ダリオ夢(マイ)
夢小説設定
この章の夢小説設定設定:学パロ1つと原作通り2つ。
主人公はバジル夢に出て来るのと同じマイ。
内容:ダリオ夢。
*名前変換しないとマイになります。
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「君はバジル君を愛してるの?」
会ったとたんのこの一言。
あたしはブッと盛大にふき出した。
恐れることなく目の前のダリオさんの腕をぶっ叩く。
「なんてこと言うんですか!」
「なんで?」
本当に不思議そうに真面目な顔でダリオさんに訊かれる。
腹を抱えて『アハハ……』と笑っていたあたしは目元の涙をぬぐう。
……うーん。
冗談じゃないのかァ、冗談にしちまいてェですよ。
人差し指を頬に当てて首を傾けて考えるフリをした。
眉間に皺を寄せて、難しい顔をして、うなる。
「んー、なんていうか、なんですね……」
チラと目を上げてダリオさんを窺う。
彼は諦めた様子はないようだった。
『それならいいや』と言ってほしかった。
でも相変わらず熱心にあたしを見ている。
えい、しょうがないか。
「……そういうことは他人に言われたくないですね」
「へえ?」
「他人しか言えないですけど」
「何故?」
「……ご老人が自分のことを『老害』と自分で言うのは誇りを含んでいるんです。それと同じことですよ。誰かを愛してるだろうなんて指摘するのは無礼ですよォ」
ぷんぷん。
可愛く片方の頬を膨らませて抗議に手を拳にして元気に突き出して見せる。
もちろん殴る気なんぞない。
怒ってますよという意思表示だけで。
大した意味なんてない。
ダリオさんは『ふむ』と納得したような声を出した。
……それはいいけど、全然わかってない。
実は結構あたしは本気で怒ってるんだけどなッ。
「つまり」
あたしの憤りなんて気にした様子もなくダリオさんは踏み込む。
「君はバジル君のことを『愛している』と誇りを持って言えないと?」
「……」
いや、気持ち悪いってば、そーゆーの。
他人から『誰かを愛している』とか言われるなんてそーゆーの。
ないですから、ホントないですからッ。
無神経だなァ。
苛々を隠して無言のまま笑顔で小首を傾げる。
ダリオさんが観察するようにあたしを眺めながら続ける。
「ロベリアなら『ウォルターを愛している』と誇りを持って言うだろうね」
「マイをロベリアさんと一緒にしないでください!」
即座に返す。
おっとォ、思ったよりキツくなっちゃったぞっと。
本音はカッコ悪いから、冗談っぽく苦笑いしてみよう。
「……ああはなりたくないですから」
「へえ?」
「そうですねー……」
ぶらぶらと余った袖を振り回す。
その長さ約10センチ程度。
大き目の黒いシャツがひらひらとする。
「何かを否定するには、まずその存在を信じてないと駄目でしょう? 『神様なんていない』と言うには、まずその『神様』と呼ばれるものがあることを、信じてなくちゃならない。肯定していなくちゃならない。そゆことですよ」
愛の存在は否定しませんッ。
ただそれを愛と呼ぶなんてふざけんな。
そんなこと他人に決めてほしくありませんッ。
「あたしは否定したくないのですよ」
もし『愛してるのか?』なんて訊かれて、『そうだ』と言ってしまったら。
その通りだと答えてしまったら、そんな名前をつけてしまったら。
それは『愛していない』と言うこともできることになり。
疑えない状態なら疑わなくていいんです。
認めなければいい。
だからあたしは認めていない。
そして、たぶんバジル君も、決してそのことを認めたりしないのだ。
「裏切りたくないですから」
だからあたしは安心して今日もバジル君を好きでいられる。
ダリオさんが感心したように幾度かうなずく。
その口元には微かな笑み。
「歪んでいるね」
「そうでしょうか?」
……だって、ほら、やっぱり。
なんといったところで。
幸福には遠いあたしたちだから。
「……そうですね」
とっても正しい姿だと思うけど。
……まァ、だから、正しく歪んでるってトコだろうな。
『はいッ!』と手を挙げて偉い人に対するように真面目な顔を作って問う。
「そもそもあたしたちに『愛してる』なんて感情が許されるんでしょーかッ?」
ますます面白そうにダリオさんが笑った。
……これは『わかって』いるよなァ。
さっき言ったばっかだもんねェ。
否定するにはまずその存在が……。
マイがわかっていることもわかっちゃってるよねッ。
全力否定の悪足掻き。
ニィッと言う笑みに誘われて望まれていることを口にする。
「あたしたちは武器ですから」
大きな手が降ってきて頭に乗っかった。
その手がゆっくりとやさしく幾度も右から左にと動く。
ダリオさんによしよしされる。
「……マイちゃんは賢い子だ」
満足そうに目を細めて微笑んでそんなことを言う。
……まァ、ありがたいんですが、そんなことより。
正直に言ってこの状況は。
「……そんなダリオさんはヘンタイッぽいですよッ☆」
「マイちゃんもいつもバジル君に変態って言われてない?」
「言われてますねッ」
ダリオさんの手が退いた。
あたしはちょいと両腕を広げて見せる。
着ているのはいつもの白いワンピース。
でも上にバジル君の黒いシャツを羽織っている。
これはバジル君の部屋から盗んできたもの。
いない間の淋しさを紛らわすために?
