The Lovers③
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イベント的なものは、竜司と一緒だったら楽しいだろうなぁ。
みんなで楽しむというのも魅力的で楽しみではあるけど。
なんて思いながら帰り支度をしていると、目の前に人影。
「一緒に帰ろうぜ、遊江」
見上げれば、竜司が立っていた。
笑顔で頷いて席を立つ。
「どうだった?テスト」
「聞くな。まだ終わってねぇ」
並んで教室を出て、廊下を進んで昇降口を通り、校門を抜ける。
いつもと変わらない道のりなのに、関係が変わるだけでまるで違って感じる。
景色が明るく見える。
人目があるから手を繋いだりするのは恥ずかしいけど、触れそうな距離感がくすぐったい。
駅に着いて電車に乗って、同じ駅で降りる。
もう何度か分からないくらい、竜司とこの道を通ってる気がする。
「なぁ、遊江って今日も勉強すんの?」
「そりゃあ、しないと。真に怒られるの嫌だし」
人気の少ない住宅地を並んで歩く中、軽くこっちを見て聞かれた。
極当たり前に返すと、そっか…と短く呟いてから考える素振りを見せてくる。
どうかしたのだろうか?竜司の出方を窺った。
「………あのよ、一緒に…勉強しねえ?」
「うん。いいよ」
「え、マジで?」
「え、なんで嘘だと思うの?」
「いや、こないだ逆に勉強出来なかっただろ?俺と杏いて」
「ああ…あの時は、私もついつい逃げちゃってただけだから気にしないでいいよ」
杏と竜司と一緒に勉強して、捗らなくて真と蓮に助けを求めた時の事を何処か申し訳なさそうに確認してくる竜司が、なんだか可愛く見えた。
「竜司が勉強したいって言うなら、付き合うに決まってるでしょ?」
「おお、サンキュ」
「場所は…私ん家でいいかな?ここから近いし」
「え、いいのか?」
「ダメなら言わないって」
「だよな。じゃあ、遊江ん家行きてーわ」
「どうぞ。何もない所ですが」
そうして急遽、私の家で試験勉強をする事になった。
思えば、誰かを家に招くのは初めてだ。
しかもその初めての人が、竜司………というか、恋人。
そう思うと、急に謎の緊張感に襲われた。
震えそうな手で鍵を開ける。
「どうぞ」と促して、部屋へと上がる。
「お邪魔~………へぇ~」
竜司は、緊張感も何もなくサラッと入って部屋を見回し始める。
物が散乱してるとか、見せられないものが落ちてるとか、そういう事はない。
元々、家具も多くないし、最低限の物しかないから。
「結構すっきりした部屋だな。なんか、女の部屋ってもっと物とかごちゃごちゃしてるイメージだったわ」
「ふふ、杏ならそうかもね。服とか鞄とか多そう」
「アイツん家、服とか散乱してそうだよな」
「杏に失礼だよ」
なんて話しながら、竜司に座るよう促す。
ソファーに座ってもらっても良かったけど、ローテーブルだから近い床に座ったのだろう。
帰り際にコンビニで飲み物やお菓子を買ったから、お皿とコップを用意する。
そして、それらをテーブルに出して、私も竜司の斜向かいに座った。
「さて、勉強しようか」
「………やんのか」
「その為に来たんだよね?」
教科書類を出しても竜司は嫌そうに呟く。
やる気があるのかないのか解らない。
「そうなんだけどよ、ほら女の子の部屋初めてだから緊張してさ。もう少し喋ってリラックスさせてくんね?」
なんか尤もらしい事言ってるようだけど、竜司って嘘が下手だよね。
「勉強しながらでもお喋り出来るから、まずは教科書とノート開こうか」
ちょっと真を意識して微笑んでみると、竜司はうっと声を詰まらせてから小さくハイと観念した。
竜司と勉強する時はいつも始めるまでが長い。そんな時間も嫌いじゃないけど。
「明日の科目を徹底的にやろっか」
「……おう」
こうして、竜司と二人きりの勉強会が始まった。
2日目も竜司が今日も頼むとお願いしてきたから、一緒に帰って私の家で勉強する。
少しだけ驚いたのは内緒にしておこう。
そして、3日目も無事に乗り切り、帰りはお互いに確かめる事なく勉強する流れになってた。
一緒に帰って、途中でコンビニに寄ってから私の家。
竜司は、自分の部屋のようにリラックスし切った様子で定位置に座る。
私もお皿とか用意して定位置に座った。
「あー、試験も明日で終わりかぁ…」
「ようやくだね。早く解放されたいね」
「まぁな。でも、こうやって遊江と二人になれる口実作れるなら、もう少しあってもいいかもって思っちまうけどな」
「……………」
ニカッと笑って言われて、不意打ちに心臓掴まれた。
私も同じように思ってたけど、ハッキリ言ってくれると嬉しい反面照れる。
「ま、実際試験長かったら今頃力尽きてるだろうけど」
声を立てて笑う竜司に、また一つ好きを自覚する。
