気まずい期
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贖いの祈り
晴れた日でもどこか寒々しい墓地のさらにひっそりとした場所に、ホメロスの母は眠っている。今日のようにひとりで彼女の元を訪れるのを、ホメロスは月に一度の習慣としていた。
ホメロスは来る途中で買ってきた花束を供えると、目の前の小さな墓を見やった。装飾は最低限で、経年によりところどころ欠けており、墓標に刻まれた文字も年々読みづらくなってきている。この素っ気ない墓の下に埋められているのが、かつては栄華を極めた貴族の血を引く婦人であるなどと誰が思うだろうか。
医者には匙を投げられ、身内にも看取られずに死んでいった母。彼女の最期を知ったあの日から、ホメロスの心はどこか空虚になってしまった。当時は無力な子供であったばかりに母を救うことができなかった。彼女がたったひとりで死を迎えなければならなかった原因は遠からず自分にある。多忙でも毎月必ず墓参りに来ているのは、母を想う気持ちに加えて、そうした後ろめたさがあるからかもしれない。
墓を建て直すことも考えた。季節の花が咲く、日当たりのいい場所なら母も安らかに眠れるのではないか、と。しかし墓が替わったぐらいで彼女の悲しみを晴らせるわけでもなく、なにより、この程度のことで償いをした気になるのが嫌だった。
自分はもっと苦しまなければならない。よく、時間が解決してくれるとは言うが、心にのしかかる重石は年を経るごとに大きくなっていくような気がした。このままいくと、いつか背負いきれずに押しつぶされてしまうのではないか。
ふと、ホメロスはビオラの顔を思い浮かべた。数週間前に娶ったばかりの、名目上の妻。初対面のときの自身の失態のせいで、彼女とは未だに言葉を交わすことすらままならない。ビオラの方も、親の都合だけで決められた夫を避けているようだった。無理もない。
なのにどうして、ビオラが隣に立っているところを思い描いているのだろう。彼女が会ったこともない母を偲んでいる姿を想像すると心が少しだけ軽くなるのは何故なのか。
ホメロスは首を振って都合のいい幻を追い払った。無性にきまりが悪くなり、「また来ます、母上」とだけ言い残し、母の墓をあとにした。
さっきのは単なる現実逃避だ。自分が背負うべき荷物を妻にも押し付けようとしているのだ。まともに会話もできない相手に寄りかかろうだなんて、ずいぶん虫がよすぎるんじゃないか。必死で言い聞かせたものの、そうなってくれたらいいなと思わずにはいられなかった。