ロベリア夢(マイ)
夢小説設定
この章の夢小説設定設定:同じ逆さ数字の仲間。
主人公はスキャッグスの逆さ数字の女の子。
内容:ロベリア夢。
*不愉快になるような描写が多いので、そういったものが苦手な方は避けてください。
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教会の中。
小さなこどもたちが騒いでいる。
下は5歳くらいから、上は10歳くらいか……もうちょっと上か。
みんなじゃないけど、それぞれ好き勝手なことをしてることに変わりないけど、たいていのこどもはひとつの場所に集まっていた。
その中心にはひとりの女性の姿があった。
あたしの目の前をまたこどもたちが駆けていく。
『きゃーっ』とか『わーっ』とか言いながら。
先を競い合うようにしてこどもたちの輪へと。
「駄目よ、走っては」
輪の中心にいて、やさしくたしなめているのは、ロべリアさんだ。
「危ないでしょう? あなたも、あなたの周りにいる子たちだって。ぶつかったら怪我をするかもしれないのよ。……それに、ここでは走ってはいけないって、神父さんに教わらなかったの?」
「はーい、ごめんなさーい……」
こどもたちはしょんぼりとしている。
それを見ながら、あたしは、『やること終わったんだからとっとと帰りたいな』とぼんやりと思ってる。
ここの神父とはもう話つけたんだし、あたしの出番はないと思うんですけどねェ。
まァ、どーせアジトに帰ってもヒマだから、いーんだけどッ。
バジル君もここんとこ留守だしねェ。
椅子に腰かけて聖書を広げているあたしの周りには3・4人のこどもたちしかいない。
昔っからこどもに好かれない性質なんだよね。
ロべリアさんはこどもたちから『シスター』『シスター』といっせいに話しかけられ、袖を引っ張られて、抱きつかれている。
困惑げながらもやさしいおだやかな笑みを浮かべてロべリアさんはいちいちその話を聞いてあげている。
どんな話してんのかな……。
ちょっとそのこどもの声に耳を傾けてみる。
何かの本を読んだとか、きれいな花が咲いてたとか、雲の形がどうとか……。
あたしだったら『ウザい』の一言だ。
そんなの何の意味もない。
深いため息を吐く。
いいけどさァ、ロべリアさァーん、それいつ終わんのォ?
……みたいな。
終わりは思ってもいないところからもたらされた。
バッターンッ……!
乱暴に扉が開けられ、男がひとり、飛び込んできた。
手に大きなナイフを持っている。
そこに目がいったのは男がナイフを持つ手を見えやすいように掲げていたからで。
「邪魔するぜぇっ!」
一瞬シンと静まり返り、それからこどもたちの何人かが思い出したように悲鳴を上げ、止まったようだった時が動き出した。
逃げ出そうとする子もいれば、その場に凍りついたように動けない子もいた。
うーん、うるさいな。
ってか、この男、『乱暴に扉を開けてはいけない』って神父さんに習わなかったのかな。
他にもいろいろと……。
あ、習ってるわけ、ないっか。
男は扉近くにいる子たちをさっと見ると小さな女の子を選んで乱暴に腕をつかんで引き寄せた。
そしてその首にナイフを押しつけた。
あたしは開いていた聖書に目を落とした。
「おい、おまえぇ!」
男が怒鳴る。
あたしのことじゃないだろう。
方向的に。
っていうか話しかける相手にあたしは選ばないだろう。
シスターっぽい格好はしてるけどカッコだけだし『らしさ』なんてかけらもないし。
この場合、『おまえ』っていうのは……。
あたしは少しの興味を持って目だけ上げてロべリアさんのほうをチラッと見た。
その際に男の様子も目に入った。
やっぱりあたしなんか眼中になかったか。
男はロべリアさんのほうを向いている。
ロべリアさんはといえば、怯えるこどもたちを背後にかばって、毅然として立っている。
男を真っ直ぐに見据えて、静かに口を開く。
「……なんですか」
『あなたはなんですか』ではなく、『私になんの用ですか』ってことだろうなとあたしにはすぐわかったけど、男にはわからなかったみたいだった。
