Ⅰ.砂上の夢
✈
風が変わった。
収穫途中だった稲をその場に置いて、鎌を腰帯に引っ掛けた。
「おばさんゴメンね!途中まで刈ったやつ、ここ置いとくね!」
胸まである高さの稲の隙間から、人の良い顔のおばさんが顔を出した。
「おう、あんがとよー!」
それを聞いてにっと笑う。
畑に背を向けて勢いよく走り出す。畑と田んぼを抜けて、市場を通った。
「おっ、若! 今日も元気だね! 気を付けるんだよ!」
「うん! ありがとー!」
「あっ! 若さま、後でうちの果物食べに来てよ!」
「マジで? 後で絶対行くね!」
「おい、糞ガキ! てめぇ良くもウチの屋根壊したな!」
「やっべぇ! ゴメン! 後で直す!」
「後っていつだゴラァ!」
感謝と罵声を背後に流しながら、町中を速度を落とさず駆けた。急いでいるのに、これだから人気者は辛い。
今は急いで高台に向かわなければ。
町を抜けた先に小高い丘がある。この国一番名物の大風車が並ぶ、風の草原だ。風車の上に見知った顔が見えた。何か叫んでいるようだが、声は羽の回る音で聞こえない。何かを感じ取ったのか急いで降りてくる姿が遠くで見えた。
そして、丘の一番高いところまでやってきた。一番遠くまで見渡せる見晴らしのいいところだ。青々とした草が、風に煽られ揺れている。
やはり、いつもの風じゃない。
「どうしたんだ?」
風車に登ってたノゾムが、鍵棒を手にしたまま隣にやってくる。
「と、突然、走り出さないでよ……」
行きも絶え絶えになりながら、籠を背負ったモリもやってきた。一緒に稲刈りしてたのを忘れていた。
「あっちゃあ、モリごめん」
「そんな事よりなんかあったんだろ?ソラ」
「うん。まだ分からないけど、何かが起きている」
ノゾムが手に持った鍵棒で肩をトントンと叩く。
「まぁ、ソラのカンはハズレねぇからな!」
「へへっ、まあね。それよりも、鳥を飛ばして」
「どこに飛ばす?」
「ここより、北東。……コウの国の方だ」
「りょーかい!」
ノゾムが背中を向けて鳥小屋の方へ走っていった。
「モリ、しばらくの間、頼むね」
「ソラも行くの?」
「うん。俺も行く」
ズレた眼鏡を直しながら、モリはいつものように仕方ないという顔をした。
「分かった。待ってるから、ちゃんと帰ってきてね」
その笑顔に背中を押される。
「おーともよ!」
俺は親指を立てて、その場を後にした。
風が変わった。
収穫途中だった稲をその場に置いて、鎌を腰帯に引っ掛けた。
「おばさんゴメンね!途中まで刈ったやつ、ここ置いとくね!」
胸まである高さの稲の隙間から、人の良い顔のおばさんが顔を出した。
「おう、あんがとよー!」
それを聞いてにっと笑う。
畑に背を向けて勢いよく走り出す。畑と田んぼを抜けて、市場を通った。
「おっ、若! 今日も元気だね! 気を付けるんだよ!」
「うん! ありがとー!」
「あっ! 若さま、後でうちの果物食べに来てよ!」
「マジで? 後で絶対行くね!」
「おい、糞ガキ! てめぇ良くもウチの屋根壊したな!」
「やっべぇ! ゴメン! 後で直す!」
「後っていつだゴラァ!」
感謝と罵声を背後に流しながら、町中を速度を落とさず駆けた。急いでいるのに、これだから人気者は辛い。
今は急いで高台に向かわなければ。
町を抜けた先に小高い丘がある。この国一番名物の大風車が並ぶ、風の草原だ。風車の上に見知った顔が見えた。何か叫んでいるようだが、声は羽の回る音で聞こえない。何かを感じ取ったのか急いで降りてくる姿が遠くで見えた。
そして、丘の一番高いところまでやってきた。一番遠くまで見渡せる見晴らしのいいところだ。青々とした草が、風に煽られ揺れている。
やはり、いつもの風じゃない。
「どうしたんだ?」
風車に登ってたノゾムが、鍵棒を手にしたまま隣にやってくる。
「と、突然、走り出さないでよ……」
行きも絶え絶えになりながら、籠を背負ったモリもやってきた。一緒に稲刈りしてたのを忘れていた。
「あっちゃあ、モリごめん」
「そんな事よりなんかあったんだろ?ソラ」
「うん。まだ分からないけど、何かが起きている」
ノゾムが手に持った鍵棒で肩をトントンと叩く。
「まぁ、ソラのカンはハズレねぇからな!」
「へへっ、まあね。それよりも、鳥を飛ばして」
「どこに飛ばす?」
「ここより、北東。……コウの国の方だ」
「りょーかい!」
ノゾムが背中を向けて鳥小屋の方へ走っていった。
「モリ、しばらくの間、頼むね」
「ソラも行くの?」
「うん。俺も行く」
ズレた眼鏡を直しながら、モリはいつものように仕方ないという顔をした。
「分かった。待ってるから、ちゃんと帰ってきてね」
その笑顔に背中を押される。
「おーともよ!」
俺は親指を立てて、その場を後にした。
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