終わらない恋になれ
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今日の同窓会に、彼は現れるだろうか。
もういい大人なのに、今日という日を指折り数えて待っていたのはきっと、私だけかもしれない。
ゆるく巻いた髪にお気に入りのワンピース、ちょっと奮発して買ったアクセサリー。
使い勝手のいいクラッチバッグに歩きやすいヒール。
どれも彼と会えることを考えて選んだ、私の心を支えてくれる魔法のドレス。
深呼吸をして貸し切りのお店へと一歩足を踏み入れれば、そこには懐かしい空気が溢れていた。
「なまえ?久しぶり!」
「変わってなーい!てか、私のこと覚えてる?」
女子は声をかけてくるなり、とにかく見た目を褒めてくる。それも次第に、今の仕事は?彼氏は?結婚は?なんて呪いのような言葉に変わってゆく。
スペックのいい男と付き合っているとか、育児で大忙しなんてありきたりな言葉で自己アピール合戦。
のらりくらりと笑顔で交わすのがやっとのことで、正直大して仲良くもなかった女の友情なんてそんなものだ。
「ねえ、そういえばさ」
男女複数人でできた輪の中で噂やゴシップが好きそうな彼女が切り出す。
「あの、堂島君…だっけ?ほら、退学になった子、いたじゃん」
「あ~!あれでしょ、ヤのつく家の…」
「そうそう、今日って来るのかな、そもそも呼んでるのかな?」
「どうだろうね?てか、交友関係とか全然おぼえてないんだけど~」
思い出話に花が咲くのは構わないけれど、こんな嘲笑うような彼の話を聞きたくて私はここに来たわけではなかった。
「ちょっと化粧室いってくる」と小さく残し、逃げるように盛り上がる輪から離れる。
来ないほうがよかったんだろうか、と化粧室で手を洗いながら鏡に映る自分をチェックした。
ほんのり薄くなったリップを塗り直し、フロアへと戻るとさっきと明らかに空気が違うことに気付く。
「ねえ、何かあった?」
「あぁ…堂島が来たらしい」
近くにいた男に声をかけると、小声で彼のいるであろうの方向をあごで指した。
―――
ほとぼりが冷めたころ、周りの様子をうかがいながら彼の姿を探してテラスへと出る。
黒いスーツに、オールバックの男が眉間にしわを寄せて喫煙所で煙草を吸っているのが見えた。
間違いない、堂島大吾。…私が会いたかった、彼だ。
下唇をきゅっとかみしめて、引き寄せられるように彼のもとへと歩き出す。
「……大吾」
緊張して、声が掠れてしまう。それでも私の声は彼に届いたようで、彼はゆっくりと振り返った。
「……なまえ、か?」
「うん。久しぶり、だね」
「あぁ、久しぶりだな」
気のせいじゃなければ、彼は私の顔を見て少し安堵した表情を浮かべた。
そうだ、この顔だ。学生時代の記憶を思い出し、心が温かくなる。
「ね、ちょっと老けたんじゃない?」
「貫禄が出て来た、と言ってくれ」
「ふふ、かっこよくなった」
「………」
「あ、照れてるでしょ」
「うるさい」
「そういうところ、変わってないね」
未だ胸の高鳴りがとまらないけれど、気づかれないように小さく深呼吸をする。
近くのベンチに腰かけ、煙草を燻らせる彼の横顔は学生時代とは比べ物にならないくらい凛々しくなっていた。
「…なまえは、綺麗になったな」
「今更?でも、ありがと」
目も合わせずに言うところが、彼らしい。
「…ねえ、今日はどうして来てくれたの?」
「丁度、仕事が落ち着いたんだよ」
「そこは私に会いたくて、とか言ってくれないんだ…」
「…言わねえよ」
「残念。私は…大吾に会えるかなって、それだけで来たのに」
一人分開いていたベンチの隙間をつめ、彼の肩に頭をのせた。よくこうして、くっついていたっけ。
それでも彼は動じない様子で、煙草の煙を吐き出しているだけだった。
「…あの時は、悪かったよ」
「どの時の話かなー?思い当たることがたくさんあるなあ」
乗せていた頭をあげて、彼の顔を覗き込む。私は昔から、困ったように笑う彼の顔が、好きだった。
「院にいるとき、手紙くれてたろ」
「一通も返ってこなかったけどね」
「出た後も、電話しようと思った」
「番号変えてないけど、一度もかかってこなかったね」
「何度か、会いに行こうと思った」
「今日が久しぶりの再会だけどね」
「…悪かったよ」
「怒ってるわけじゃないよ、私」
怒ってない。
今はもう、怒ってない。
