぁ、ヒヒヒ…」
「え、ホンマに?」
楽しそうに笑われて、もうどうにでもなれって気分やった。
「あたしのデキる女計画は破綻や…」
「やっぱりまだまだ甘いのぅ」
笑いながら歩き出す。真島さんにお姫様抱っこされたまま、私もその場を離れてく。
真島さんが歩き出した時──
ポロッ──と。
「あ…」
ヒールが折れた靴が脱げて落ちた。
「ちょ、真島さん!靴落ちた!」
「ん~?壊れたヤツやろ?ほっとったらええねん」
申告しても真島さんは、そう言うて足止めないでスタスタ歩いてく。
遠ざかっていく、ポツリの残された片方の靴。
………王子様が拾ってくれるやろか。
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