バニラ
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今日は、そこそこ暑い日で、ひと仕事終えたタイミングでコンビニでアイスを買うた。最近のコンビニスイーツは、めちゃくちゃ美味しいからアイスやのうてソッチにしようか悩んだりもしながら、やっぱりアイスにした。
店員に袋は要りません言うて、裸まんまでカップアイス片手に街をふらつく。
昼も過ぎた一番暑くなる時間帯。暑そうな人の群れを横目にベンチに座って、フタ開けて、貰った小さなスプーンを突き刺した。
シャクッと良い音立てるアイスを掬って口に放れば、もう至福や。
暑くて堪らん思てるやろう人達を見ながら食べるアイスは、ただ美味しい。
そんなん思う私って性格悪いか?ま、どうでもええか。
ゆっくり溶け始めるアイスを混ぜて、ちょうど良いなめらかさにしてる時やった。
「ちひろチャンやないか!」
って、名前呼ばれた。
軽い声で慣れた感じで呼んでくる人なんて、見なくても判る。
声がした先を見れば、案の定の人物が暑そうな革に身を包んでこっちに歩いて来てた。いや、上は裸やからそんな暑くもないのかな?
「こんなとこで何してんの?」
「見て分かりません?」
目の前に着くと、立ち止まって思い切り見下ろしてくる。
私も思い切り見上げる形になって、途端首が痛くなる。
「アイス食うてる」
「正解です」
「なんや、ホンマにそれだけかいな」
「他に何があるんです?」
「桐生チャン脅かす方法考えてたとかな」
ヒヒヒ、と高い笑い声を上げながら当然のように言った真島さんは、そのまま当然のように私の隣の空いてた空間に腰を降ろしてきた。
脚を開いて座って、その腿に肘を着いて手を組んで、顔を私の方に向ける。
「…そんなん四六時中考えてるのは、真島さんだけですよ」
「そうなんか!」
ワザとらしく驚いた顔が、ちょっとだけ可愛いな思うてしまった。
「西田さんから聞きましたよ?警官の格好してたとか」
「ちひろチャンにも見せたろか?ワシのカッコイイ姿」
「………………………ちょっと見てみたいかも」
「お?意外と乗り気やなぁ。ほんならちひろチャンは婦警の格好してな!」
「それは嫌やけど」
「なんでや!」
スッパリ断ったら、またワザとらしく驚いた。
今度の顔は、ちょっと憎たらしいな。
「脈絡ないですやん」
「ワシが警官やからちひろチャンが婦警って、ちゃんと流れ沿っとったやろ」
そういう事やない。なんで私がコスプレせなあかんねん聞いとんねん。
「ふっかーいスリット入りの超ミニでピンヒール履いて、逮捕しちゃうゾ言うたら、男なんてイチコロやで」
誰をイチコロするねん。
「桐生チャンなんて、一瞬で落とせるしな」
「…あたしが落としてええんですか?真島さんがしたいんちゃいますの?」
「今のは言葉のアヤや。ちひろチャンのそないな姿、誰にも見せたないわ」
「せやったらあたしがコスプレする意味ないやん」
「ある!」
「どこに…」
「ワシが見たいんや」
真顔で言われてもなんにも響かん。しゃーないなぁ、せやったらいっちょ着てみよか…なんて気持ちには更々なれへん。
せやから、私も真顔で返す。
「嫌やけど」
「なんでや!減るもんやなし」
「減らんけど、増えもせんですもん」
ハッキリ言わんと真島さんのことや。強引に話通してまう。
強く首を振ってから、折角良い感じになめらかにしたのに溶けてしまったアイスを頬張る。まだギリなめらかやった。
「ツレないのぅ」
「餌が良かったら釣れるんとちゃいますか?」
「ワシの警官姿は最高の餌やないんか!」
「見たい気持ちもありますけど、婦警になってまではええかなって」
「せやったら今度ごっつい餌見つけてくるから、そん時は見せてや?」
「はいはい。ええですよ」
こっちが折れんとこの押し問答は永遠に続くから、良き所で頷くしかない。
どうせ餌ぶら下げられても食いつかんかったらええ話やし。
真島さんも薄々わかってるやろうけど、無邪気に喜んでる。
面倒やけど可愛い人やな思いながら、アイスを頬張る。
「……………何味や?それ」
私が頬張ったのを改めてマジマジと見て聞いてきた。
「バニラですよ」
「ふぅん。ワシにも一口くれへん?」
ちょっと身をこっちに乗り出して顔を近付けてねだられた。別にこれは可愛くないで。
「嫌です。自分で買うてきてください」
「ドケチやの~、ちひろチャンは」
「てゆーか、もう食べ終わっちゃいました」
この会話の最中、空になったカップを真島さんに見せる。
一口ちょーだい、どうぞ…あーん…みたいな展開なんて起こりっこない。そんなあんまい雰囲気にする気もないしな。
「なんや…先言えや」
「ふふ。ご馳走様でした」
肩を落とす真島さんに笑みを返して、立ち上がる。
「さて、これからどうします?」
「ん?この後付き合うてくれるんか?」
「真島さんが付き合うてくださいよ。どうせならもう少し汗かきましょ?」
「こない昼間っからヤラシイなぁ」
私が誘えば、ニヤリと笑みを深めながら真島さんも立ち上がる。
見下ろせていた真島さんの顔がまた見上げる形になった。
「バッセン行きません?」
真島さんの軽口は無視して聞けば、まあ真島さんも冗談やったから特に気にせず頷いてくれる。
「おー、ええで?負けた方がアイス奢りな」
「アイス食べたばっかりや」
「こまかい事気にすんなや」
楽しげに笑われれば、しゃーないなって気持ちになる。
別にヤラシイ事したくないとか、そんな事はないけど、それよりも今はこういうありふれた時間に浸りたい。
真島さんと出逢わなかったら味わえへんかった普通の時間。
そんな、普通を楽しみたいねん。
「アイス食べて元気もチャージしたし、多分あたし絶好調な気ぃしますよ」
「自分だけズルいやないか」
「ほんなら真島さんも食べたらええでしょ」
「いーや。ちひろチャンに奢ってもらうんや!」
「簡単に負けませんよ~?」
「吠え面かかしたるでぇ」
お互い勝気に笑いあって、バッティングセンターに向かった。
なんの変哲もない時間過ごせてるのは真島さんのお蔭やし、勝たせてあげようかななんて思ったりもするけど…
手ぇ抜いて喜ぶ人やないし、私も手加減するつもりないから、きっと二人して汗だくになるんやろな。
ま、そんときはまたバニラアイスでも食べよかな。
今度は、真島さんと二人で──
──完。
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