彼の中で私の事なんかどうでもいい存在になってしまったのかと思うと、ただただ悲しかった。
長い間、いろんなことがあった。
私にも。きっと、彼にも。
その日々の中で頭の片隅に、ほんの片隅でいいから、私の面影が、記憶が、残っていればとずっと願っていた。
「…悪い」
「もう、いいよ」
「なまえ」
「私、いつまで大吾の彼女だった?」
「…」
「いつまで、あなたの彼女でいられた?」
どうしていいか、わからなかった。
あの夏、あなたが少年院に入ったことが学校中の話題になって、あなたを悪く言う人がたくさんいた。今だってもしかして、笑いものにされてるかもしれない。
それでも私は、あなたの優しさを知っていた。強さを、勇敢さを知っていた。
手紙にも、ずっと待ってるって。あなたをずっと好きでいることに変わりはないからと、何度も何度も書いた。
別れたいと、貴方を忘れたいと思った日は一日だってなかった。
あの日誰にも知られずに始まった恋を、終わらせてしまいたくなかった。
「ねえ、大吾。私は今でも、」
膝の上にのせていた手の小指を、優しく撫でるように握られる。それが何を意味するのか、私は明確に覚えていた。
「泣くな。いや、泣かせているのは俺か…」
「……そうだよ」
「なまえ、俺は今でも、お前が好きだよ」
「だい、ご」
「だけど今はガキの頃と違う。だから…年が経つにつれ、お前に会いづらくなった。お前には幸せになってほしいと思っていたし、今も思っている」
「うん」
「いいのか、本当に。俺が、ヤクザでも」
「…そんなの、あの頃からわかっていたことじゃない」
「そうか」
「この先ずっと、あなたのそばにいたい」
「あぁ、それでこそ俺が惚れた女だ」
そう言ってゆっくりとキスを落とし、ほろ苦い煙草の味に酔いしれる。
この人ともう一度、今度は、さいごまで。人生を歩んでいこう。
***
「ね、これよく覚えてたね」
先ほど彼にされたようにきゅっと小指だけを握る。
「仲直りしたいときの合図」
「まさか、この年になって使うとは思ってもなかったけどな」
「ふふふ、まあ、許しましょう」
「助かります」
「……小指、落とさないようにしてね。仲直りできなくなるよ」
「やめろ、縁起でもねえ」
タイトル:確かに恋だったより拝借
もういい大人なのに、今日という日を指折り数えて待っていたのはきっと、私だけかもしれない。
ゆるく巻いた髪にお気に入りのワンピース、ちょっと奮発して買ったアクセサリー。
使い勝手のいいクラッチバッグに歩きやすいヒール。
どれも彼と会えることを考えて選んだ、私の心を支えてくれる魔法のドレス。
深呼吸をして貸し切りのお店へと一歩足を踏み入れれば、そこには懐かしい空気が溢れていた。
「なまえ?久しぶり!」
「変わってなーい!てか、私のこと覚えてる?」
女子は声をかけてくるなり、とにかく見た目を褒めてくる。それも次第に、今の仕事は?彼氏は?結婚は?なんて呪いのような言葉に変わってゆく。
スペックのいい男と付き合っているとか、育児で大忙しなんてありきたりな言葉で自己アピール合戦。
のらりくらりと笑顔で交わすのがやっとのことで、正直大して仲良くもなかった女の友情なんてそんなものだ。
「ねえ、そういえばさ」
男女複数人でできた輪の中で噂やゴシップが好きそうな彼女が切り出す。
「あの、堂島君…だっけ?ほら、退学になった子、いたじゃん」
「あ~!あれでしょ、ヤのつく家の…」
「そうそう、今日って来るのかな、そもそも呼んでるのかな?」
「どうだろうね?てか、交友関係とか全然おぼえてないんだけど~」
思い出話に花が咲くのは構わないけれど、こんな嘲笑うような彼の話を聞きたくて私はここに来たわけではなかった。
「ちょっと化粧室いってくる」と小さく残し、逃げるように盛り上がる輪から離れる。
来ないほうがよかったんだろうか、と化粧室で手を洗いながら鏡に映る自分をチェックした。
ほんのり薄くなったリップを塗り直し、フロアへと戻るとさっきと明らかに空気が違うことに気付く。
「ねえ、何かあった?」
「あぁ…堂島が来たらしい」
近くにいた男に声をかけると、小声で彼のいるであろうの方向をあごで指した。
―――
ほとぼりが冷めたころ、周りの様子をうかがいながら彼の姿を探してテラスへと出る。
黒いスーツに、オールバックの男が眉間にしわを寄せて喫煙所で煙草を吸っているのが見えた。
間違いない、堂島大吾。…私が会いたかった、彼だ。
