子育て奮闘期
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『悪魔の白い騎士』
むかしむかし、ある大きな国に、ふたりの男がいました。
ふたりの男はそれぞれ、着ている鎧の色にちなんで、黒い騎士、白い騎士とよばれていました。
王様は、国やひとびとのために戦うこの騎士たちを、とてもたよりにしていました。
黒い騎士は力が自慢で、大きな身体で大きな剣をふりまわして戦います。黒い騎士の力の強さは、巨大な魔物にだって負けません。
白い騎士は知恵が武器です。たくさんの本を読んで勉強した白い騎士は、どんな戦いでも、どうすれば勝てるのかすぐにわかります。白い騎士が考えた作戦で黒い騎士が戦うと、彼らはかならず勝ちました。
国のひとびとは、ふたりの騎士を英雄とたたえました。
しかし、いつしか、白い騎士は思うようになりました。
「たたえられるのはいつも黒い騎士の剣の腕ばかり。わたしも頑張っているのに、だれもそれを見てくれない……」
黒い騎士と白い騎士は、こどものころからの親友でしたが、みんなが黒騎士ばかりほめるものだから、白い騎士は黒い騎士がねたましくなりました。
自分も黒い騎士のようになりたい。黒い騎士の背中を追い続けるのはもういやだ!
白い騎士のこころは、だんだんと黒く染まっていきました。
そんなとき、白い騎士のまえにあらわれたのが魔王です。魔王は白い騎士の黒いこころに惹かれてやってきたのです。
「わたしにたましいを売るのなら、おまえにチカラをやろう」
そのチカラがあれば、黒い騎士にだって勝てるかもしれない。もう黒い騎士の陰にかくれることもないはずだ。
そうして白い騎士は人間であることを捨て、魔物になりました。
金色だった髪は白く、肌は青く、目は赤く、背には竜のような翼と尻尾、頭には黒く光るツノが生え、とてもおそろしい姿に変わりました。
魔王に仕える魔物となった白い騎士は、世界中を闇でおおいました。
そして、世界を救うために立ちあがったひとりの勇者と、勇者の仲間となった黒い騎士の前に立ちはだかります。
しかし、魔王から与えられたチカラを持ってしても、勇者と黒い騎士を倒すことはできませんでした。白い騎士は悔しがりました。
ぼろぼろのからだで倒れたまま動けなくなった白い騎士の前に、黒い騎士がやってきて、ひざをつきました。
「幼いころ、おれはおまえのようになりたくて、おまえの背中を追うので必死だったんだ」
黒い騎士もまた、白い騎士に憧れていたのです。
なんだ、そうだったのか。
たくさんの人から認められたいと思い、からっぽになっていた白い騎士のこころは、黒い騎士の言葉で満たされました。
白い騎士は、ゆっくりと目と閉じました。彼の口元には笑みが浮かべられ、やがて動かなくなりました。
*****
「どうした、絵本なんて開いて」
「あ、ホメロス様」書庫の本棚の前に立っていたビオラは、ホメロスの声に振りかえった。「フィーに読んであげる絵本を探していたんですよ」
彼女の脇にあるテーブルの上には、何冊もの絵本が積みあげられていた。若いころから使っているこの書庫に意外と絵本が置いてあったことを、ホメロスは初めて知った。
「なるほど」
「でもこれは、主人公が死んでしまうからよくないかなーって……」と、持っていた絵本を見せながら言った。
ホメロスはその絵本を受け取り、ざっと目を通した。
「たしかに、子供に読み聞かせるにはちょっと暗すぎるな」と、絵本を閉じる。「……それにこの白い騎士、主人公なのに人相が悪すぎる」
「そうですかね? わたしはかっこいいと思いますけど」
「ふーん……」感じ方は人それぞれだな、とホメロスは思った。
それからはホメロスも絵本探しを手伝い、やがて見つけた一冊の絵本をフィンフに読んであげた。二匹のホイミスライムが冒険をする物語だ。可愛らしい絵とわくわくする展開に、フィンフは手を叩いて喜んでいた。さらにこの物語はシリーズになっているので、今度は別の巻を読んであげることを約束した。
その夜、ホメロスはひとりで「悪魔の白い騎士」を読んでいた。子供には不向きだと思ったものの、なんとなく気になり、もう一度じっくり読んでみたくなったのだ。
この白い騎士は愚かな男だと思うが、どこか憎めない部分もあるし、どことなく自分と重なるところもある。ホメロスもまた、グレイグとの差に悩んでいた時期があったからだ。
思い返せば、幼いころはホメロスのほうが剣の腕は上だった。しかし成長期を迎えたあたりから、グレイグは力をつけ、どんどん強くなっていった。もう剣ではグレイグに敵わないと思い知ったとき、ホメロスは悔しさでいっぱいになった。
だがいつだったが、グレイグが部下たちに「ホメロスの導きがあれば、俺の剣が迷わずに済む」と語っていたのを偶然耳にした。長いことまとわりついていた劣等感から解放され、自分には自分だけの役割がある、と胸を張れた瞬間だった。
もし、自分が魔物にすがるとしたら、それは確実にビオラとフィンフに関することだ。たとえば、もしも彼女たちの身になにかあって、それを救うために魔物との取り引きが必要ならば、喜んで自らの魂を明け渡したことだろう。しまいには、この国を裏切ることさえもいとわないかもしれない。
かけがえのない妻と娘の存在は、言い換えれば己の致命的な弱点でもあった。
しかし幸い、このロトゼタシアには、絵本の魔王のような狡猾な魔物はいない。平和な世でよかったな、とホメロスは絵本を閉じた。