ロベリア夢(マイ)
夢小説設定
この章の夢小説設定設定:同じ逆さ数字の仲間。
主人公はスキャッグスの逆さ数字の女の子。
内容:ロベリア夢。
*不愉快になるような描写が多いので、そういったものが苦手な方は避けてください。
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「……あら」
あたしを見つけたロベリアさんが足を止める。
向こうから歩いてきていたロベリアさんにあたしはとうに気付いていたけど。
彼女はいつもの修道女らしく頭を垂れてしずしずと歩いていたから寸前まで気付かなかったんだろう。
バッカみたい。
ここは教会じゃないのに。
アジトに戻った時くらい楽にすればいいのに。
よく知らないけど、それほど『いいお育ち』ってわけでもないんだろうし。
だって時々その片鱗が覗きますよ?
それでも上品な微笑を浮かべてあたしを見つめる。
まぶしそうに目を細めて上から見下ろすようにして。
「……マイ。元気そうね。よかった」
ムッとしてあたしは唇を尖らす。
「ロベリアお姉さまこそ」
シスターのフリをした時に使う呼び方をわざとしてみる。
ロベリアさんが冗談を言われたと思ったようでまた上品に『ふふっ』と笑う。
『最低のお育ち』のあたしにはその見せかけのお上品さがムカついてしょうがない。
だってさ、だってさ、なんか悔しいじゃん。
どーせあたしには気品も何もありませんよーだッ。
……ついでに言えば。
修道女の格好ではなく質素なワンピースを着ているロベリアさんを見て思う。
なんの飾り気もない白一色のゆるくふわりとしたものでいつもとあんまり変わりないんだけど。
だからこそ目立つ……。
胸。
つい同じようなワンピースを着ている自分を見下ろしてそれと比べて落ち込んでしまう。
つまり劣等感をあおられるのだ、ロベリアさんといると、なんでもかんでも。
そんなのあたしの勝手なんだけどさ。
勝手なんだからいーじゃん?
ぶーぶー。
あー、もうッ、最悪。
バジル君に見られたら嫌だなァ。
絶対にそういう目で見ないことはわかってるけど、それでも乙女として気になりますよ。
ゆっくりと近寄ってくるロベリアさんをツンとそっぽを向いて迎える。
隣に並ばないでほしいなァー。
真っ赤な髪をした彼女は、あたしのあからさまな態度にもかかわらず、視界の隅で笑った。
「ご機嫌斜めね、マイ?」
「そんなことないですよ」
ヘイッ、誰かさんのおかげでね!
……とは、いくらあたしだって言わない。
でも伝わったらしい。
クスクスッとロベリアさんが面白そうに笑った。
振り向くと、困惑げに少し眉をひそめて、首を傾げてあたしを眺めている。
「困ったわ。私、マイにお願いがあるのに。聞いてくれそうにないんだもの」
すねたみたいに、なじるように、あたしに向かって言う。
……は?
ロベリアさんがあたしに『お願い』?
なんだろう?
興味がある。
「聞きますよ、話くらい一応聞きますけどォ……」
「そう? なら、よかった」
ほっそりした白い百合のような手を胸の前で合わせて、その赤い髪を揺らして、首を傾けるようにちょっとだけ頭を揺らす。
あたしはそれが頭を下げられたのだと気付いた。
ロベリアさんはやさしい笑みを浮かべていて。
おだやかに薄青い目であたしを見つめて。
「……ね、お願い、マイ。一緒についてきてくれないかしら? 私、買い物に行きたいの」
あたしは目を見開いてロベリアさんを見つめた。
しばらく呆然としている。
間が空いた。
ぽかんとしているあたしの返事を待ってロベリアさんも黙っている。
小首を傾げてあたしを窺って。
でもその瞳は無邪気に無防備に無思慮に『絶対に断られない』という確信を持っているように見える。
他人の善意を疑わない目。
思わず『YES!』と言いたくなるような……。
そういう修道女の目だなーなんて。
おっとォ。
ハッとして、あたしはぱかっと開けていた口を閉じてから、また開いてやっと声を出した。
「……はァ、買い物ですか。いいですよ? マイで良ければお供しますとも」
ロベリアさんの顔がパァッと輝いた。
こどもみたいに嬉しそうに。
にこぉっとして。
「ありがとう、マイ! 嬉しいわ。では、行きましょう」
パンッと手を叩き、はずんだ声で言って、先に立って歩き出す。
あたしはその後ろをしぶしぶついていく。
……なんとなく、やられたなァ。
いや、何がってカンジだけど、驚きでうなずいてしまったっていうか。
うーん、好奇心に負けたんだけど、それもあるけど。
ホントは最初からあたしがいるの気付いてたんじゃないかなーとか。
それでこっちに来てたんじゃないのかなーとか。
もとからそのつもりだったんじゃないのかーって。
だまされたってわけじゃないけどォ。
あたしが好奇心に負けるのとかお見通しっぽくて。
うまく誘導されたみたいで腹が立ちますよ。
……でも、ホントに気になるし、いっかァ。
ロベリアさんのお買い物って何かな?
わくわく。
+++++
「ねえー、ロベリアさァん……」
あたしはスタスタと前を歩くロベリアさんを追っかける。
腕に紙袋を抱えて。
これが意外と重い。
っていうかロベリアお姉さま健脚。
歩くところではスタスタ歩くんだね。
追いつけないよ!