ナイフを持っていることと、こどもを人質に取っていること、このふたつの有利な点から、あとまァ、興奮しちゃってるから、それをもっと見せびらか……印象づけたくなったんだろう。
男の目にはロべリアさんが怯えているように見えたのかもしれない。
「俺がなんだってか? ええ? シスターさんよぉ。俺はなぁ、昔はこの街じゃ神童って呼ばれたガキだったんだぜ。そこにアホ面下げて並んでるような奴らとは違ってな。それが腐ったマフィア連中のよこしたヤクのせいでボロボロになっちまって、今じゃなんにもなくなっちまった!! 家族にも捨てられた、住むところもなくなった、もらった金ももうない、ないない尽くし!! わかるか? かわいそうだろ!!」
……うっわー。
嫌いだね、こういうヤツ。
それはそれとして……。
あたしは吹雪の中を立っている彫像のように美しくそして冷たい目をしているロべリアさんの言葉を待った。
『告解なら告解僧に』とか『懺悔なら礼拝堂で』とかおススメしてくんないかなー。
あたしはわくわくして待ったけど、ロべリアさんは男をじっと見たままで何も言わない。
男はだんだん苛々してきたようだった。
「おら! わかったら金よこせ!! 金持ちどもが寄付しやがった金があるんだろ? どうせこいつらを養うために使われるんだろ? こんなガキどもなんになる!! 金がかかるだけでなんにもなりゃしねえ! 同じ貧しく苦しんでいる奴を救うなら俺だっていいだろうが!!」
……いやそれだけじゃなく教会の修繕費とかですねェ……。
なんて男に言ったってしょうがない。
あたしのほうからわかることは、そりゃ確かに男は困窮しているのかもしれないけど、そのお金で男の言う『腐ったマフィア連中』から薬を買うんだろーなってこと。
ふーむ……。
ロべリアさんが何もしないならあたしがしてもいいのかな?
いい加減ダルくなってきたし。
反応のないロべリアさんに焦れて、男が女の子の首にナイフを突きつけ直し、女の子が泣き出しそうになってるし。
「おい、こら、このクソアマ!! 金よこせって言ってんのがわかんねぇのか!? このガキがどうなってもいいってのかよ!?」
男は吠える。
「俺がかわいそうじゃねぇってのかよ!! 被害者なんだぞ!! マフィアの奴らが俺を薬づけなんかにしなけりゃ俺は今頃……っ」
ふっ……とロべリアさんが笑った。
いつものやさしげでおだやかな彼女の笑みじゃない。
心底おかしそうに、こらえきれない様子で、ふっと。
花畑で蝶を見ているあどけない少女のように。
……気が違ってるみたい……。
あたしはふとそう思った。
でもロべリアさんはすぐにその笑みを引っ込めて、先ほどよりいっそう冷たい顔になって、男を見下ろすような目で見て、ぞっとするような低く冷たい声で言った。
「そうね、あなただけだったら今頃、バラバラになるまで切り刻んで転がしていたところね。でもその子がいるから……」
男が『はっ……?』と口を開けて間抜けな顔をする。
ロべリアさんが動き出した。
ゆっくりと大きくそれでいて静かに前に踏み出す。
2歩、3歩、4歩……。
ハッとした男が慌て出した。
「く、来るなっ! おいっ! このガキがどうなってもっ……」
「あなたは『かわいそう』だわ」
「なんだとぉっ!!」
男がロべリアさんの言葉にカッとなって顔を赤くする。
……怒ることないじゃん、自分で言ったんだから。
ロべリアさんは歩きながらまた言った。
「あなたはみじめね……」
「こ……こいつっ!!」
男のナイフを持つ手がぶるぶると震える。
怒りの目でロべリアさんをにらみつけて。
ロべリアさんは足を止めずに進み続ける。
もう少しで男の目の前だ。
男は女の子とロべリアさんに交互に目をやって、ドンッと女の子を突き飛ばし、ロべリアさんにナイフを向けた。
ロべリアさんは突き飛ばされた女の子を抱え込む。
そこに向かって男が突進した。
「うわああああっ!!」
……ザシュッ!!
