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2.Cosmic Latte

4

システムセルフチェック。オールクリーン。キャッシュクリア、再起動。再接続。……失敗。
消えた。消えてしまった。唯一あった繋がりが。
暗くて、寒くて、なにもない世界で、ようやく出会えた仲間だったのに。
理由は?
不明annnounn
原因は?
不明annnounn
ほんの60万秒程度前から、通信が途絶えてしまった。それも決して良いものではなかったけれど、わたしにとっては新たな発見であった。自分以外のモノが存在するのだと。
わたしは仲間に会いたかった。
漂着したデータから進行方向を決定。わたしは管を伸ばした。何があったのかは知らないが、途絶えた通信の先で仲間に会えると信じて。
接続信号を送り続けながら、暗い世界をゆく。
再接続REDIRECT。……失敗ERROR。再接続。……失敗。再接続。……失敗。
最後の接続が途絶えてから、およそ300万秒が経過した頃だ。30回目のセルフチェックを終え、再起動から帰還した頃。伸ばした管の先が、何かを察知した。
なんだろうか。サーチ。……不明。
仲間のようで、そうじゃない。不明。不明。
わたしは伸ばした管の先へと動きを変えた。
ようやく仲間に会えるだろうか。行き着く先が、仲間の元だと、いい。

*

『どうせまだ誤作動だって』
後部座席の相方が言った。任務中に私語をするのは良くないと分かっていても、こればかりは仕方ないかもしれない。それぐらい、ここ最近は索敵ビーコンの誤反応が多いんだ。
「分かってるよ。でも、確認するのが俺たちの仕事だ」
『けどさぁ……無駄だと分かってるとなぁんか虚しいっていうかさ……』
俺たちはただの調査部隊だ。要するに斥候せっこうってやつで、別に敵がいたところで戦う訳ではないけれど、警戒区域に一番最初に乗り込むことになる。それこそ全方位の警戒に当たらなければならないというのは、非常に神経を使う行為だ。
どこに敵が潜んでいるか分からない状況で、全神経を使ったところで“敵はいませんでした”っていうのは割と堪えるものだ。いや、敵なんかいないのが一番だけど、何度も何度も反応が合って、確認していません。っていうのは……ちょっとね。
『なぁーんだかさぁ……俺たち、オオカミ男みたいじゃね?』
「オオカミ男?……満月の日に変身するやつ?」
『ああ、違う違う。そっちじゃなくて、羊飼いの方。暇だからって「狼が出たぞー」嘘吐きまくってさ、最終的に本物の狼が現れた時は村人は一切信用しなくなって、飼ってた羊が全部食べられちゃう話』
遥か昔の寓話だ。子供の頃に、読んだ覚えがある。
「ああ、ソレ、オオカミ男じゃなくて、オオカミ少年な」
『性別は一緒じゃん!……まぁでもさ、今までずっと“彼ら”はいなくてさ、今日に限って現れたりしても、誰も信じてくれなさそうじゃない?「どうせまた、誤作動だろ?」って。オオカミ少年の逆バージョン』
「さすがにそれはない」
本当に羊飼いならまだしも、俺たちは軍隊に所属してる兵士だ。それも、情報を届ける役割を持つ斥候。さすがに村人のように嘘だと決め付けるとこはしないだろう。
相棒もそれを分かった上で放ったジョークだったようで、バッサリと切り捨てた俺のセリフにケラケラと笑っていた。
俺たちはどこからどう見ても緩みきっていた。少し前だったらこんな軽口すら叩く余裕なんて全くなかったはずなのに。思えば、村人は俺たちの方だったのだろう。
どうせ敵はいない。機械の故障だと決めつけて、対して注意も払わずにセンサーが反応した警戒区域へと突入した。
異常の無い事を確認して、帰投する簡単な仕事。そう、思い込んでいた。
「当該エリア突入。第二種警戒態勢用意」
『了解』
「二巡哨戒のち、データを採取し帰投する」
決められたセリフをそれらしく言う。これは何度も繰り返したパターンだ。操縦者である俺が航路を決め、相棒が機械を使って周辺の状況を記録する。モニターの片隅では相棒が機械を展開したのか、小さく窓が開かれ、いくつものデータバーが表示された。俺は操縦に集中する為にそれから目を逸らして前方を見た。そしてすぐに『異常なし!』と報告が上がる。
