ぎこちない期
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夫の重み
「少し寝る」と言いながら、ホメロスがソファに座るビオラの膝に頭を載せた。その動作があまりにも自然でスムーズだったため、ビオラには驚く時間すら与えられなかった。
仰向けに寝たホメロスは両手を組んで早くも目を閉じている。目元にはうっすら疲れの色が浮かび──それでも彼の顔はかっこいい──まもなく眠りに落ちそうだった。
こういうとき、膝枕する側はどうしていればいいのかをビオラは知らない。結婚生活の秘訣を書いた本は数多くあれども、夫に膝枕をするときの妻の心構えまでは記されていなかった。
とりあえずじっとしていようと思うと、すぐに手持ち無沙汰になった。しかし、まさかこの状況で本を読むわけにもいかない。
右手でそっとホメロスの頭に触れる。彼の髪はなめらかだが、ところどころが常に跳ねている。ビオラはこの毛からわずかな隙を感じていた。知略の軍師にも直しきれない癖毛があるのだ、と。
ふっと笑みをこぼすと、金色の瞳と目が合った。彼を起こしてしまったらしい。
「すみません、煩わしかったですか……?」慌てて手を引っこめる。
「いいや……」ホメロスは気まずそうに目をそらした。「デルカダール軍の命運を握る頭脳だ……丁重に扱えよ」と言って、また目を閉じた。
彼なりに冗談を言ったのだと、少し経ってからわかった。そんな大事なものが今は自分の膝の上に預けられているなんて、にわかには信じられなかった。ビオラは労りの意味をこめて、ふたたび彼の頭をなでた。今度は彼も目を開けなかった。
ホメロスには考えることがたくさんある。軍の指揮だけに限らず、この国全体の未来も。将軍である以上は当然なのかもしれないが、ビオラは少しだけさみしさを感じずにはいられなかった。
彼の頭のなかが、自分でいっぱいになることなどないと思うと。
ビオラは頭を振った。一体なにを考えているのだろう。デルカダール王国の繁栄に欠かせない存在を、ひとり占めしたいなどとは。……それに、仕事を放り出すほどに妻に夢中になっているホメロスは、さすがにちょっと気味が悪い。
ビオラは左手をホメロスの胸に置いた。ゆっくりと胸を上下させる穏やかな彼の呼吸が、今だけはわたしが夫の安らかな眠りを守っているのだ、とひそかな優越感をもたらした。
やがて、ビオラの左手に大きな手が重なった。