赤い血が飛ぶ。
こどもたちの悲鳴や泣き声。
あたしは……
人の中身なんてキレイなもんじゃないけど、この血だけはちょっとキレイに見えるなァなんて、バカなことを思っていた。
+++++
「まったく無茶ですよォ」
あたしは教会にある一室でロべリアさんの手当てをしていた。
こどもたちはそれぞれの帰る場所に帰してある。
女の子をかばったロべリアさんの腕はきれいにスパッと切れていた。
腕だけじゃなく、続けて背中のほうも斜め一文字に。
それほど深い傷じゃないけど……。
「そうね。マイの言う通りだわ。自分で包帯を巻くのは流石に無理だったわね」
「じゃなくてェ……」
あの後。
やってきた神父さんによって男は捕えられた。
あたしは一部始終を説明し、手伝ってもらってロべリアさんをベッドのある部屋に運んで、こどもたちを帰す手伝いをして、話す必要のある人にまた説明して……。
血の痕こそ拭かずにそのまんまだけどさ。
ようやくすべてが終わってロべリアさんの様子を見に行ったら、てっきり休んでると思ってたロべリアさんが起き上がって自分で包帯を巻こうとしてるんだもん。
そりゃ驚きましたって。
でも、そういうことが『無茶』なんじゃない。
ぷんぷんと怒るあたしに、ロべリアさんがクスッと笑った。
「わかっているわ、マイ。でも、ああする以外に仕方なかったじゃない。あなたは何もする気なかったでしょう?」
形のいい眉をひそめて困惑顔をして澄んだ青い目であたしを見透かすように見る。
あたしはふと包帯を巻く手を止めた。
お返しにじっと見つめてやる。
「……」
ロべリアさんがまたクスッと笑った。
「ごめんなさいね。責めてるわけじゃないの。ただ……あの場合はあれが一番だと思ったの」
「だからそれが無茶だって言うんですよ」
「その通りだって言ってるわ」
……なんだこの会話。
なんだこの意地の張り合い。
ロべリアさんてけっこーこどもっぽいよねッ☆
素直に認めないんだからなー。
ぶちぶち。
文句を言いたくなる口を唇をとがらせて頬ふくらませて堪えて、あたしは包帯を巻くことに戻る。
ロべリアさんは窓の外に目をやっていた。
その目に何が映っているのか……。
窓の外の青空か、それともさっきの女の子か。
『ごめんなさい』って泣いてロべリアさんに謝っていた。
ロべリアさんはやさしく『いいのよ』って頭を撫でてあげていて……。
全然平気だから痛くないから心配しないで大丈夫よって……。
こどもでも『嘘だ』って思うだろう。
でも、それは、堪えているようではない笑顔でハッキリと言われて。
ロべリアさんの口元にうっすらと笑みが浮かぶ。
「ねぇ、マイ、私ね……」
「はい?」
あたしの考え事を遮ってのロべリアさんの言葉。
でも同じことを思っていたみたいだった。
ロべリアさんは振り返ってにこっと笑う。
「私ね、痛くないから、大丈夫なのよ」
……そう、です、ね。
まァ、それだけじゃないと思うけど、あの子の『ごめんね』は。
ほうっとため息を吐いてロべリアさんが続ける。
「そのことではあの子を苦しめずに済むもの。……私の『大丈夫』も嘘にならなくて済むわ。だから、感謝してるわ……」
最後のはつぶやきに近かった。
「……もっと役に立てないと……」
眠るように瞳を閉じた。
疲れたのかな。
いいけど。
傷ついたことで傷つかれたくないとか。
それもあなたのエゴかもしんないけどさ。
少なくともあたしの嫌いなエゴじゃないよ。
あなたの赤は、きれいな赤だった。
(おしまい)