やっと止まってくれたロベリアさんが怪訝そうに眉をひそめてあたしを見る。
「マイ? どうしたの、情けないわね。それくらいの荷物で。もっと重たい物よく持っているでしょう?」
「すいませんねえええッ……」
イラッと。
『一緒についてきて』って言ったじゃん!
それが荷物持ちっていうのもどうかと思うけど!!
ロベリアさんもあたしより重たい紙袋ふたつ抱えているんだけど。
いや、実は、これくらいあたしたちにはなんでもないけど。
あたしの問題はもっと別のことなんです。
「違うんですよゥ、荷物も大変ですけどそうじゃなくてッ、すッごい人でェ……」
人混みとかチョー苦手。
ダメ。
なんか人間が近すぎて気持ち悪い。
触れずにうまくすり抜けるのに苦労する。
普段あんまり表に出ていないから余計ツラい。
なんっでこう無遠慮にこっちのほうに来るかなー、どいつもこいつも。
……って、あたしも相手にとってはそうなんだろうけどね!
おっと、オジサン、よろけんな。
触らないでよ、汚いな、近寄るな!!
これが行き過ぎてアリンコみたいだったらまだマシなんだけどね。
個性を感じないから。
ただの行列に意味はない。
でも、これ、ツラいなぁ……。
「……少し休みましょうか?」
追いついてゼェハァと息を吐くあたしに、ロベリアさんが困惑の笑みでやさしく言う。
「付き合ってくれたお礼に何かおいしいものでも。何がいいかしら? マイは何が好き?」
「チョコレートケーキッ!!」
はァーいッ。
袋を片手で抱いて、もう片手を元気よく挙げる。
やったァ、チョー嬉しいッ!!
ロベリアさんが『はいはい……』と微笑んでうなずく。
そして辺りを見回した。
「この辺にあったかしら……。ああ、あのお店がいいわね。行きましょう、マイ」
きれいな白い指がスッと一軒の喫茶店を指差した。
あたしはこくこくとうなずく。
ついてきてよかったなァ。
初めて思う。
そんなあたしにロベリアさんが言う。
「いい子だからあとちょっと我慢してちょうだい」
……だからなんでこども扱いなのっ!?
+++++
「おいひぃ~ッ、おいひいですよゥ、ロベリアお姉さま」
あたしはケーキを頬張りながら頑張って言う。
ホンットにここのケーキ絶品!!
こんなにおいしいものが食べられるなんて。
偶然入った店にしちゃ当たりじゃん。
ラッキーッ☆
あたしの我ながら調子いい『お姉さま』呼びに向かいでカフェラテを飲んでいたロベリアさんが困ったような顔で笑う。
「そう? それはよかった」
カフェラテを一口飲んで『ふう!』とため息を吐く。
「今日はありがとう、マイ。本当に助かったわ。私ひとりじゃ持てないんだもの」
「えー、いいですけどォ。フツー荷物持ちって男に頼みませんか?」
「ダリオやバジルに頼めと?」
さらりと言われて、『うっ』と詰まる。
……ダリオさんやバジル君かァ。
バジル君はともかく、ダリオさんなら喜んで持ってくれそうだけど、……でも頼みづらいよねェ。
しっかしロベリアさんもしっかりしてるなァ。
しっかりというか、はっきりというか。
はー。
「それにしてもォ……こんなにお砂糖や小麦粉買ってどうすんですかァ?」
あたしはジロリと隣の椅子に置いてある紙袋を見て言う。
ロベリアさんがあたしを連れてったのはお菓子の材料を売っている店。
たくさんの種類の小麦粉や砂糖だけでなく、ケーキの型や色とりどりの飾りなどが売っていて、あたしにもお菓子作りのための専門店だとわかった。
そこでたっぷりと材料を買い込んだってことは、お菓子を作るんだろうけどォ……。
ロベリアさんがふっとうつむいた。
赤い髪がぱさりと落ちる。
「……ケーキを作るのよ」
少しだけ首を傾けてそう言った。
その口元には柔らかな笑み。
スッと目を閉じて。
「ウォルターにケーキを作ってあげるの。あの子、おいしいものがあまり食べられなかったから。私たちは孤児院で育って……。だから、クリスマスくらいしか、そういうものって食べられなかったの。それもほんの少ししか。だからね、大きくなって、私がケーキを作ってあげるの。大きな、大きな、立派なケーキをね。みんなで食べられるような……。大きな孤児院に、みんなで住んで、みんなで分けて食べるの。そのために今から練習しておくの。だって食べてもらうのに悪いじゃない、おいしくなかったら。きっとウォルター喜んでくれるわよね。きっと笑ってくれるわ……」
思い浮かべるみたいに目を閉じてうっとりと幸せそうに微笑んで。
これ以上もなく幸福そうで。
それから目を開けると照れたように笑った。
「なんてねっ、嘘、冗談よ。教会でこどもたちに配るクッキーよ。みんなおなかを空かせているだろうから……できるだけたくさんの子たちに配りたいの。そのためよ。ごめんなさいね、マイ。おかしなことを言ってしまって。気にしないでちょうだい」
「……別に」
あたしは白けて言った。
もぐもぐと機械的に口を動かして食べる。
……ケーキがあんまりおいしくなくなった。
歩いて帰る途中。
あたしはトボトボとロベリアさんの後ろを歩く。
夕焼けの中で、ロベリアさんの隣を歩く赤い髪をした男の人の幻を見た気がした。
(おしまい)