最後の弟子
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パレスから無事帰還した彼らは、アジトの連絡通路にいた。
ペルソナを使ってパレスの主と闘うのは疲弊が激しい。
終わった後は、激しい疲労感に襲われる。
だが、それと同時に胸の支えが落ちたように少しだけ心が軽くも感じる。
「後は改心が起こるか…だな」
竜司が呟くと、誰もが竜司を見た。
大きな前例は一つ。その時は上手くいった。
自身がした事を悔い改め懺悔した。
パレスを消滅させたからといってすぐに動きがあるわけではない。
本人の心の変化が起こり、そして本人がどう行動するのかまでは解らない。
恐らくは、個展が終わり告訴するとしたその日になんらかのアクションを起こすだろう。
竜司達がそんな予想をしている中で、祐介はその手に持つ絵画を見つめていた。
マダラメパレスのオタカラである──
「【サユリ】…斑目の歪んだ欲望の正体が、この絵だったなんてな。これを描いた母さんが知る由もないのが、せめてもの救いだな」
オタカラは、その人の欲望を肥大させパレスを形成させるきっかけのモノらしい。
つまり、斑目があんな風になってしまったのは、この絵に依る所が大きいという事だ。
「アトリエにあるホントの本物は、塗り潰されちまってるワケだもんな。…皮肉だが、今やこっちが【真実の自画像】ってワケだ」
その言葉に、祐介は目覚めたペルソナ能力はもしかしたら母が授けてくれたのかもしれないと思った。
この絵を、母の愛を伝えようとしてくれていたのかもしれない。
祐介は、絵の中で微笑む女性を改めて、じっくりと見た。
「これが、母さん。顔なんてハッキリと覚えていないはずなんだが…この絵を見た時の衝動、アレは間違いじゃなかったんだな」
──母はここにいる。貴方を愛している。
母の自画像を見つめる祐介の眼差しは、愛しげに揺れていた。
そんな祐介を見て、竜司達は顔を見合わせて笑う。
初めは、改心させる必要がなかったのかもと後込みしたが、祐介の表情を見て、彼らも清々しい気持ちになった。
疲労も溜まっているだろうし、そろそろ解散しようとモルガナが告げると、祐介が待ってくれと皆を止める。
踏み出しかけた足を止めて自分を見てくる皆に、少し躊躇しながらも祐介は口を開いた。
「あかりに…話したいのだが…」
「話す?」
モルガナが首を傾げる。
「勿論パレスやペルソナの事は伏せる。だが、これから斑目に起こるかもしれない改心について話しておきたい」
「水を差すようで悪いんだけどよ…その、あかり?って奴は斑目側じゃねぇのか?」
本人に直接会っていないから酷くは言えないが、マダラメパレスで会った彼女はどうにも胸糞悪かった。
祐介を信用していても、斑目の肩を持つような人間を疑うなというのは難しい話だ。
「【サユリ】の事知っていながらお前に隠して、自ら望んで偽物描いてるような奴だろ?」
斑目と同類なのではないかと、竜司は問い質す。
祐介は、一度伏せた瞼をゆっくりと開け、竜司を、皆を見遣った。
「アイツは、悪い奴ではない。真偽を確かめる為にも話がしたいんだ」
「でもよ…」
「俺も祐介に賛成だ」
「!…お前まで」
竜司に言ったのは、我らがリーダー・ジョーカーである雨宮蓮だ。
眼鏡の奥に隠れる眼が真っ直ぐに見つめてくる。
「視線を感じたと言っただろ?悪い奴って感じはしなかった」
「うん。私も顔を合わせた時に見たけど、なんていうか悪い子には思えなかったな」
「う…」
蓮と、それに杏にまでそう言われ、孤立無援になった竜司は罰が悪くなる。
「だが、竜司の言う事も最もだろう。パレスではあんなだったしな」
祐介は、竜司を責めるつもりはない。自分を案じて敢えて言ってくれていると解るからだ。
それに正直、自分も解らない。あかりの本心が。
「だから、皆にも確かめてもらいたい」
「え?確かめ…って、一緒に行くの?」
「俺も余計な事を言わないとも限らないし、上手く話せないかもしれない。フォローしてくれると有り難いんだが」
「ど、どうするの?蓮が決めてよ…」
杏が縋るように蓮を見ると、ぽかんとした蓮は軽く頭を掻いた。
結局、決めるのはいつもリーダーの役目……押し付けられてないか?なんて思いながらも、蓮は祐介に微笑む。
「俺達は、最後まで祐介に付き合う」
「…感謝する」
蓮の微笑みに、祐介は安堵して軽く頭を下げた。
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