隠れボス
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「祐介。折角自由になれたんだから、もう捕まっちゃダメだよ?」
『どういう意味だ…』
「先生は私がなんとかするから、祐介はもう全部捨てて生きていきなね」
『何を言って───』
終話して、スマホを操作する。
彼が意外としつこいのを知っている。こうしないと何度もかけてくるだろう。
祐介を着信拒否設定してから、スマホをしまった。
あばら家の祐介の部屋であかりは、しばらく立ち尽くす。
あの全てを知ったような口振りに、やはり彼らが祐介を此処から引っ張り出したか…と、嬉しいような寂しいような気持ちを抱く。
彼らがどうやって祐介を突き動かしたのかは解らないが、それでもこの牢獄にいるよりはよっぽどマシだろう。
いつまでも日陰者でいる必要はない。
かつての弟子達のような末路を辿らせたくはない。
その為に自分がいる。
あかりはすぐに斑目の下へと赴いた。
あんな事があった直後だというのに、相変わらず絵画の売買に忙しいようだ。
こんな男の下に入門したが最後、この男の食い扶持として絵を描かされ続ける。
自分の作品として陽の目を浴びる事などない。
だからこそ、あかりは斑目に利用されようが構わなかった。
斑目がどれほどの悪事に手を染めていようと、自分の空間が快適ならそれでいい。
ただ一つ。あかりの心を揺さぶるモノがある。
【サユリ】
あかりもまた、その神秘性に心惹かれた一人だ。
純粋に【サユリ】を愛し、敬意を込めて模写をした。
自己満足の為だけだったが、それを斑目に見初められた。
斑目が好きなだけ【サユリ】を描けと言うから、本当に好きなだけ描いた。
それが売買されていると知ったのは、少ししてからだった。
本物と偽って売っていると解った時、買い手の節穴具合に幻滅した。
本物が持つ輝きと自分が描いた模写は全くの別物だというのに、誰も気付かない。
評価なんてそんなものなのだ。だから、あかりは評価される事に失望し、拒んだ。
どうせ本物と勘違いするなら、評価なんて必要ない。
──緒方あかりという作者は、要らない。
そう思ってしまえば、絵を描くのは気楽だった。
何も気にせず思うがまま描けるのだから。
「先生、祐介から連絡があったよー」
「アイツはなんて?」
「しばらく頭冷やすって」
「ほう?」
「告訴も取り合えずは個展が終わるまではしない方がいいよ」
「あぁ、そこは私も考えておる。個展の終了と共に低俗な輩を告訴。そして、噂をはね除けるように新作を発表してやるわ!」
「さすが先生、抜かりないね~」
斑目に拍手を送るあかりだが、斑目を見る眼差しは冷めていた。
別に、私の描いたモノを先生の作品だと発表されてもなんとも思わない。
だから、私はいつまでだって先生の下にいられる。
私一人がいればいい。
祐介がいなくたって、私が先生を満足させていればいいだけ。
だから、祐介───先生から逃げて。
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