……ウ・ソ・だ。
ホントは、帰ってきた時に、驚いたり怒ったりしてくれると思ったから?
こんなあたしを本気で嫌ってくれるバジル君が好き。
迷惑がられるのが快感なのはやっぱりヘンタイなんだろうなァ。
袖を握って両手を広げたままで勢いよくくるくると回って見せる。
ひらひらと腰の白いリボンが揺れる。
長めのそれは羽ばたくように翻って。
あたしに役目を思い出させる。
あたしは逆さ数字で。
相棒は毒蛾の幼虫みたいな形の武器で。
「マイちゃん」
ん?
まだそこにいたダリオさんが不意に口を開く。
……なんだろ。
ピタッと止まってきょとんとして見上げる。
人差し指で自分を指差してダリオさんがさわやかな笑顔で言った。
「俺たち、お似合いだと思わない?」
……うええ。
あたしは思わず思いっきり顔をしかめる。
疑うようにダリオさんをジロジロと下から見上げて。
「……何言ってんですか?」
あたしの胡散臭いものを見る目に、ダリオさんの笑顔は変わらない。
「ほら、俺たちって、似たもの同士だろ。マイちゃん、俺と付き合わない?」
「……どこへ、とかー」
「……とりあえず、俺の部屋に?」
冗談でごまかそうとしたら、不思議な顔でそう返される。
……そう来るかー。
うう。
うーん、ダリオさんかー、うにゃー。
今まさに他の男の服を彼シャツ状態の女によく……。
……いや、あたしは、フリーだと宣言したも同じなんだけど。
わからないはずはないといった様子で待たれている。
とぼけることもお見通しで手を打たれている。
ここで訊ねるとはっきりした答えが返ってくるんだろう。
濁す気のないような。
それは不都合なのですよ。
うー。
あたしはダリオさんを恨みがましい目で上目遣いに見る。
だって、ズルいよゥ……。
今の話の持ってき方じゃあたしに断ることなんかできないじゃん。
……しょうがないなァ。
「……あたしバジル君が好きなんですが」
おずおずと念を押すと『だって愛してるわけじゃないんだろ?』と当然のように返される。
「それとも俺のこと嫌い?」
「……でも、ないんですが」
……っていうか……。
そういうことでもないんだけど。
いや、何を言っても、今さらだ。
「……別に、誰かに抱かれるくらいなんとも思わないし、それはいいんですが」
ここで胸を張ってきっぱりと言い切る。
「あたしは誰の『もの』にもなりませんからッ!」
……あれ、ダリオさんが、ぽかんとしている。
「……マイちゃん、バジル君のものじゃないの?」
「ええ、『物』ですよ? バジル君の物ですッ! 使われる身ですッ!!」
『あたしは物ですから!』と強く言い張る。
あたしに心は要らないのです。
だから誰のものにもなれません。
武器は冷たいもの。
ダリオさんがフゥとため息を吐いた。
急にぐっとのびをして、大きな体を見せつける。
……おォ。
びくっとしますよ。
「しょうがないな。気が変わったらおいでよ。お互い暇してるんだし」
どうでもよさそうに言って、背を向けて、こっちを振り向く目が赤く輝いている。
「……俺はマイちゃんのそういうところ、本当に好きだけどな」
それだけ言って、肩を揺らして、さっさと去っていってしまう。
……ムゥ。
なんか遊ばれたカンジすんなァ。
わかっていて楽しんでいたってカンジ?
腹立たしいですよ。
ダリオさんめ……。
「……チェッ」
あたしは余った服の袖で口元を覆って立ち尽くした。
下を向いた顔。
落とした目には白いワンピースから突き出た細い白い脚。
頼りない脚。
駆けて逃げ出すには細すぎる。
いまいましげにそれをにらみつける。
「チェェェエーッ……」
ああ、つまんないの。
ホントつまんないよ。
あたしは力を手に入れたのに。
欠陥品でも武器なのに。
今は呼ぶ名前もあるのに。
……ちっとも満たされていない。
「バジル君、早く帰って来ないかな……」
中毒。
ホント、たぶん、それだけで。
これだけじゃ死ねもしない。
「苦しいよゥ……」
ポツリと零れた言葉はなんの意味もない。
意味があっちゃいけないものだから意味を与えない。
あたしは少し迷ってからバサッと黒いシャツを脱ぎ捨てた。
その場を離れる。
『*Can’t get a blue bird,red bird’ll do.
Skip to my Lou,my darling!』
はずんだ足取りで、歌を歌って。
(おしまい)
『*』内、参考・・・
『うたおう! マザーグース(執筆:来往正三/発行所:株式会社アルク)』より。
訳『青い鳥がつかまえられないのなら、赤い鳥でもいいや。ぼくの大好きなあの子のところへスキップして行こう』
*歌詞を入れ替えてあります。赤と青が逆。
あとがき・・・
本当なら最初に赤い鳥を得ようとしてダメだったから、2番目に青い鳥を求める歌なんですが。
あえて最初に不幸を選ぶ人。
絶対に手に入らない幸福を選ぶ人。
拒絶されることをわかっていてそれを求める人。
・・・そういう人のオハナシ。