こうするより他になかった
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「この後飲みに行かない?」
「すみません、先約があるので」
「あ、じゃあ今度ご飯行こう。連絡先教えてよ」
友人の結婚式の帰り、新郎側の招待客にしつこく言い寄られてうんざりする。
他人の事を値踏みするような顔で見て天秤にかけて、お眼鏡に適った相手に声をかけて。きっとどこに行っても同じことしているんだろう。結婚式場は婚活パーティー会場じゃないというのに。
足早に会場を後にしたのにしつこくついてくる。キャバクラのキャッチか。
「困ります。彼氏いるんで」
「またまた。他の女の子に彼氏作りなよって言われてるの聞いてたよ」
デリカシーのデの字も持ち合わせてなさそうな男だなとつくづく思う。正直こちらにも選ぶ権利というものがあると思ったけど口には出さずに飲み込んだ。
「ほら、お高くとまってないでさ~ご飯ぐらいいじゃん」
私より長めの足で1歩前に出られてしまい、行く手を阻まれながら腕を取られた。
「ね?いいでしょ。行こうよ」
「ちょっと、やめてください。離して!」
早くこの手を離してほしくて身体ごとよじったとき、後ろにいた人に思いっきりぶつかってしまった。
「ごめんなさ…!」
「全く、貴女は何をしているんですか」
聞き覚えのある声に顔を上げると、そこにはよく知った男が呆れた顔で立っていた。
「峯さん…」
私をちらりと横目で見てから、迷惑な男の手をいとも簡単に払い「行きますよ」と腰に手を回し歩き出す。
そのまま無言で駐車場まで連れていかれ、彼が助手席のドアを開けて乗るように促される。助手席に乗り込んだ私がシートベルトをするのを確認すると、車を走らせた。
「あの、峯さん」
「なんですか」
「ありがとうございました。助かりました」
「変な男に捕まるのが本当にお上手ですね」
確かに私は男運が非常に悪い。とてつもない嫌味だった。
「…返す言葉もないんですけど」
「でしょうね」
そういえば峯さんと出会った時も、神田さんに絡まれているときだったな。その時は「この程度の女なら吐いて捨てるほどいる」と言われた。それでもこの人はことあるごとに”吐いて捨てるほどいる程度の女”と会って食事もするし、身体を重ねることもある。なかなか形容しづらい関係をずるずると続けてどのぐらい経ったんだろう。
その後特に会話もなく、窓の外を眺めていると彼の住むマンションに着いたようで車が止まった。
シートベルトを外そうと手をかけたところに、彼の手が重ねられる。一瞬思考が停止して、顔を上げれば峯さんの顔が近づき、薄い唇が私の唇に触れてすぐに離れた。
「言い忘れていましたけど、そのドレス、よくお似合いですよ」
「それはどうも…」
数日前に峯さんが送りつけてきた、深いグリーンのフィッシュテールワンピース。断りの電話を入れたけれど、「返されても私は着ないので困る」と当たり前のことを言われた。折角なので部屋で試着してみると仕立てたのかと思うぐらい私の体に合っていて、気に入ってしまった。それを見越して今、とってつけたように似合っていると言ったんだろう。
彼が車から降りるのを追いかけるようにして後に続く。
「なんでこのドレス、贈ってくださったんですか」
最上階へと私達を運ぶエレベーターの中で、純粋に疑問を口にする。
「先日会った時、友人の結婚式に着ていくドレスに迷っていると言っていたのはなまえさんでしょう」
「確かに言いましたけど、別にねだったわけじゃ…」
「貴女に似合いそうだと思ったから贈っただけで、特別な意味はありません」
「はぁ…」
「あぁ、それとも」
不意に振り返って私の背中に手をまわし、身体を引き寄せて耳元で囁く。
「このドレスを私の手で脱がせたかったから、とでも言ってほしかったんですか?」
「違っ…!」
エレベーターの中に目的階へと到着した音が響き、峯さんは何事もなかったかのように自分の部屋へと向かう。
「なまえさん」
ドアを解錠し、開け放ったまま彼は言う。
「貴女の期待に応えてあげますが、あいにく今日は不愉快な物を見たせいで機嫌が悪くて。それでもよろしければ、どうぞ」
彼の機嫌がそんなに良くないということは、薄々気づいていた。しかもそれは、私のせいで。
”今から貴女を抱くけれど、優しくはしない”と言い放ったこんなどうしようもない男に、惹かれている。
静かな廊下に鳴り響くヒールの音、ゆっくりと音を立てて閉まる扉。
つくづく男運がないと思う。
私は本当に、変な男につかまるのが上手い女。
