ラブラブ期
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琥珀糖
ビオラの部屋を訪ねると、彼女はなにやら荷物を広げていた。テーブルの上に、包み紙やら紐やらが散乱している。
「どうしたんだ、この荷物は」
「あ、ホメロス様。父からの届け物ですよ」
ビオラの父は貿易商として世界を飛び回っている。平民の出でありながらも、商才と雄弁さを活かして一代で財を成し、一年ほど前にデルカダール王国の御用達となってからはますます交易の幅を拡げていた。今やダーハルーネの大商人ラハディオとも並ぶ、世界でも指折りの豪商と言えるだろう。
「なるほど。義父上は、今はどちらに?」
「ホムラの里だそうです」ビオラが父からの手紙を読みながら言った。
荷物の中身は主にホカホカストーンや、里の印が書かれた縁結びの卵などといった、ホムラの名産品であった。仕事の合間に娘へ土産を送ったというところか。
「ああこれ! 嬉しい!」土産物のひとつに目を留めたビオラが歓喜の声をあげた。
「なんだ、それは」
「『琥珀糖』ですよ。ご存じないですか?」彼女が箱のふたを開けると、なかには包み紙でくるまれた小さな長方形のものが並んでいた。
「聞いたことないな……食べ物なのか?」
「そうですよ。ホムラの里で作られているお菓子なんです。ふふ、ホメロス様でも知らないものがあったんですね」と、なぜだかビオラは得意気に言った。「そうだ、食べてみてください」
ビオラは使用人を呼び、お茶の用意を頼んだ。
片付けられたテーブルにお茶が並ぶと、ビオラは琥珀糖の箱を差しだした。「どうぞ」
ひとつを手に取り、包み紙を外す。触った感じは結構硬い。飴なのだろうか。「どうやって食べるんだ」
「そのまま、かじってください」
かじる? 歯が折れてしまわないだろうか……と、おそるおそるかじってみると、しゃりっとした歯触りの直後にぷるんとした食感がやってきた。どうやら、硬いのは表面だけで、なかは寒天でできているらしい。
さらに、寒天には柑橘の皮が埋まっていて、そのさわやかな風味が砂糖の甘さを抑え、上品な味に仕上げている。
かじった断面はきらきらと輝き、なるほどたしかに宝石のように見えなくもない。琥珀糖、とはなんとも洒落た名前をつけたものだ。
「美味しいですか?」
「ああ」
「よかった」ビオラは身内が褒められたときのように嬉しそうな顔を見せた。「子供のころから、父からのお土産のなかではこれが一番好きだったんです。父さん、今でも覚えててくれたんですね」
デルカダール王との交渉のついでに娘を嫁にやったその父親に対して、ホメロスは当初、あまりいい印象を持てていなかった。だが、ホメロスがビオラの里帰りについて行ったとき、ふたりが仲良くやっているのを見て、義父は心底喜んでいる様子だった。
社交界と強固な結びつきを得るためにビオラを貴族の男と結婚させようとしていたと聞いたときは憤慨したものだが、こうして嫁いだ娘の住む城にあれこれ送り届けてくるのを見るに、彼なりに娘を大事に思っているのもうかがえた。
それになにより、ビオラが自分のそばにいてくれるのは、義父が売りこんでくれたおかげでもある。今となっては感謝しかない。
……しかし。
「……これからは私が買ってきてやろう」
「え?」
「妻を喜ばせるのは私の役目だ」そう言って、隣に座るビオラの腰に手を回し、自分のほうへ抱き寄せる。「おまえも早く、父親離れしないとな」
「は……はい」
ビオラの両親も兄も、彼女の成長をあたたかく見守っていたに違いない。その機会に立ち会えなかったと思うと悔しさもあるが、それならば、これからもっと長い時間を彼女と過ごせばいいだけだ。
早い話が、ビオラを生まれたときから知っている──それは当然と言えば当然だが──彼女の家族たちに嫉妬したのである。
ホメロスが包みを取った琥珀糖をビオラの口によせ、食べるように促す。
ビオラがおずおずと琥珀糖に歯を立てる。しゃり、という控えめな音が彼女の奥ゆかしさを表しているようで、ホメロスは愉快な気持ちになった。
「美味いだろう」と訊くと、ビオラは口をもぐもぐさせながらうなずき、ごくりと琥珀糖を飲みこんだ。彼女の頬がほのかに赤く染まっている。
大事に育てられた娘を娶った以上、早いところ義父を安心させてやらねばなるまい。これからはホメロスがビオラを冷えから守る。だからもう、ホカホカストーンは必要ないことも知ってもらおう。