The Lovers③
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なんとなく、芸術的なものなら祐介と一緒だと楽しいだろうなって思った。
でも、みんなで楽しむ体験もしたいと思ってる。
ビュッフェより花火大会を取るって言った事が可笑しくて可愛かったな、なんて祐介の事を思い浮かべていると、試験1日目を終えた直後の足が前に祐介に連れて来てもらった公園へと辿り着いていた。
無意識に歩いて来てた事に若干引くし軽く怖い。
でも、公園へと足を踏み入れてあの時に座ったベンチを目指した。
あの時は夜だったから人なんていなかった。だけど、昼下がりの今は子供達の姿がちらほらあった。
遊具で遊んだり、鬼ごっこをしていたり、元気に駆け回る中、ベンチに座って今日はここで勉強しようと思い付いた。
教科書とノートを膝の上に広げて、明日の科目の範囲を復習する。
時折、子供達の悲鳴のような騒ぐ声が聞こえるけど、不思議な程集中出来た。
「遊江か…奇遇だな」
ノートに書き込んでいると、どこからか声がした。
この落ち着いた低い声は、よく知ってる。
「祐介?…なんでいるの?」
歩いてきて、目の前で立ち止まる祐介を見上げる。
立ってる長身と座ったままの私の間に身長差がえげつなくなる。
「それはこちらの台詞だが」
「いや、私のセリフだよ。今まだ授業中じゃないの?」
昼下がりといっても普通に授業のある時間帯。私は、試験だから早めに終わったけど。
「他の学科も試験だから、違う科も同じように早く終わる」
「そうなんだ」
「それで?お前は何故ここに?」
そう聞きながら、祐介は隣に腰掛けた。
えげつなかった身長差は無くなったけど、それでも尚見上げるように祐介を見る。
「なんとなく、かな。気付いたら足が向いてたんだ」
「……勉強捗るのか?」
私の膝にある教科書類を一瞥して首を傾げる。
「うん。ちょうどいい喧騒っていうのかな。天気もいいし気持ちよく勉強出来るよ?」
「そうか……ちょうどいい喧騒、か」
呟きながら、前を向く祐介の瞳が子供達を映す。
どこか哀愁のようなものが漂うのは気のせいだろうか。
「祐介は、どうしたの?」
「何がだ?」
「ここに来るのは、落ち込んでる時じゃなかったっけ?」
「よく覚えているな。あんな戯言のような言葉を」
私を捉えた瞳もやっぱり哀愁を帯びていて、端正な顔が少しだけ歪んだ。
「忘れないよ。祐介やみんなと刻んだ記憶は、忘れたくないから」
「……………お前は、美しいな」
「んっ!?」
眉も歪んだまま微笑んだ祐介の慈しむような声音に、思わず変な声が出た。
「遊江のような心を持っていたなら、俺も最高の一枚を描けるだろうか」
「………………」
ああ…美しいって心の事か。自分じゃそうとは思わないけど、祐介は私を眩しそうに見ている。
それが少しくすぐったくて、視線をノートに落とした。
「祐介は、祐介のままでいいと思うよ。私のような心を持ったら、それは祐介じゃないわけだし」
「………………」
「それに…初めて逢った時より、祐介柔らかくなったから」
「…………柔らかく?」
「うん。だから、大丈夫。祐介なら描けるって、私は思ってるよ」
顔を上げて、目を見て言えば、祐介は瞳がこぼれそうな程、目を瞠った。
何にそんなに驚いているのかは解らないけど、笑みを深めれば、祐介の目もやんわりと元に戻っていく。
そして、柔らかく細めた目で私を見詰めてくる。
その眼差しに胸の高鳴りを感じた。
「ありがとう、遊江。お前は、いつも俺の心を軽くしてくれる」
「そうかな」
「ああ」
頷いた祐介と私の間に爽やかな風が吹いた。
それから会話は途切れた。だから、私は下に視線を戻した。
勉強を再開させると、隣も何か動く気配を見せてから静かになる。
チラッと横目で窺えば、スケッチブックに何かを描いていた。
鉛筆でサラサラと描く姿、真剣な横顔に、見惚れた事は黙っておこう。
それから、次の日もまたその次の日も同じ場所で勉強をする事にした。
祐介が来る事は無かったけど、なんだか隣に居るような気持ちになる。
それが不思議で、なんだか変な感覚だった。
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