ぎこちない期
名前変換
この夢小説の名前設定原作に登場しないキャラであればお好きな名前に変換して読めます。
いずれもデフォルト名が設定されているので、未記入でも大丈夫です。
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
手を取って胸は高鳴り
ビオラが中庭のベンチに座って本を読んでいると、「ここにいたんだな」とホメロスに声をかけられた。
心なしか彼の息があがっているように見えたが、気のせいだろうと彼女は思った。一国の将軍たる彼がそう簡単に息切れするわけがない。
「はい。ホメロス様に言われたとおり、本を読むなら外のほうがいいかと思いまして」たいてい自室か書庫で本を読みふけっているビオラを見かねたホメロスが、たまには外の空気も吸えと言ったのが先日のことだった。
「あれは……そういう意味じゃなくて」彼は苦笑いをした。「外出を増やしたらどうか、と」
「ああ、なるほど」
「今日は天気もいいし」
「そうですね」
「ちょうど私も仕事が終わったところで」
「そうなんですか。お疲れさまです」
ホメロスは額に手を当ててしばらく沈黙したあと、なぜか観念した様子で、出かけよう、と言った。
城下町へ向かう道すがら、ふたりが交わした会話は「どこか行きたいところはあるか?」「いいえ特には」「そうか」だけだったが、ビオラは不思議と気まずさを感じなかった。忙しいホメロスと過ごせるだけでも嬉しかった。
しかし、ホメロスが行き先を決めていなかったのは意外だった。彼から出かけようと言ったのだから、てっきりどこかに用事があると思っていたが。とはいえ、彼とて目的を持たずに外をぶらつきたくなる日もあるだろうし、今日はそのついでにひきこもりがちな妻も連れ出して日光消毒してしまおうと考えたのかもしれない。
町ではいつもどおり行き交う人々に加え、旅の楽団の演奏を聴きにきた人たちでますます賑わっていた。
「人が多いな」ホメロスが気圧されたように言い、ビオラの手を握った。
えっ、とビオラが思わず声をあげると、彼は気まずそうな顔をした。
「……はぐれたら困るだろう」これはビオラに言っているというより、自分自身に言い聞かせているようだった。そんな彼の手は思っていたよりも大きく、あたたかった。
意外とごつごつしているんだな、と思ったところで彼女ははたと気づいた。これって要するに、デートなのではと。
急激に赤くなるビオラの顔を、ホメロスが見ていないことだけが幸いだった。