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絵を描くのは好き。頭に浮かぶイメージが真っ白な世界に綺麗に写し出されると快感だし、何より楽しい。
でも、評価は要らない。私の絵という固定観念も欲しくない。
ただ描ければそれだけでいい。だから、先生が絵を欲しがってた時になんの迷いも無く差し出したし、それを自分の作品と発表されても何の感情も沸き上がらなかった。
それからずっと、私は先生のゴーストとして絵を描き続けている。先生が画家人生を終えるまで変わらないだろう。
最近になって絵をただ差し出すだけではなく、買い取ってもらうようになった。それは単純に今後の為の資金調達に過ぎない。
そういう生き方を祐介は知らなくていい。だから私は祐介の居ない所で絵を描くし、私が絵を描いているという事実を隠している。
祐介は、いつか先生の下を離れるだろうから。
先生は手離すつもりなどないだろうけど、祐介はあんな男に縛られたままの器じゃない。
それに予感はある。
祐介がモデルにと選んだあの女の子と一緒にいる男の子達。
きっと、祐介をこの狭い世界から引っ張り出すだろう。
「さて、そろそろ作業に取り掛かるか」
「はい、先生」
「あかり、お前も少しは手伝いなさい」
「はーい」
「筆を取るのか?」
「まあね。指示された事くらいは出来るからねー」
作業に入ろうとした時だった。
ピンポーン…と来客を告げるチャイムが鳴った。
「ん?誰だ?」
先生の表情が険しくなるのを私も祐介も見逃さなかった。
マスコミとかは嫌いなのだ。先生も私達も。
「俺が出ます」
インターホンを取った祐介は、余所行きの声で対応する。
「どちら様でしょうか。先生なら今は…」
『……高巻ですけど』
「すぐ行くよ!」
若い女性声がしたと思ったら、祐介が慌てて部屋を飛び出した。
「え……どうしたの、祐介」
「高巻………ああ。あのモデルの女だったな」
「…………ああ」
バタバタと降りていく祐介を、私と先生で見送った。
窓からそっと覗けば、祐介が勢いよく玄関を開けたのが解る。
この位置から祐介の姿は見えないが、あの女の子とそして一緒にいた男の子二人が立っている。
突然の来訪。モデルの件で何か話でもあったのだろうか。
微かに聞こえる会話に耳をそばたてると、どうにも不穏な言葉が聴こえてきた。
先生の盗作疑惑。そして弟子への虐待疑惑。
先生の黒い噂の話をし始めた。どうしてあの人達がそんな事を祐介と話すのだろう。
「くだらない!────住み込みの門下生は俺ひとり────」
「─────」
「─────愚弄する気なら許さん!」
祐介が動揺しながら怒鳴っている。あれではまるで肯定しているようだ。
ああいう所が不器用なんだよなぁ祐介は。
とか考えてたらいつの間にか先生まで外に出てた。
まぁ、流石は先生。あしらい方を解っている。
噂話は肯定も否定もしないのが一番。まぁ、盗作は本当の事だけど。
先生が戻ると、あの人達は少し罰が悪そうになった。
そんな彼女らにスマホを見せている手が見えた。
祐介のスマホ。画面には………【サユリ】だね。あれは。
どれほど素晴らしい先生かを説けば納得してくれると思ったのだろう。
どこまでも純粋な祐介。
それにしても、どうしてあの人達がわざわざ噂の真意を確かめに?
モデルを引き受ける場合に何事もないように?
情報はどこから……弟子だった誰かが報復で情報をネットに流したりでもしたのかな?
祐介が家に入っていく姿を真剣に見つめる彼ら。
その眼差しの真剣さは一体…?
じっくり観察していると、あのもっさい眼鏡の男の子がこっちを見てきた。
また……?
すぐに窓際から離れると、祐介と先生が部屋へと入ってきた。
「すみません、先生。彼らがあんな話を持ち出すとは思ってなくて」
「気にするな。下手に弁解しようとしなくていい。言わせておけ」
「は、はい。あの、モデルの件は継続させても大丈夫でしょうか?」
「ん?あぁ…余計な事を話さなければ構わん」
「ありがとうございます!」
すっかり消沈してしまった祐介だったが、どうやらモデルの件は諦めてはいないようで、何気にタフな所を久しぶりに見た気がした。
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