The Lovers③
Name change
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花火大会、やっぱりみんなで見るのが一番楽しみだなと胸が膨らむ。
竜司を筆頭に杏も祐介もモルガナも楽しみにしていたし、蓮も真も態度には表さないものの私達と楽しもうという気持ちが伝わってくる。
大切な友達、仲間………
“またこうして話したいから、付き合ってくれない?”
「…………?」
ふと、明智君と花火大会に行くとどんな感じだろうって想像しかけた。
どうして、明智君を思い出したんだろう?
先日会ったばかりだからかな?
しきりに首を傾げながら、試験一日目を終えて渋谷駅に着いた。
改札を抜けて左手側にあるパン屋・ヨンジョルマンに寄ろうと階段を下りてから左に曲がった。
すると、先客が一人いた。
見て、私は驚いてしまう。
「明智君?」
「え?………あぁ、南条さん。奇遇だね」
考えていた人がそこに立っていて、ビックリした。
明智君は、少し悩むようにディスプレイを眺めていた顔を上げて私を捉える。
「明智君もここのパン買うんだね?」
「美味しいからね。南条さんも?」
「あ、うん」
少し離れて立ち止まってた足を動かして、お店の前に立つ。
ピッタリ隣というわけではないけど、明智君の隣に並んでディスプレイを見た。
そして、目当てのものがあった事に心で狂喜して、ディスプレイの向こうにいるお店の人にそれを頼んだ。
代金と引き換えにパンを包む袋を受け取って満足する。
「即買いだね」
先にいた明智君より先に買い物を終えたから、ちょっとだけ驚いているようだった。
でも、最初から決めていたから早かっただけ。
「目当てのなかったら悩んでたかも」
「そう。ねぇ、何かオススメはあるかい?」
「オススメ?…それなら断然メロンパン!」
「メロンパンか…」
「期間限定だからよく売り切れるらしいんだけど、今日はあって良かった」
「ふふ、それなら僕もメロンパンにしようかな」
「うん!生き返る~って味で、すっごい美味しいよ」
袋に入ってるのもそのメロンパン。人気のある限定モノだから、売り切れてる事が多いけど今日はまだ在庫があった。
それを明智君も買っていた。
「そういえば、明智君はこんな時間に何を?」
今はまだお昼を過ぎたばかり。私は、試験だから早く終わったけど。
明智君の学校は進学校だと聞いた。制服見たら解ると杏も言ってたし、真もそんな事を教えてくれた。
「僕は、これから仕事があってね。早退してきたんだ。南条さんは?」
聞かれて、私は明智君との会話にむず痒さを感じていた事に気付いた。
ずっと何かがムズムズしている感覚が、今解った。
「その前に、抵抗無ければでいいんだけど…名前で呼んでもらえないかな?」
「名前?君の?」
「そう…なんだか名前で呼ばれる事に慣れちゃって、苗字だと擽ったくて」
「……………」
蓮達に名前で呼ばれるようになってから、少しずつ苗字に違和感を抱き始めていた。
なんとなく私には合っていないような感覚。
明智君は、私を暫時見詰めた後、ふんわりと微笑った。
「わかった。それじゃあ、遊江って呼ばせてもらうね」
その微笑みと名前を呼ぶ爽やかな声に心臓が跳ねた。
意味なんてない。誰だって同じような反応すると思う。
「それで、遊江はこんな時間に何を?」
「………私は、試験だったから早く終わったんだ」
「へぇ、そうなんだ。いつまで?」
「土曜まで」
「じゃあ、頑張ってね」
「うん、ありがとう」
優しく微笑って言ってくれるたびに鼓動が煩い。
でも、これは………
「ねぇ、あれ!明智クンじゃない!?」
「ウソ!……ホントだ!ヤバ、本物!」
「誰かと話してるけど、カノジョ?」
「ただのファンじゃない?私たちも声かける?」
ちょっと遠くから女の子達の声が聞こえてきた。
ほら、誰だって明智君に対してそんな反応するよね。
「……ゴメン。僕そろそろ行くね?」
此方に歩いてくる女の子達を一瞥した明智君は、苦笑いを浮かべて私に断りを入れた。
「あ、うん。大変だね、明智君」
「……ふふっ。慣れたかな」
彼女達に捕まる前に明智君は足速に去って行く。
「……………………………」
明智君の後ろ姿を追って、私は立ち尽くす。
──
──女の子に騒がれて困惑する爽やかな青年。
明智君に抱く印象が少しずつ変わっていく。
2日目も3日目も試験終わりにヨンジョルマンに寄ったけど、明智君と会う事はなかった。
それを、ちょっとだけ寂しいなんて思う事はない。
絶対に、ない…………。