子育て奮闘期
名前変換
この夢小説の名前設定原作に登場しないキャラであればお好きな名前に変換して読めます。
いずれもデフォルト名が設定されているので、未記入でも大丈夫です。
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
固めのプディング~ホイップクリームと愛情を添えて~
ホメロスが料理の本を読みあさっていると、「とーさま、なにしてるの」とフィンフが訊いてきた。
「ん? かーさまになにか作ってあげようと思ってね」
ビオラは今日は朝からふせっている。彼女は病弱というわけではないのだが、どうも季節の変わり目に体調を崩しやすく、夏の暑さから一変して急に冷え込んだりすると、身体がついて行けなくなるのだという。
夏の疲れが一気にやってきたのもあるでしょうし、きちんと栄養と休息を取っていれば問題ないでしょう──と医者は言った。ちなみにこの医者というのは、いつだかの薬湯ばかり飲ませる老医師の孫である。いつの間にか老医師は引退し、代替わりしていたらしい。そしてやはりというかなんというか、この孫医者もなにかと薬湯をすすめてきて、先ほどビオラも飲まされていた。
話を元に戻そう。
食事の用意なら本来は料理人たちに任せておけばいいのだが、せっかくなら自分の料理で妻を元気にしたかった。思えば自分の手で料理をするようになったのも、妻と娘のおかげだ。彼女らを喜ばせたいという気持ちが、ホメロスを台所に立たせるのだ。
ポリッジ、スープ……。サンドイッチは、ちょっと重いか……などと考えていると、フィンフがお菓子の本を手に戻ってきた。
「とーさま、これは?」
彼女は本を開き、カスタードプディングの絵を指さした。卵と牛乳と砂糖だけで作るシンプルなデザートだが、蒸し固めるときの火加減に少しコツがいる。
食事を取らせることばかり考えていたので、デザートから選ぶのは頭になかった。しかし、やさしい口当たりのプディングであれば、食欲がない人間でも食べやすく、卵や牛乳が使われているから弱った身体にもいいはずだ。
「なるほど。いいな。これならかーさまも喜ぶだろう」ホメロスはフィンフの頭をなでた。「さっそく作るか」と、立ちあがる。
「フィーが味見してあげる」
「……要するに、フィーが食べたかったんだな」
日の高いうちからぐっすり眠ることなどできないビオラは、ベッドに入って本を読んでいた。
こんなことをしていると、意外と心配性なホメロスには「ちゃんと寝ていろ」と怒られてしまうのだが。今日は高熱を出しているわけではないので、多少は大目に見てくれるだろう。
部屋の扉がノックされ──一応本を隠してから──返事をすると、フィンフとホメロスが入ってきた。
「具合はどうだ?」とホメロスが訊いた。彼はなにやらトレイを持っている。
「ええ、大丈夫です」
「とーさまが『ぷぢんぐ』を作ったの、かーさま」ベッドの脇までやってきたフィンフが言った。
「ぷぢんぐ?」と、ビオラは首をかしげたが、運ばれてきたものを見て納得する。「ああ、プディングね」
華やかな柄が描かれた紅茶用のカップに、カラメルソースの載ったプディングが詰められている。中央にはホイップクリームがしぼられていて、見た目もかわいらしい。
「わあ、美味しそう」
「フィーも手伝ったの」
「フィーは容器にするカップを選んでくれたな」
「そうなの? すごいわね、フィー」とビオラがフィンフの頭をなでると、彼女はくすぐったそうに笑った。
その様子を見て、なぜかホメロスはうらやましそうな顔をした。
「かーさま、食べてみて」
「うん。いただきます」
ビオラはスプーンを手に取ると、プディングをひとさじすくって口に運んだ。
卵のやさしい風味が口のなかに広がる。ほのかに苦いカラメルソースがいいアクセントになっていて、やや固めな仕上がりもビオラの好みといえた。「美味しいです」
「初めて作ったにしては上出来だろう?」ホメロスはどこか得意気に言った。
「プディングなんて子供のとき以来ですよ。なんだか懐かしい味がします」
昔、母がよくプディングを作ってくれたことを思い出した。ビオラは久しぶりに母に会いたくなり、彼女の作るプディングも食べたくなった。
プディングが残り半分ほどになったころ、フィンフがこちらをじっと見つめているのに気がついた。
「フィーも食べたい?」
「うん」
「こら、それはかーさまのだぞ。フィーはさっきいっぱい食べたじゃないか」
父親に注意され、フィンフはしょんぼりとうなだれた。
ビオラは慌てて言った。「いいんですよ、ホメロス様。わたしはもう充分いただきましたから」
「そうか……すまないな」ホメロスはフィンフに向き直り「フィーもごめんな」と言った。
「うん。フィー、あとひとくちだけにする」
ビオラは大きめにすくったプディングを娘の口に運んだ。フィンフは満足そうに口をもぐもぐと動かしている。
その様子を見て嬉しくなったビオラは、プディングをもうひとさじすくうと、今度はホメロスのほうに差し出した。「ホメロス様も食べますか?」
「いや……フィーが見ている前でそんな……」
「いいじゃないですか」
そう言うビオラの笑顔にやられたのか、ホメロスは観念して口を開けた。