五月、花の香とともに
ドキドキと心臓が痛い。思わず手に力が入りかけて、慌てて力を抜いた。花は繊細だから、優しくふわりと掴まないと。
数ヶ月前からネットとか、ショッピングモールで延々と見繕っていたプレゼントも一緒に手元にある。忘れ物はない。準備も完璧だ。それなのにこんなに胸が痛いのは、この間した約束のせいだ。
「ああ……無理だ、恥ずかしすぎる……いや、俺が恥ずかしい奴だってのは、結構前から分かってたけどさ……」
花屋さんから貰ったカレンダーを見ながら、あーでもないこーでもないと悩み続けて遂にこの日がやって来た。大きく息を吸って、覚悟を決めた。昂くんに今から行くねとメッセージを送って、軽く身だしなみを整えて部屋を出た。
何度も通ったことのある道のりなのに、やけに早く着いたように感じて鼓動が早くなる。
扉の前で、大きく深呼吸してインターホンを押した。声、震えないといいな。
事前に連絡してたから、扉はすぐに開いた。心なしか、いつもより楽しそうな昂くんの表情を見て、心拍数が上がっていく。本当にイケメンはずるい。誕生日に少しだけ楽しそうな昂くんは、健やかなイケメンって感じがする。そこがいい。
「昂くん!お誕生日おめでとう!」
満を持して持ってきた花束を差し出して、お祝いの言葉を贈る。
「ありがとう、空」
ほんのりと頬を染めて、緩やかな微笑みを向けられた。俺は本当にその笑顔に弱い。心臓が荒ぶって、顔が熱くなる。それでも視線を逸らすことが出来ないぐらい、魅力的だ。
「今回の花は……カラーか?」
「えっ、知ってるの?」
「この花は特徴的だから、気になって以前調べたことがあったんだ」
「へぇ」
自主的に調べるなんて、さすが昂くん。俺は花屋さんで見るまで正直いうと、ピンと来なかった。
「ところで、この間の約束なんだが……教えてくれるか?」
「や、約束……だもんね」
一気に顔が熱くなる。あまりにも恥ずかしくて頭を覆いたくなるけど、今だけはなけなしの勇気をかき集める。
「……笑わないでね?」
「ああ、笑わない」
「その……昂くんに……お花あげたいな、って……思ったから」
きっかけは5月1日のすずらんだった。本当に下心も何もない、ただのプレゼントのつもりだったんだ。それなのに、それなのに……
「お花と昂くん、絶対綺麗だし……とっても似合うし……その、プレゼントした時の笑顔が、すごく好きで……」
昂くんの笑顔が見たいからプレゼントしてたなんて、あまりにも恥ずかしすぎる。
ああ、声が震えてきた。目の前がくらくらして、頭の奥がツンとする。でも、これだけは言いたくて、頑張って喉を震わす。
「す、好き……だから」
これ以上昂くんを見ていられなくて、視線を足元に落とした。
気持ちを言葉にするのは凄く大変だ。好きな気持ちは溢れるほど沢山あるのに、喉に詰まって出てこない。お花と一緒に少しずつ“好き”って気持ちを手渡して減らしてきたつもりだったけど、お返しに貰った笑顔で渡した以上に“好き”が溜まってく。
「それだけだから!他に深い意味なんてなくて、ただ本当に、そ、それだけ!それじゃ」
言い逃げってやつをしようとした。あまりにもいたたまれなくて、渡すものは渡したし、部屋に戻ろうと身体の向きを変えたとき、手首を掴まれて逃げるのを阻止された。
羞恥で死にそうな俺の耳に飛び込んてきたのは、意外な一言だった。
「一緒にお茶でも飲まないか?」
そっと昂くんを見上げて驚いた。俺はずっと熱で浮かされたような感じだったけど、もしかすると昂くんも似たような感じだったかもしれない。見たことがないほど昂くんの表情はゆるゆるで、耳先が真っ赤に染まっている。
昂くんは小さく吐息をつくと、嬉しそうに微笑んだ。
「ずっと、お礼がしたかったんだ」
