五月、花の香とともに
朝、とても良い日だった。天気は曇りだったけど、夢見が良かったのかすっきりとした気分で目が覚めた。ベーコンの焼ける音と、スープのいい匂いに誘われるようにリビングへと出てみれば、丁度マフィンが焼きあがったのか、オーブンが軽快な音を鳴らした。
「おはよう、ケン」
「おはよーコウ。あれ?今日は俺が一番乗り?」
大体早起きのリョウが早く来て、コウの朝食作りを手伝ったりしているけど、今日はコウが一人でキッチンに立っていた。衛はいつもいたりいなかったり。衛がいるときは大体、夜中に起きて朝まで作業してた時だ。
ということは、リョウは仕事で衛はまだ寝てるか作業してるか……。
「リョウは今度のドラマの番宣で朝の番組に出るからもう出たよ。衛はまたフローリングで寝ていたから、起こして部屋に返した」
「あー……なるほどね」
俺の予想はそれなりに当たっていたみたいだ。
「んじゃ、今朝は俺が紅茶を入れるよ」
「ありがとう。助かる」
「ティーパックだけどね」
俺はリョウみたいにそこまでこだわりはないし、衛みたいにこれが唯一の仕事だと思ってやってない。お手軽で手早く美味しく出来れば上々だ。
お湯を沸かそうとケトルを手に取ったとき、見慣れない物が目に入った。
「コウ、これどしたの?」
ダイニングテーブルの中心、背丈の小さな花瓶に白い花が活けられていた。小ぶりのそれは頭を垂れるように咲かせていて、蔓のようにウェーブを巻いている若草色の葉が、おしとやかな花を覆って大きく見せるように膨らんでいる。
「空に貰ったんだ」
「あれ?前もすずらん貰ってなかったか?」
「これは、撮影で使ったのを貰ってきたらしい。ボリュームもあって華やかで、せっかくだからリビングに持ってきたんだ」
「SOARAが撮影で?」
「ああ」
少し気になって聞き返せば、コウは鍋をかき混ぜながらなんともなさげに頷いた。
いや、撮影に花を使わないこともないだろうけど、なんというか……小ぶりな白い花はどうもSOARAとイメージが合わない。どちらかといえば大きくて鮮やかな花の方が合うだろうに。
どうやら花瓶ごと設えた花のようで、花瓶の根元を彩ってる色紙を興味本位で退けてみた。想像通り花屋さんのカードが刺さっている。場所を確認すればすぐ近所の花屋さんのもので、思わず笑いが込み上げてきた。
「なるほどね」
「ん?どうした?」
「んや、何でもない。コウは紅茶、何がいい?っても、スタンダードなのしかないけど」
適当に会話を返しつつショップカードを気づきにくい奥の方へ押し込んだ。なんというか、爪が甘いのも空らしい。面白そうだから、もう少しだけ内緒にしておこう。
「ケンが飲みたいもので構わない」
「ん、りょーかい」
ティーパックを取り出したマグの中に入れて、お湯が沸くまでコウの手伝い。ボウルからサラダを取り分けながら、なんとなく聞いてみる。
「ちなみにさ、あの花、なんて名前?」
「確か、空が言うにはバイモユリという名前らしい」
「へぇ」
後で調べてみよう。空がわざわざ花屋さんで買ってプレゼントした花だし、無意味な訳無いだろう。
それにしても、
「今朝のコウ様は、随分とご機嫌だな」
「そう見えるか?」
「とーっても!空からプレゼント貰ったからだろ?」
「……ストレートに言われると少し恥ずかしいな」
付き合いが長いってのもあるけど、どうもコウは空が絡むとかなり分かりやすくなる。
親友が嬉しそうに頬を染めてるのを見るのは嫌いじゃないから、俺は全然構わないんだけどね。でもさ、これでまだ健全にお友達やってるからそっちの方がびっくりだよ、俺は。
丁度沸いたケトルからお湯をティーポットに移しながら、気づかれないように小さくため息をついた。
「おはよう、ケン」
「おはよーコウ。あれ?今日は俺が一番乗り?」
大体早起きのリョウが早く来て、コウの朝食作りを手伝ったりしているけど、今日はコウが一人でキッチンに立っていた。衛はいつもいたりいなかったり。衛がいるときは大体、夜中に起きて朝まで作業してた時だ。
ということは、リョウは仕事で衛はまだ寝てるか作業してるか……。
「リョウは今度のドラマの番宣で朝の番組に出るからもう出たよ。衛はまたフローリングで寝ていたから、起こして部屋に返した」
「あー……なるほどね」
俺の予想はそれなりに当たっていたみたいだ。
「んじゃ、今朝は俺が紅茶を入れるよ」
「ありがとう。助かる」
「ティーパックだけどね」
俺はリョウみたいにそこまでこだわりはないし、衛みたいにこれが唯一の仕事だと思ってやってない。お手軽で手早く美味しく出来れば上々だ。
お湯を沸かそうとケトルを手に取ったとき、見慣れない物が目に入った。
「コウ、これどしたの?」
ダイニングテーブルの中心、背丈の小さな花瓶に白い花が活けられていた。小ぶりのそれは頭を垂れるように咲かせていて、蔓のようにウェーブを巻いている若草色の葉が、おしとやかな花を覆って大きく見せるように膨らんでいる。
「空に貰ったんだ」
「あれ?前もすずらん貰ってなかったか?」
「これは、撮影で使ったのを貰ってきたらしい。ボリュームもあって華やかで、せっかくだからリビングに持ってきたんだ」
「SOARAが撮影で?」
「ああ」
少し気になって聞き返せば、コウは鍋をかき混ぜながらなんともなさげに頷いた。
いや、撮影に花を使わないこともないだろうけど、なんというか……小ぶりな白い花はどうもSOARAとイメージが合わない。どちらかといえば大きくて鮮やかな花の方が合うだろうに。
どうやら花瓶ごと設えた花のようで、花瓶の根元を彩ってる色紙を興味本位で退けてみた。想像通り花屋さんのカードが刺さっている。場所を確認すればすぐ近所の花屋さんのもので、思わず笑いが込み上げてきた。
「なるほどね」
「ん?どうした?」
「んや、何でもない。コウは紅茶、何がいい?っても、スタンダードなのしかないけど」
適当に会話を返しつつショップカードを気づきにくい奥の方へ押し込んだ。なんというか、爪が甘いのも空らしい。面白そうだから、もう少しだけ内緒にしておこう。
「ケンが飲みたいもので構わない」
「ん、りょーかい」
ティーパックを取り出したマグの中に入れて、お湯が沸くまでコウの手伝い。ボウルからサラダを取り分けながら、なんとなく聞いてみる。
「ちなみにさ、あの花、なんて名前?」
「確か、空が言うにはバイモユリという名前らしい」
「へぇ」
後で調べてみよう。空がわざわざ花屋さんで買ってプレゼントした花だし、無意味な訳無いだろう。
それにしても、
「今朝のコウ様は、随分とご機嫌だな」
「そう見えるか?」
「とーっても!空からプレゼント貰ったからだろ?」
「……ストレートに言われると少し恥ずかしいな」
付き合いが長いってのもあるけど、どうもコウは空が絡むとかなり分かりやすくなる。
親友が嬉しそうに頬を染めてるのを見るのは嫌いじゃないから、俺は全然構わないんだけどね。でもさ、これでまだ健全にお友達やってるからそっちの方がびっくりだよ、俺は。
丁度沸いたケトルからお湯をティーポットに移しながら、気づかれないように小さくため息をついた。