「っし!打ち上げの為にやるか!」
「……うん」
緩みそうになる頬を引き締めて、シャーペンを握った。
「そういや、花火大会の時って浴衣とか着んの?モナの奴騒いでたよな」
「ああ。そうだね…探してみたらあったから、杏と真が着てくようなら私も着ようかなって思ってる」
「ふーん。そっか」
「竜司は?」
「俺はねーから」
「残念。似合いそうだったのに」
「俺似合うか?」
「カッコイイと思うよ?」
「カッ………お、おう。サンキュ」
サラッと言ってしまった言葉に竜司の耳が少し赤く染まった。
釣られて私もちょっと恥ずかしくなる。
「お、前も…似合いそう、だから…着て来いよ」
「着てほしいの?」
「そりゃあ…見てーって思うし」
「そっか。それじゃあ、着て行こうかな」
竜司がそう言うなら、少し着飾ってもいいかなって浮かれる。
「おう」
「うん」
「………………」
「………………」
言葉が続かなくなってお互いに見詰め合う。
気まずさは、全くなくて、ずっと見ててもいいかもなんて思ってしまう。
特別端正な顔立ちという事でもないけど、見詰めてくるその瞳の綺麗さがカッコ良さを醸し出してるように思える。
「……キス、してもいいか?」
じっと見詰められて、そして一言囁かれる。
真剣な眼差しで言った竜司に、私は……
「ふっ…はは、あははは…!」
「はぁ!?」
つい笑ってしまった。もちろん竜司は驚いて眉を顰める。
「おまっ、また笑いやがった!」
「だって、いちいち聞く?律儀か!」
今のは雰囲気的に自然に出来た流れだったし、わざわざ確認するなんて面白くて仕方ない。
「仕方ねーだろ。俺だって誰かと付き合うの初めてで勝手とか分かんねーし、無理矢理もしたくねーし」
「ふふふ、大丈夫だよ?竜司に求められて嫌な気持ちになんてならないから」
「求めって……じゃあ、聞かなくてもいいのか?」
「竜司のしたい時にどうぞ。私もしたくなったらするから」
「………なんか、そう言われると色々考える」
「ん?何を?」
微笑んで気持ちを正直に言ったんだけど、竜司はちょっと困ったようにテーブルに突っ伏した。
「引かねえ?」
「物によるかな」
「それじゃ言えねーかも」
「え、何?そんな引く程の事ってある?」
竜司が何を考えてるのか全然解らない。
肘を着いて窺うように竜司の顔に近付いてみると、気配を感じてか竜司がゆっくり顔を上げた。
相変わらず困ったような情けない表情。
「滅多な事じゃ引かないよ?」
「……………遊江さ、俺に求められて嫌じゃないって言ったよな?」
「言ったよ」
「それって、キスだけじゃなくてもか?」
「…………ん?」
見てくる眼差しがどこか熱を孕んでるように感じた。
「だから、その…………ヤリたいって言ったらどうする?」
「………………………」
一瞬、言葉を理解出来なかった。
唐突すぎて、反応すら忘れてしまう。
でも、すぐに気付いて頬が急激に熱くなっていくのが解った。
「そ、それって…あの、そういう…意味だよね…?」
「……あぁ………引いた、よな?」
「ビックリ、しただけ…かな。急に言われたから…」
「ワリィ」
顔が熱いまま反応に困っていると、竜司は罰が悪そうに一言謝った。
すぐに首を振る。ちゃんと答えないときっと傷付けると思ったから。
「謝んないでいいよ。………あの、さっきも言った通り、嫌じゃないよ?」
「本当に?…無理してね?」
「うん。今すぐには、ちょっと困るけど……心の準備して待ってるから、いいよ」
「……………そっか。良かった」
正直に伝えると、竜司は安堵の溜息を漏らした。
「俺も今すぐには、困るけど………一つだけいいか?」
「ん?なに?」
まだ何かあるのかと怪訝に竜司を見れば、おもむろに竜司の手が伸びてきた。
後頭部に添えられたかと思うと、グッと引かれる感覚。
気付いた時には、視界いっぱいに竜司がいた。
「……っ、ん……」
引き寄せられて、唇を重ねられて…
「……ふ、ぅん…」
触れるだけかと思ってたら、怖ず怖ずと舌が差し込まれた。
薄く唇を開けば、口付けが深くなる。
キスが上手いとか下手とかは、竜司が初めてだから解らない。
ただ、触れた箇所から幸せと好きという気持ちが広がっているのは解った。
名残惜しく離れた直後、お互いに恥ずかしくなって頬を染めながら笑い合った。
なんか、勉強どころじゃなくなってしまって、竜司も恥ずかしさからか帰ると立ち上がったので、今日はこれで終わりにする事になった。
玄関まで見送って、照れ隠しをしながら挨拶をして、ドアが閉まっていくのを見詰めていた。
竜司が帰った後、一人勉強をしようかとテーブルに向かったけど、全然集中出来なかったのは言うまでもない…。
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