金の行方
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眠らない街、神室町。
夜更けにも関わらず、光り輝くネオンに多くの人々が行き交う賑やかな繁華街。
煌びやかな大通りを一本脇道に逸れれば、ホームレスや裏社会の住人がこちらを見詰める危険な所でもある。
そんな光と闇を生み出す街を、慣れた足取りで歩く二人の男がいた。
一人は、長年この街で暮らし、街の表も裏も経験している男。
「今日も助かったよ。いつも悪いな…杉浦」
一人は、この街のどんな抜け道さえも把握している男。
「何言ってるの。八神さんの頼みならいつでも聞くに決まってるでしょ」
柔らかい笑みを浮かべた男──八神隆之。彼に軽やかに返した男──杉浦文也。
彼らは、ちょうどひと仕事終えて帰路に着いていた。
八神が営む探偵事務所の依頼をたまに杉浦に手伝ってもらっている。今回も逃げ足の速い相手を捕まえる為、力を借りた所だ。
「なんか食べてくか?」
「ううん。僕もうクタクタ。明日奢って」
「しょうがないなぁ。ファストフードな」
「えー?そこは焼肉でしょ。それか寿司でもいいよ?」
「なに高いの奢らせようとしてんの。そんな金ないって知ってんだろ?」
「まあね」
他愛も無い話で笑い合い、人気の少ない裏路地を歩いていた。
たまに擦れ違うのは酔っ払いくらい。そろそろ街も眠りに就くような、東側の空がうっすら白み出した時間帯だった。
ぽつりぽつりと会話を繰り返す二人の背後、大きな通り──天下一通りから何かが近付いてきていた。
「海藤さんは他の仕事中だったっけ?」
「ああ。浮気現場の張り込み」
「張り込みなんて海藤さんに務まるの?」
「あの人だってやる時はやるよ」
目的地へと迷う事なく歩く二人の背後、天下一通りからこの裏路地へとそれなりの速さで入ってくる影が現れた。
一定のリズムで駆けてくる足音が二人の後方に迫る。
「ん?」
気付いた杉浦がふと後ろを振り返ると、こちらに向かって走って来る人影があった。杉浦に倣って八神も足音のする方を振り返ると、その人物は近距離まで迫っていた。
自分らの姿を認識しているはずだろうに、その人物は二人には目もくれずにその横をぶつかりそうなスレスレの所で駆け抜けていった。
そんなに急いでどうしたんだろう、なんて思いながらその人物を追うように前を向き直ると、もう一度背後から足音が聞こえた。少しドタドタと煩いそれにもう一度振り返る。
「…んのアマァ!待たんかい!」
次に路地を走ってくるその人物からは、何か言葉が漏れている。息を切らしながら八神達の方へと少し蛇行しながら走って来る。
「この盗っ人風情がぁ!」
語気を強めて放たれた言葉から、この男が先程の人物を追っているのだと想像付く。
“盗っ人” なんて不穏な単語を聞いて、黙って見過ごせないのが八神という男だった。
「あのー、盗っ人って……そんな怖い顔して、どうされたんですか?」
目の前を疲労に足をもつれさせながら通り過ぎようとしていた男に声をかける。
声をかけられた男は、鋭い眼差しのままに八神を見遣った。
「どうもこうも、あの女が俺のカバンを盗んだんだよ!」
興奮気味に声を荒らげて指を差す先には、裏路地から大通りに差し掛かる先程の人影である女の姿。よく見ればクラッチバッグのようなものを持っていた。
「ああ、ひったくりか……杉浦」
「はーい」
瞬時に事情を察した八神が杉浦に声をかければ、杉浦は口角を軽く上げてからちょうど大通りに姿を消したひったくり犯らしき女を追う為に走り出す。
先程クタクタだと言っていたのが嘘かのように駆け出した杉浦の後ろ姿を少し見つめてから八神は、男に向き直った。
見た目は、ヤクザのような雰囲気をしているその男だが、ひったくりの被害者なのだから放っておけない。
「わたくし、神室町で探偵をしている八神といいます」
そう自己紹介してから、詳細を聞きながらひったくり女と杉浦が走って行った方へ男と共に歩き出した。
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