ヒトの温もり
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斑目一流斎の【作品】から解放された祐介とあかり。
互いに想いを通わせて、一件落着。
というには、まだ色々と残っている問題があった。
続ルブランにて。
「そういえば、あかりはこれからどうするの?あのあばら屋に?」
杏が皆を代表するように聞けば、あかりは小さく首を振る。
「あそこは絵を描くには最適だけど、生活するには不便すぎるんだよね~」
ボロい家だ。空調管理もなってないだろう事は容易に想像出来る。
「ンなトコによく住んでたな」
「住んでたのは祐介だけ。私はたまに泊まったりしてたくらいだから」
「泊まっ!?…てか、二人住んでたとしたも同棲だったってコトか!?」
「まぁ、そういう言い方もあるけど」
「……マジユースケムカツク」
竜司が祐介に向かって片言で告げるが、祐介はハテナを浮かべるだけだった。
「住む場所は、もう決まってるんだよね~」
「そうなの?」
「うん。私ね、自分のアトリエを持つコトにしたんだー」
あかりの言葉に皆が驚いた。
軽々しく言ったが、アトリエを持つのは簡単な事じゃない。
どういう事が訊ねれば、あかりは鞄から通帳を取り出して杏に手渡した。
「駅近ビルの一室を買い取ってアトリエにしたんだよ」
「うっわ!何この数字!?」
杏が不思議に通帳を開けば、そこに羅列される数字の多さに驚いた。
驚いた杏の手許を覗くように向かいの竜司が大きく身を乗り出してくる。
「どれどれ………え…コレ、マジ?」
杏が見やすくテーブルの真ん中に差し出すと、蓮とモルガナ、カウンターの椅子に座る祐介も覗き込んだ。
「どうしたのコレ!?」
杏が聞けば、あかりは眉尻を下げて苦笑する。
「私、先生に絵を売ってたから…」
全員が、そこで気付く。パレス内のあかりもそう話していた事を。
改めて、あかり本人から聞かされる。
描いた作品をいつからか斑目に買い取ってもらっていた。
自作も【サユリ】の複製も全て。
「今の今まで、手を付けてなかったんだよね。警察にも話した。そしたら───」
あかりは画家。画家は絵を売るのが仕事。自分はその作品に惚れ込んで画家から絵を買い取っただけ。
あかりの作品も【サユリ】も評価に見合った額で買い、それを自作と偽り発表し、高額で転売していた。
斑目がそう説明したと教えられた。
「──私への評価の証だって。私が吹っ掛けたのに、正当な私のお金だって言われちゃったよ。まぁ、税金やらなんやらで半分は持ってかれたけどね」
「先生からの餞別という訳だな」
あかりの話に祐介は寂しげに微笑した。
そして、見た事のない桁の資金でアトリエを買ったと話すあかりの、見事に描く事しか頭にない事に小さく声を立てて笑った。
「半分持ってかれてもコレって……絵画ってそんな儲けられんのか?」
初めて眼にする数字に竜司もおっかなびっくりだ。
「ピンキリだよ。無名で稼ぐのは難しいしねー」
「ユースケは今日の飯にも困ってるのに、こうも違うとは……奥が深いなゲージュツって」
モルガナが染々と呟くと、祐介はうっと言葉を詰まらせる。
確かに絵は全て斑目に譲っていた。あかりのように売るという考えは一度も過らなかった。
「これからは、私は無名で絵を売っていく。簡単に稼げなくはなるだろうけど、私の絵を好きだと言ってくれる人が一人でもいれば、それでいいんだぁ」
そう告げるあかりは、まるで憑物が落ちたようにすっきりとした表情をしていた。
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