モテ期
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力自慢や元気を持て余してるような人達が集まってくる職場。
ちょっと道を外した人やグレた人達も集まる職場。
建設というのは、とにかく人手が欲しい所やから、仕事してくれるならホンマ誰でもウェルカムな職場。
社長曰く、“来る者拒まず、去る者追い回す” だそう。
追い回してはあげるなやって思うけどな。
さて、今私の目の前には5人の男性がおる。
見るからに極道者やチャラい雰囲気の人、ムキムキな人とか色々揃っとる。
「皆さんの担当する現場の主任を務めてます、ちひろです。気軽に呼んでくれて構いません」
そんな色々な男性達に、ピシッと背筋伸ばして挨拶をした。
「おおっ、関西弁だぁ…可愛いなぁ~」
「姉ちゃんが主任だぁ?女が何出来るってんだよ。あぁ、女にしか出来ない仕事でもしてんのか」
「セクハラはやめてください。現場に関して分からない事があったらなんでも聞いてくださいね」
ナメた口聞く人やろうと戦力に違いないので、こっちが大人な態度で臨む。イチイチ気にしてたら主任なんて務まらん。
「質問なんですけどぉ」
「はい。なんでしょう…えっと…」
「あ、オレのことはマナトって呼んでくださぁい」
「はぁ」
チャラい雰囲気の人──マナトくんが手を挙げたから、取りあえず聞く。
「ちひろちゃんってカレシとかいるんですかぁ?」
「いませんね。では、早速作業に入ってもらいます」
どうでもいい質問もサラッと躱して、業務を始める。
みんなに何をするのか説明して、作業開始や。
私も新入りに気を配りながら、自分の作業を進める。
重たい鉄骨をリフト付近まで運んだり、色々必要な資材とかが入った段ボールを運んだり、力仕事を要するものばかりやけど、一所懸命気合い入れて自分のするべき事を全うする。
「よいしょと…」
「ちひろちゃ~ん。それオレが運んであげるよ~」
どっか飛んで行きそうなくらい軽い声がしたと思ったら、持ち上げた段ボールが横からひょいっと奪われた。
誰やと思いながら見れば、マナトくんが立っている。
「あたしの仕事奪わんといて」
「いいからいいから。女の子は甘えるくらいがちょうどいいんだよ」
「………………」
あ、苦手やわ。この人。
どこかホストかぶれで軟派な感じで、女の子に対する固定概念が強そうや。
「ちひろちゃんは、仕事終わりに予定とかある?」
「ないけど、どないしたん?」
荷物取られて暇を持て余してしまって、なんとなくマナトくんについて歩いてた。元々は私のやし、目的地までは見届けたい。
「それならさ、オレとご飯行こうよ」
「ええよ」
「本当?やったぁ!」
「あぁっ!ちゃうて!今のええよは、結構ですって意味のほう」
「え~っ?なんでぇ?」
「仕事終わったらまっすぐ帰りたいねん」
「そんなのツマンナイじゃん。今日は、オレが奢るからさ…ねっ?」
「いやや!」
「………………」
しつこく誘うからハッキリ断ると、途端にマナトくんが目を丸くさせて私をじっと見つめてきた。
「どないしたん?」
急に黙り込んで、なんや怖いな思いながら聞くと、パッと表情を明るくさせた。
「やっぱ方言可愛いっ!今の、もう一回言ってよ!」
「はっ?何?」
「いややってヤツ」
「…え、嫌やけど」
「あー、違う違う!もっと可愛くい・や・やって」
「………」
何?何がこの人の興味に触れたん?
目ぇキラキラさせてリクエストして来んといてほしい。躱し方わからへんねんけど。
「ちひろちゃん、本当可愛いよねぇ。オレ一目惚れしちゃったんだよね」
「一目惚れ?あたしに?ウソやん」
「ウソじゃないよ!方言もすっごく可愛いしさぁ、たまんないよね」
気付けば二人して立ち止まってた。
段ボールはその場に置かれてて、マナトくんは私の顔を覗くように少しかがんで見てきてる。
「カレシいないって言ってたじゃん?なら、オレと付き合おうよ」
「えぇ………」
なんや告白された。え、ホンマ何がこの人に刺さったん?
一目惚れってホンマなん?どうやって断ろう。
「オレと付き合うと楽しい事しかないよぉ?悦ぶ事とか気持ちイイ事だってたくさんしてあげるしねっ」
囁くように言われて、背筋ゾワッてなった。
「あ…えっと…」
「やっぱり今日一緒にご飯食べに行こうよ、ね?」
グイグイ来られて対応遅れた。いつの間にか私の手を取って両手で包み込むように握られてる。
離そうにも強い力が離してくれへん。
「その可愛い声も言葉もたくさん聞かせてほしいな」
「いや、せやから…」
思いっきし腕ブン回そう思うた時やった。
「おう!ちひろ!ちょうこっち来いや!」
「!!」
聞き慣れた声が遠くからして、反射的にそっちを見ると、真島さんが手を挙げて呼んでいた。めっちゃ救世主!
「真島さん呼んどるからあたし行くな」
ブンッと腕を振ると、手が離れた。
「あ、ちょっと!話はまだ…」
引き留めようとするマナトくんから逃げるように駆け出す。
去る前に一言残した。
「ごめんやけど、あたしマナトくんの事好きになれへんわ!」
ちゃんと自分の気持ち伝えてから、真島さんの所に向かった。
「なんでしょう?真島さん」
真島さんの下に着いて目の前で立ち止まって尋ねると、一瞬真島さんにじっと見られてから急に肩を抱かれた。
優しくとかやなくて、ガシッと勢い良く肩掴まれて引き寄せられて、ビックリしながら真島さんを見上げると、何考えてるかよう解らん目と合った。
「な、なんのマネですか、これ」
「ちょ~っとちひろチャンに頼みたい事あるんやけど、ええか?」
いつもの調子で聞いてくる。肩抱いたはずの腕が肩の上にダラっと置かれて、なんや様子が違うかなと思ったのは勘違いやったみたいや。
「あたしの肩、肘掛けとちゃいますよ?」
「ちょうどええ位置にあるもんやから、ついつい置きたなってなぁ」
軽く睨んでも、やっぱりいつもの飄々とした雰囲気やった。
「もう。…で、頼みたい事ってなんですの?」
「それなんやけど、ちょっと事務所まで行こか」
そう言うて、肩抱く…というよりは、肩に腕を乗っけられて、真島さんに押されるように歩く。
さっきマナトくんに手ぇ握られた時はちょっと嫌やったけど、真島さんやったら気軽に触られても全く嫌な気ぃせんな。
まぁ、理由は簡単や。
好き──やからな。
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