ラブラブ期
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瞳に映る、家族の肖像
奥様にお手紙です、と部屋を訪ねた兵士から一枚の葉書を受け取ったビオラは、たちまち顔をほころばせた。
「義兄上からか?」そうであってほしい、と思いながらホメロスは訊いた。
「はい。旅先から送ってくれたんです」と、彼女が葉書を手渡した。訪れた先の風景が描かれた絵葉書には、妹の身体を案じる言葉が添えられている。さらに、まだ余白があったからか、「旦那様にもよろしく」とも書かれていた。
ホメロスの義兄──つまりビオラの兄とは面識があった。彼と会ったのは一度きりだが、そのときの彼の寛大さは忘れようにも忘れられない。職業柄、どうしても人を値踏みしがちなホメロスに「慈悲深い御仁」と印象づけさせたほどである。なお、詳細は話すと長くなるので割愛する。
「義兄上とは仲がいいんだな」妹とその婿に向けられた、義兄の穏やかな目を思い出しながら言った。「私にはきょうだいがいないから、うらやましいよ」
ビオラが少しだけ目を見開いた。「ホメロス様、ひとりっ子なんですか?」なぜだか、とてもいいことを聞いたとでも言いたげな顔をしている。
「……まあ、うん」しまった、と思った。ホメロスはこれまで、ビオラに自分の家族の話をしたことがなかった。いつだったか、彼女にホメロスの両親についてそれとなく訊かれたときも、適当にはぐらかしてしまったぐらいだ。別に隠すつもりはないのだが、できればあまり知られたくないのが正直なところだった。
なのに、まさか自ら訊かれるでもなく口走ってしまうとは。それだけ彼女に心をゆるしつつあるということか。あるいは、遠方から手紙を送ってくれる肉親のいるビオラが、本当にうらやましかったのかもしれない。
幸い、ビオラは彼の家族構成についてはそれ以上触れず、黙ってなにやら考えこんでいた。
いつになるかはわからないが、そのうち彼女にはきちんと話せたらいい、などと思っていると、ビオラが口を開いた。「でも……グレイグ様やマルティナ様は、ホメロス様にとって、ごきょうだいのようなものではないでしょうか?」
「ん?」一瞬、理解が遅れたが、どうやら彼女はまだホメロスが「ひとりっ子」であることついて思いを巡らせていたらしい。きょうだいがいなくてさみしかったのでは、とでも思われたのだろうか。「ああ、たしかに……きょうだい、みたいなものかな」あれはきょうだいというよりもうるさい小姑だな、とは思ったものの、口にはしなかった。ここは素直に彼女の言葉を受け止めたかった。
「それに、国王様も、ホメロス様やグレイグ様のことを、実の息子のように可愛がっておられます」
主君という立場を利用して、面倒な仕事を自分らに押し付けることを果たして「可愛がる」と言うのかは判然としないが、むろん、彼女が言いたいのはそういうことではないのはわかる。
良くも悪くも自由奔放な彼らが家族というのも複雑だが、ビオラなりに、あなたはもうさみしくないですよ、と言ってくれているのかもしれない。
あたたかなものに触れた気がした。ふいに、いつか子供のころに見た、花びらの入った氷を思い出した。彼の心の中で、その氷が徐々に解けていった。
「そうだな。私には家族がいる。こじゅう……きょうだいみたいなグレイグとマルティナ姫、主君ではあるが育ての親も同然のデルカダール王」氷から自由になった花びらが、風に乗って飛んでいく。「そして、おまえも」ビオラの目をのぞきこむ。ふわふわと舞う花びらが、彼女の青みがかった灰色の目に吸い込まれていったように見えた。
「わ、わたし?」不意打ちを喰らったかのように、彼女が目を丸くした。
その表情に思わず笑い出してしまう。「だってそうだろう。おまえは私の妻で、私の一番の家族だ」
今度はビオラの頬が赤く染まる。まだ、妻という言い方にも慣れていないらしい。
「ホメロス様の、家族……」そうだった、とでも言うように今さら恥ずかしがっている。とうに夫婦の契りを交わしたとは思えないほどの初々しさだった。ここまで抜けていると社会生活でなにかと苦労しそうだな、でもそんなところもかわいいな、などと思っていると、彼女が「わたしにとっての一番の家族も、ホメロス様です」と言った。
「実家の、ご家族ではなくてか?」兄からの手紙を受け取ったときの、ぱっと明るくなったような彼女の笑顔を思い出す。一番というからには、彼ら以上に笑顔を届けられる存在にならなければならないのだ。いや、なってやろうじゃないか。
ビオラがうなずいた。頼みましたよ、と言われているような気がした。わたしを笑わせてくださいね、と。
ありがたき光栄だ、とホメロスの手がビオラの頬を包み、そっと引き寄せた。