とろけるような熱い視線を受け取って、俺はまた“好き”が溜まってく。
数ヶ月前からネットとか、ショッピングモールで延々と見繕っていたプレゼントも一緒に手元にある。忘れ物はない。準備も完璧だ。それなのにこんなに胸が痛いのは、この間した約束のせいだ。
「ああ……無理だ、恥ずかしすぎる……いや、俺が恥ずかしい奴だってのは、結構前から分かってたけどさ……」
花屋さんから貰ったカレンダーを見ながら、あーでもないこーでもないと悩み続けて遂にこの日がやって来た。大きく息を吸って、覚悟を決めた。昂くんに今から行くねとメッセージを送って、軽く身だしなみを整えて部屋を出た。
何度も通ったことのある道のりなのに、やけに早く着いたように感じて鼓動が早くなる。
扉の前で、大きく深呼吸してインターホンを押した。声、震えないといいな。
事前に連絡してたから、扉はすぐに開いた。心なしか、いつもより楽しそうな昂くんの表情を見て、心拍数が上がっていく。本当にイケメンはずるい。誕生日に少しだけ楽しそうな昂くんは、健やかなイケメンって感じがする。そこがいい。
「昂くん!お誕生日おめでとう!」
満を持して持ってきた花束を差し出して、お祝いの言葉を贈る。
「ありがとう、空」
ほんのりと頬を染めて、緩やかな微笑みを向けられた。俺は本当にその笑顔に弱い。心臓が荒ぶって、顔が熱くなる。それでも視線を逸らすことが出来ないぐらい、魅力的だ。
「今回の花は……カラーか?」
「えっ、知ってるの?」
「この花は特徴的だから、気になって以前調べたことがあったんだ」
「へぇ」
自主的に調べるなんて、さすが昂くん。俺は花屋さんで見るまで正直いうと、ピンと来なかった。
「ところで、この間の約束なんだが……教えてくれるか?」
「や、約束……だもんね」
一気に顔が熱くなる。あまりにも恥ずかしくて頭を覆いたくなるけど、今だけはなけなしの勇気をかき集める。
「……笑わないでね?」
「ああ、笑わない」
「その……昂くんに……お花あげたいな、って……思ったから」
きっかけは5月1日のすずらんだった。本当に下心も何もない、ただのプレゼントのつもりだったんだ。それなのに、それなのに……
「お花と昂くん、絶対綺麗だし……とっても似合うし……その、プレゼントした時の笑顔が、すごく好きで……」
昂くんの笑顔が見たいからプレゼントしてたなんて、あまりにも恥ずかしすぎる。
ああ、声が震えてきた。目の前がくらくらして、頭の奥がツンとする。でも、これだけは言いたくて、頑張って喉を震わす。
「す、好き……だから」
これ以上昂くんを見ていられなくて、視線を足元に落とした。
気持ちを言葉にするのは凄く大変だ。好きな気持ちは溢れるほど沢山あるのに、喉に詰まって出てこない。お花と一緒に少しずつ“好き”って気持ちを手渡して減らしてきたつもりだったけど、お返しに貰った笑顔で渡した以上に“好き”が溜まってく。
「それだけだから!他に深い意味なんてなくて、ただ本当に、そ、それだけ!それじゃ」
言い逃げってやつをしようとした。あまりにもいたたまれなくて、渡すものは渡したし、部屋に戻ろうと身体の向きを変えたとき、手首を掴まれて逃げるのを阻止された。
羞恥で死にそうな俺の耳に飛び込んてきたのは、意外な一言だった。
「一緒にお茶でも飲まないか?」
そっと昂くんを見上げて驚いた。俺はずっと熱で浮かされたような感じだったけど、もしかすると昂くんも似たような感じだったかもしれない。見たことがないほど昂くんの表情はゆるゆるで、耳先が真っ赤に染まっている。
昂くんは小さく吐息をつくと、嬉しそうに微笑んだ。
「ずっと、お礼がしたかったんだ」
とろけるような熱い視線を受け取って、俺はまた“好き”が溜まってく。