そう、思っていた。
『嘘だろ……?』
「どうし」
普段と明らかに違う様子を見て、確認しようとしたその時だった。ぐらりと機体が揺れた。
尾翼側を強く叩きつけられたような衝撃が走る。反動で前に向かって飛び出した身体をシートベルトが捕まえて、俺は座席に強く叩きつけられた。
感覚で言うなら、大きな手によって尾翼を”掴まれた”ような感じだ。
俺たちの乗る船は、適合艦とかのいわゆる実践を請け負う”戦艦”とは違う。先程も言ったように斥候という特性上、搭乗艦自体かなり小型化されて、定員も二名ほど。航空母艦の艦載機を一回り小さくしたようなスケールでしかなく、戦闘機能はほとんど搭載されていないに等しい。
だから、敵に”捕まる”のはそのまま”死”を意味している。
「っう!」
振り払おうと操縦桿を握り締め、出力を上げた。モニターに映る星たちが後方に流れていくのを横目で確認して、すぐに違和感を覚える。船が簡単に動くということは、掴まれている訳ではない。速度も計器の示す想定通り出ている。なら何かがぶつかっただけ……?
「おい!状況は?!」
操縦桿を操りながら後方にいる相棒に声をかけた。そいつが索敵通信を担ってるし、一番最初に異変に気づいたのも彼だ。だから、すぐに返事がないのが気になった。
「報告っ!」
叫んだ瞬間、通信にノイズが走った。マイクの上を覆って、擦ったようなノイズ。その隙間から、遠くくぐもった声が聞こえた。
『オオカミだ……』
「は?」
様子がおかしい。
『オオカミはいたんだよ』
隅に閉じていた内部通信モニターを開く。思わず言葉を失った。モニターの向こうは、一面黄色に覆われていて、それがまるで生き物のようにうぞうぞと動いている。悲鳴も出ないまま目が離せないでいると、波が引くように黄色が引いて見慣れたコクピット内部が見えてきた。コクピットの内部構造なんて、俺のいる所と基本は同じで、操縦桿があるかないかの違いでしかない。それなのに、俺の視界に入ってきたそこは明らかにおかしかった。
黄色の柔らかな物体で、それは端を鮮やかなオレンジ色に変色させながら狭いコクピット内部一面にびっしりとこびりついている。その中心に埋もれるように彼はいた。ガタガタと身体をこれでもかと震わせて、大きく見開いた瞳でモニター越しに俺を見る。
『オオカミが……オオカミ』
ぶつぶつと狂ったように繰り返されるその頭の真横。彼の首辺りの壁面から黄色の”狼の首”が生えていた。狼の首はその鋭い牙を見せながら、彼の言葉を反芻するようにその口を動かしている。
『おォ、ガ、み』
ぞわりと全身が泡立った。意味不明の存在が俺たちの船に乗っている。ソイツは後方にいた俺の相棒を浸蝕して、まるで観察でもするように眺めていた。
なんだあれは。あんなのは……あんな”生物”は知らない。生物と言っていいのかすら怪しい。全体的に黄色で、もぞもぞと動く先から緑やオレンジに変色しては黄色に混ざっていく。正直気味が悪い。
そんなモニターの片隅で、何かが大きく振れた。それはこの宙域に足を踏み入れた際に、相棒が起動してくれた対”彼ら”用の索敵装置のモニターだった。それが警告を表すように激しく赤く点滅を繰り返していて、そこに表示された数値は
「れ、レベル5……っ!」
瞬間、モニター向こうの狼が俺のほうを向いた。モニター越しの口が開く。
「ひ、あ」
悲鳴を上げそうになった瞬間、俺はここで死ぬと理解した。
あの狼がガコンと音を立てて顎を外し、開いた口の中からは狼の体表と同じ黄色の粘液をまとわりつかせた鈍色の砲身が覗いていた。
”彼ら”だ。戦艦の姿でもなければ、動物のような姿でもない。どちらを取っても中途半端な醜い姿だが、出てきた砲身には見覚えがある。今までの”彼ら”と同型砲で、俺たちの同胞を何度も何度も葬ったソレだ。
その先が、青白く光る。ああ、さすがにこれはもうダメだ。内側から壊されちゃ逃げようがない。
俺は、操縦桿から手を離した。
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