ぎこちない期
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言い方
さっきから、ビオラが気まずそうにこちらを見ている。
よく見てみると、彼女の視線はホメロスの胸元に向けられていた。そこに目をやると、なるほど着ているシャツのボタンがひとつずつずれている。
ホメロスは恥ずかしさと苛立ちで顔が赤くなるのを感じた。ボタンのずれを直しながらビオラに訊く。「気づいていたのか」
「……はい」
「どうして言わなかったんだ」
ビオラは申し訳なさそうに言った。「も、もしかしたら、そういう着こなしをされているのかなって……」
「そんなわけないだろう」
「ひ……すみません」と、ビオラはたちまち泣きそうな顔になった。
ホメロスはぎょっとした。「な、泣くな。別に君を責めているんじゃない」
「すみません……」
「……もういいから、謝るな」
「はい、すみません…………あっ」彼女は涙をこぼすまいと下唇に力を入れてぐっとこらえていたが、とうとうぽろりと涙がこぼれ落ちた。
ホメロスは手巾でビオラの涙を拭ってやりながら、自分の言い方が悪かったことを認めた。黙っていたビオラに当たるのは筋違いというものだ。プライドの高いホメロスに直接指摘していいものか、彼女なりに考えていてくれたのだろう。
……もう少し、ビオラを萎縮させない物言いを覚えなければ。
つい厳しい言い方になるのは──ホメロスのもともとの性格もあるが──多くの兵士を束ねる立場である以上、必要なことでもある。弱々しく頼りない人間に、喜んでついて行きたいと思う者はいないだろう。厳しい印象と共に、部下たちには安心も与えている……はずだ。
しかしビオラは部下ではなく、妻だ。夫婦というものは、一般的には夫のほうが優位とされているが、ホメロスはビオラとは立場や年齢を抜きにした対等な関係を築いていきたいと思っている。
そのためにはまず、柔和な印象を与える練習から始めよう。書庫を探せば、一冊ぐらいは参考になる本があるだろう。
「あ、あの……ホメロス様……」
ビオラの呼ぶ声で我に返った。
「……ん?」
「顔が……く、苦しいです……」
ホメロスの手は、無意識に手巾をビオラの顔に押しつけていた。
「…………ごめん」ホメロスは手を離した。涙はとうに止まったらしかった。