タイトル:確かに恋だったより拝借
「すみません、先約があるので」
「あ、じゃあ今度ご飯行こう。連絡先教えてよ」
友人の結婚式の帰り、新郎側の招待客にしつこく言い寄られてうんざりする。
他人の事を値踏みするような顔で見て天秤にかけて、お眼鏡に適った相手に声をかけて。きっとどこに行っても同じことしているんだろう。結婚式場は婚活パーティー会場じゃないというのに。
足早に会場を後にしたのにしつこくついてくる。キャバクラのキャッチか。
「困ります。彼氏いるんで」
「またまた。他の女の子に彼氏作りなよって言われてるの聞いてたよ」
デリカシーのデの字も持ち合わせてなさそうな男だなとつくづく思う。正直こちらにも選ぶ権利というものがあると思ったけど口には出さずに飲み込んだ。
「ほら、お高くとまってないでさ~ご飯ぐらいいじゃん」
私より長めの足で1歩前に出られてしまい、行く手を阻まれながら腕を取られた。
「ね?いいでしょ。行こうよ」
「ちょっと、やめてください。離して!」
早くこの手を離してほしくて身体ごとよじったとき、後ろにいた人に思いっきりぶつかってしまった。
「ごめんなさ…!」
「全く、貴女は何をしているんですか」
聞き覚えのある声に顔を上げると、そこにはよく知った男が呆れた顔で立っていた。
「峯さん…」
私をちらりと横目で見てから、迷惑な男の手をいとも簡単に払い「行きますよ」と腰に手を回し歩き出す。
そのまま無言で駐車場まで連れていかれ、彼が助手席のドアを開けて乗るように促される。助手席に乗り込んだ私がシートベルトをするのを確認すると、車を走らせた。
「あの、峯さん」
「なんですか」
「ありがとうございました。助かりました」
「変な男に捕まるのが本当にお上手ですね」
確かに私は男運が非常に悪い。とてつもない嫌味だった。
「…返す言葉もないんですけど」
「でしょうね」
そういえば峯さんと出会った時も、神田さんに絡まれているときだったな。その時は「この程度の女なら吐いて捨てるほどいる」と言われた。それでもこの人はことあるごとに”吐いて捨てるほどいる程度の女”と会って食事もするし、身体を重ねることもある。なかなか形容しづらい関係をずるずると続けてどのぐらい経ったんだろう。
その後特に会話もなく、窓の外を眺めていると彼の住むマンションに着いたようで車が止まった。
シートベルトを外そうと手をかけたところに、彼の手が重ねられる。一瞬思考が停止して、顔を上げれば峯さんの顔が近づき、薄い唇が私の唇に触れてすぐに離れた。
「言い忘れていましたけど、そのドレス、よくお似合いですよ」
「それはどうも…」
数日前に峯さんが送りつけてきた、深いグリーンのフィッシュテールワンピース。断りの電話を入れたけれど、「返されても私は着ないので困る」と当たり前のことを言われた。折角なので部屋で試着してみると仕立てたのかと思うぐらい私の体に合っていて、気に入ってしまった。それを見越して今、とってつけたように似合っていると言ったんだろう。
彼が車から降りるのを追いかけるようにして後に続く。
「なんでこのドレス、贈ってくださったんですか」
最上階へと私達を運ぶエレベーターの中で、純粋に疑問を口にする。
「先日会った時、友人の結婚式に着ていくドレスに迷っていると言っていたのはなまえさんでしょう」
「確かに言いましたけど、別にねだったわけじゃ…」
「貴女に似合いそうだと思ったから贈っただけで、特別な意味はありません」
「はぁ…」
「あぁ、それとも」
不意に振り返って私の背中に手をまわし、身体を引き寄せて耳元で囁く。
「このドレスを私の手で脱がせたかったから、とでも言ってほしかったんですか?」
「違っ…!」
エレベーターの中に目的階へと到着した音が響き、峯さんは何事もなかったかのように自分の部屋へと向かう。
「なまえさん」
ドアを解錠し、開け放ったまま彼は言う。
「貴女の期待に応えてあげますが、あいにく今日は不愉快な物を見たせいで機嫌が悪くて。それでもよろしければ、どうぞ」
彼の機嫌がそんなに良くないということは、薄々気づいていた。しかもそれは、私のせいで。
”今から貴女を抱くけれど、優しくはしない”と言い放ったこんなどうしようもない男に、惹かれている。
静かな廊下に鳴り響くヒールの音、ゆっくりと音を立てて閉まる扉。
つくづく男運がないと思う。
私は本当に、変な男につかまるのが上手い女。
タイトル:確かに恋だったより拝借
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