猜疑心
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「ふんふふ~ん♪」
「ご機嫌だな」
「あ、祐介おはよう」
「あぁ、おはよう。筆を取るなんて珍しいな。やっと着想が湧いたのか?」
アトリエでキャンバスの前に座って、絵具をパレットに出していると祐介が部屋に入ってきた。元々扉を閉めていない部屋だから廊下から見えたのだろう。
「ん~、どうかなぁ。取り合えず技術を鈍らせないようにね」
鷹揚と返したあかりは、パレットに出した絵具を筆に馴染ませて、キャンバスに走らせた。
どうかなと言った通り、その筆の描くものは作品になりそうにない。
技術を磨く為の絵とも呼べないものがキャンバスを埋めていく。
「筆の乗せ方の勉強だろうが、ソレはソレで作品になるんじゃないか?」
「え?」
振り向けば、いつの間にか祐介は椅子に座って傍観を決め込んでいた。
「俺はいいと思うぞ」
その眼はフォローしようとかそういうモノではなく、真剣そのもの。つまり、マジ。
今一度キャンバスに視線を戻すと、そこにあるのは子供の落書きの方がよっぽど芸術的だと思わせるようなモノしかない。
色々な線や点描の羅列。これを良いと思う祐介の感性はやはり非凡だ。
「ありがとう。祐介にそう言ってもらえると安心するよ」
「安心?」
「んー。祐介は嘘がないからね~」
「………あかりが絵を描かないのは、嘘の評価が嫌だからか?」
「違うよー。他人が付ける評価はどうだっていい」
「そうか……」
引っ掛かりを覚えた祐介は、顎に手を充てて思案する。
そんな姿を見て、あかりは小さく笑った。
祐介の様子がいつも通りだった事に安堵した。
「ねぇ、祐介」
「なんだ?」
「祐介はさ、売れたいって思う?」
「……それは、」
「先生の事は抜きにして、祐介は自分の絵を正当に評価されたい?」
「……………あぁ」
グッと握られた手からは、葛藤が伝わった。
自分の作品を世に出したいと願いながら、恩義ある師へ作品を譲っていかなければならない。
祐介だけは、この牢獄から出してあげたいな──
ぼんやりと思っていると、着信音が聴こえてきた。
祐介がポケットから取り出して画面を見ると、眼を見開いた。
そして、慌てるように電話に出た。
「も、もしもし!」
どこか嬉しそうな祐介を見て、あかりはその相手を予測する。
「本当に!?……あぁ。……え、あ、明日!?…いや明日は……ちょっと待って!…わ、分かった。それじゃあ、明日……」
嬉しそうに戸惑いながら、そわそわと電話を切った祐介は浮かれているように見えた。
「あの子?えっと……」
「高巻さん。そうだ、彼女が裸婦のモデルをしてくれると」
「裸婦………え、本当に?」
こないだ喚いていたのを思い出してあかりは眉を顰めた。
「ああっ!明日と急だが、ウチに来ると」
本当に急過ぎる。それに彼女は嫌がっていたように見えた。
乗り気でもなかった人が、更にはヌードモデルなんて引き受けるだろうか。
先生を疑い、祐介に喰ってかかってたような人がよもや暢気にモデルをするとは思えない。
「明日……先生の帰り早いよ?」
「そうだな。少ない時間で仕上げてみせるさ」
制作意欲が漲っている祐介をあかりは不思議そうに見ていた。
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