思い出のかけら
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将軍と姫のエピローグ
まただ。もう何回目だろう。
絹を裂くようなマルティナの悲鳴と、「姫様、しっかり!」と彼女を励ます産婆や女中たちの声を壁越しに聞くたびに、グレイグは心臓を掴まれる思いがした。しかし、妻が今耐えている痛みに比べればこれぐらいどうってことないはずだ、と自らを奮い立たせた。深く息を吸いこむ。
「痛い痛い痛い。放せ」隣に座るホメロスが言った。グレイグは無意識に彼の手首を掴んでいたらしい。
「ああ、悪い」手を離した直後、再び妻の叫び声が響き渡った。そこでとうとうグレイグの不安をせき止めていた壁は崩れ去り、大の男は大の男に抱きつかざるを得なくなった。「知らなかったんだよ! 子を産むことがこんなにも大変だったとは……!」抑え込んでいた恐れが洪水のように押し寄せてくるのを感じた。実際に涙と鼻水も勢いよく流れて出てきた。
「わかったから、落ち着け」自分の服が汚れないように、ホメロスはグレイグの顔にハンカチを押し付けた。
「決めたぞ、俺はもう子供を作らない! 彼女に子供を産ませない! 妻を失うぐらいなら子孫繁栄などクソくらえだ!」
「そうやって勝手に決めたら、姫が怒るぞ。ていうか抱きつくな」気色悪い、と言いつつも、ホメロスの手がグレイグの背中をさする。
不本意ながらそうしているのはわかっていたが、それでも充分ありがたかった。グレイグは友の不器用な優しさに感謝しながら、彼のハンカチで鼻をかんだ。ホメロスのうめき声が聞こえたような気がする。
こうして、気持ちが落ち着いては不安になり、涙を流しては顔を拭かれを繰り返していると、扉が音を立てて開き、女中のひとりが飛び出してきた。「グレイグ様! お生まれになりました!」
「本当か!」グレイグは立ちあがった。「マルティナは!?」
「ご無事でございます!」
いい加減涸れたと思っていた涙が再び溢れてきた。「ホメロス! 生まれたって! マルティナも無事だって!」安堵と感激のあまり、グレイグは泣きながらホメロスを力強く抱きしめた。
「いや、泣くのはここじゃないし抱きしめるのはオレじゃないだろう」
生まれたばかりの息子は元気よく泣き、今は父親の腕の中で眠っている。
とても小さい。が、たしかに生きているのだ、と思ったらまた視界がにじんできた。父親がこんなに泣いてばかりでは心許ないだろうか。でも、今日だけはゆるしてほしい。
グレイグが寝台に横たわるマルティナに目を向けると、彼女は笑みを返した。妻は長時間に及んだ出産で疲れているものの、思っていたより顔色もよく、元気そうだった。
「あなた、この子の名前、どうする?」
「そうだな……」名前。そう、親から子への一番最初の贈りもの。我が子が一生涯使う、大事な大事な一点もの。「トンヌラ、なんてどうだろうか」
マルティナは笑顔で答えた。「却下」