下唇をきゅっとかみしめて、引き寄せられるように彼のもとへと歩き出す。
「……大吾」
緊張して、声が掠れてしまう。それでも私の声は彼に届いたようで、彼はゆっくりと振り返った。
「……なまえ、か?」
「うん。久しぶり、だね」
「あぁ、久しぶりだな」
気のせいじゃなければ、彼は私の顔を見て少し安堵した表情を浮かべた。
そうだ、この顔だ。学生時代の記憶を思い出し、心が温かくなる。
「ね、ちょっと老けたんじゃない?」
「貫禄が出て来た、と言ってくれ」
「ふふ、かっこよくなった」
「………」
「あ、照れてるでしょ」
「うるさい」
「そういうところ、変わってないね」
未だ胸の高鳴りがとまらないけれど、気づかれないように小さく深呼吸をする。
近くのベンチに腰かけ、煙草を燻らせる彼の横顔は学生時代とは比べ物にならないくらい凛々しくなっていた。
「…なまえは、綺麗になったな」
「今更?でも、ありがと」
目も合わせずに言うところが、彼らしい。
「…ねえ、今日はどうして来てくれたの?」
「丁度、仕事が落ち着いたんだよ」
「そこは私に会いたくて、とか言ってくれないんだ…」
「…言わねえよ」
「残念。私は…大吾に会えるかなって、それだけで来たのに」
一人分開いていたベンチの隙間をつめ、彼の肩に頭をのせた。よくこうして、くっついていたっけ。
それでも彼は動じない様子で、煙草の煙を吐き出しているだけだった。
「…あの時は、悪かったよ」
「どの時の話かなー?思い当たることがたくさんあるなあ」
乗せていた頭をあげて、彼の顔を覗き込む。私は昔から、困ったように笑う彼の顔が、好きだった。
「院にいるとき、手紙くれてたろ」
「一通も返ってこなかったけどね」
「出た後も、電話しようと思った」
「番号変えてないけど、一度もかかってこなかったね」
「何度か、会いに行こうと思った」
「今日が久しぶりの再会だけどね」
「…悪かったよ」
「怒ってるわけじゃないよ、私」
怒ってない。
今はもう、怒ってない。
彼の中で私の事なんかどうでもいい存在になってしまったのかと思うと、ただただ悲しかった。
長い間、いろんなことがあった。
私にも。きっと、彼にも。
その日々の中で頭の片隅に、ほんの片隅でいいから、私の面影が、記憶が、残っていればとずっと願っていた。
「…悪い」
「もう、いいよ」
「なまえ」
「私、いつまで大吾の彼女だった?」
「…」
「いつまで、あなたの彼女でいられた?」
どうしていいか、わからなかった。
あの夏、あなたが少年院に入ったことが学校中の話題になって、あなたを悪く言う人がたくさんいた。今だってもしかして、笑いものにされてるかもしれない。
それでも私は、あなたの優しさを知っていた。強さを、勇敢さを知っていた。
手紙にも、ずっと待ってるって。あなたをずっと好きでいることに変わりはないからと、何度も何度も書いた。
別れたいと、貴方を忘れたいと思った日は一日だってなかった。
あの日誰にも知られずに始まった恋を、終わらせてしまいたくなかった。
「ねえ、大吾。私は今でも、」
膝の上にのせていた手の小指を、優しく撫でるように握られる。それが何を意味するのか、私は明確に覚えていた。
「泣くな。いや、泣かせているのは俺か…」
「……そうだよ」
「なまえ、俺は今でも、お前が好きだよ」
「だい、ご」
「だけど今はガキの頃と違う。だから…年が経つにつれ、お前に会いづらくなった。お前には幸せになってほしいと思っていたし、今も思っている」
「うん」
「いいのか、本当に。俺が、ヤクザでも」
「…そんなの、あの頃からわかっていたことじゃない」
「そうか」
「この先ずっと、あなたのそばにいたい」
「あぁ、それでこそ俺が惚れた女だ」
そう言ってゆっくりとキスを落とし、ほろ苦い煙草の味に酔いしれる。
この人ともう一度、今度は、さいごまで。人生を歩んでいこう。
***
「ね、これよく覚えてたね」
先ほど彼にされたようにきゅっと小指だけを握る。
「仲直りしたいときの合図」
「まさか、この年になって使うとは思ってもなかったけどな」
「ふふふ、まあ、許しましょう」
「助かります」
「……小指、落とさないようにしてね。仲直りできなくなるよ」
「やめろ、縁起でもねえ」
タイトル:確かに恋だったより拝借
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