生の証
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茹だるような暑さが襲う頃。世間は夏休み真っ只中。
学校が休みになれば、アトリエに行く時間もルブランに行く時間も増える。
祐介は、スケッチブックを入れた鞄を持って毎日のように寮を出ていく。
寮を出て、スマホを確認すると『渋谷の地下通路にいるよ~』というメッセージを見つける。
小さく笑みを浮かべた祐介は、スマホをしまって足早に駅に向かった。
自分がいつも人間観察をしている場所にあかりは立っていた。
外見的には、贔屓目抜きにしても悪くはない。だが、ナンパでもされていたらどうしようかなど思うのは、杞憂というもの。
恐らく彼女をナンパしようと思う男はいないだろう。
相変わらず、手にしたスケッチブックに熱心に何かを描き殴ってる。そんな特殊な人間をナンパする変わり種など居やしない。
「一人?」
居た………。
変わり種、と言えるかは解らないが、あかりの言動に動じない男が。
「……見ての通りだよー」
かけられた声に顔を上げたあかりが笑顔を向ける。
そんな様子を見て、祐介は少しむっとした。
「祐介いるかなって思って来たんだけど…あかりでもいいかな」
「え?何なに~?デートのお誘い?」
「まぁ、そんなトコ」
「おい!蓮!あかり!」
すかさず祐介は二人の下に飛び込んだ。
「あ、祐介。カード出来た?」
「……………」
人の気も知らないで、この男も相変わらずだな──と、複雑な心境に陥る。
あかりや祐介の言動に物ともしない人物──蓮に、鞄から取り出した2枚のカードを差し出す。
そのカードを蓮が受け取ろうとするが、祐介は手を引っ込めた。
躱されて、蓮は不思議そうに祐介を見つめる。
「その前に。今のはなんだ」
「今の?」
「何故あかりをデートに誘った?」
「ん?あぁ……………」
祐介の言動を理解した蓮は、そこで珍しいモノを見たなと思った。
祐介の態度は明らかに嫉妬のソレで、小さく微笑う。
「他意はないよ。美術館のチケットが手に入ったから、好きそうな人と行きたいなって思って」
蓮はすぐに鞄から2枚のチケットを取り出す。
それを見て、祐介とあかりの眼の色が瞬時に変わるのを蓮は見逃さなかった。
「おおっ!今ちょうど怖い絵展もやってるから行きたかったんだ!」
あかりの瞳がキラキラと輝く。
「美術館もタダではないからな。チケットがあるのなら是非とも行きたい!」
祐介もキラキラと瞳を輝かせる。さっきのヤキモチはもういいのか?と思うほど。
だが、こんなにも前のめりになってくれるなら誘う甲斐もあるというもの。
二人の反応に可笑しそうに笑った蓮は、チケットを差し出した。
「それなら、二人で行きなよ」
「え?…でも、それは蓮のだから蓮が行かなきゃ」
「そうだ。お前が連れて行きたい奴と行くのが妥当だ」
「………………」
この提案がすぐに受け入れられなくて意外そうに眼を丸くさせるが、二人が蓮を差し置いて自分らだけでと考えるような人じゃないと思い出すと納得だ。
凄く行きたいと顔に書いてあるのに──二人の同じ行動に蓮は声を立てて笑った。
「ははっ…」
「どうした?蓮」
「いや…二人とも似てるんだなって思って」
「似てる?私と祐介が?」
「あぁ」
「……………」
笑いながら答える蓮に、祐介とあかりは互いに顔を見合わせるが、互いに首を傾げるだけだった。
自分達では似てると思った事がないのだ。
「俺には、行きたそうにしてる二人のどっちかだけを選ぶなんて出来そうにないから…」
そう言いながら、蓮は祐介の手にあるスキルカードを奪うように取った。
「コレと交換って事にしよう」
2枚のスキルカードと2枚のチケットを入れ換えて、蓮は不敵に微笑った。
「オイ、蓮…」
手に収まったチケットを返そうと差し出すが、そんな祐介に背を向けた蓮は歩き出す。
「竜司もヒマそうにしてたから、俺は竜司と遊んでくるよ。カードありがとう、相変わらずイイ仕事してくれるな」
ヒラヒラと手を振って立ち去る姿の、なんと格好良い事だろう。
全く。女だったら惚れているな──小さく笑んだ祐介は、そしてハッとする。
女だったら惚れていると思うという事は、現に女であるあかりは…。祐介は慌ててあかりを確認する。
するとどうだろう。案の定、蓮の男前な後ろ姿をポーッと見つめているではないか。
「蓮ってカッコイイね~」
否定はしない。否、出来ない。
常々敵わないと思っているが、こんな所まで敵わなくなっては立つ瀬がない。
祐介はガックリと肩を落とす。
そんな祐介の心情を知ってか知らずか、あかりがチケットを持つ祐介の手を両手で包み込んでくる。
見上げてくる瞳を怪訝に受け止め、祐介は首を傾げた。
「折角蓮がくれたんだから、一緒に行こう?デートしよう?」
柔らかく微笑まれて、祐介は彼女にも敵わないなと情けなく笑みを溢した。
「………そうだな。しようか──デート」
今日は、デートをする予定ではなかった。二人でルブランに寄って、蓮やモルガナとゆっくり過ごそうと考えていたが、蓮の心遣いに報いて、二人は行き先を変えて電車に乗った。
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