ダリオ夢(マイ)
夢小説設定
この章の夢小説設定設定:学パロ1つと原作通り2つ。
主人公はバジル夢に出て来るのと同じマイ。
内容:ダリオ夢。
*名前変換しないとマイになります。
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小鹿ちゃん。
俺の前方から小鹿ちゃんが歩いてくる。
もちろん本物の鹿ではなく、人間だ。
人間の小鹿ちゃん。
近所に住むマイちゃん。
小さな顔はなめらかな卵型の輪郭。
ふっくらとした柔らかそうな頬はほんのり赤く。
いつも小さな赤い唇を少しとがらすみたいにしていて。
よく可愛らしい澄んだ高い声で歌を歌っている。
最大の魅力はその瞳と髪の毛。
長いまつげに縁取られた少しつり上がり気味の大きな目は明るい茶色。
その瞳にはいたずらっ子のような輝きがある。
そしてそれよりは濃いけれどこれまた明るい茶色の髪の毛。
長く、さらさらとしていて、そしてキラキラとしていて。
……どんなお手入れしてるんだろうね?
今日は両横に細い三つ編みがある。
それをいつもの小さい白い丸い玉がふたつついたゴムで止めている。
……さらわれそうな可愛らしさだなぁ。
マイちゃんはスキップするようなはずんだ足取りでこちらに向かってくる。
ダボッとした大き目の白いベストに、爽やかな短い水色と黒のチェックのスカート。
その下からすらりとのびた長い脚。
……モデル体型、ただし胸がない。
とうてい本人には言えないような感想を抱いた後、にこっと笑顔を作って、『やっほー』と片手を挙げて声をかける。
マイちゃんはすぐに俺に気付いた。
「あーッ、ダリオさん!」
タタタッと俺目掛けて駆けてきた。
いいものを見つけたというように嬉しそうににこにことして。
何かあった時と、何もなかった時と、彼女はこうしてやたら元気に振る舞う。
……今日はどっちかな?
普段はやる気がなさそうというか、テンション低いというか、怠そうなのに。
駆けてくるマイちゃんの肩にかけた黒い鞄が不自然な揺れ方をしている。
……ああ、あれはたぶん、教科書入ってないなぁ。
でも彼女は明らかに制服姿で。
「やぁ、今学校帰り?」
「はいッ、そーです。やったァ、会えると思わなかった! 何してんですかー?」
目の前で急ストップしたマイちゃんは、そう言って首を傾げて、俺の腕の中を見た。
コンビニの紙袋を腕に抱えている。
それを見て怪訝そうだった。
普通ビニール袋なのに、これは奇異に映っただろう。
これでマイちゃんは聡いコだから。
「ああ、これ? これはね、肉まんだよ。そこのコンビニにもう売ってたの。公園で食べようと思って。マイちゃんもどう?」
「えーッ! 夏場の肉まんは邪道ですよゥー」
マイちゃん、ドン引きのご様子で、口に手を当ててちょっと後ろに下がる。
でも面白そうに顔が笑っている。
しげしげと肉まんの袋を興味深げに見て。
「でもダリオさんのお誘いなら断れませんね。家にミサイルでもぶちこまれたらたまりませんからッ!」
腰に手を当てて何故か胸を反らして偉そうに言う。
……あぁ、本当に胸の小さいコだなぁ。
いや、それどころじゃなく。
「俺はそんなことしないよ? マイちゃん。誰に何を言われたの?」
「誰にも何も言われてませんッ。マイが勝手にそう思うだけです! いい度胸でしょー?」
ふふふーと笑うのへ、ふふふと笑って返す。
「……いい度胸だ」
赤い瞳をニィッと細めて笑う俺は、かなり凄みがあるはずだが、彼女は怖がる様子もなかった。
「女は度胸ですから!!」
「……それ、本当は『愛敬』なんだって知ってる?」
度胸は男のほうだよと親切心で教えてあげる。
……別にどっちでも構わないけどね。
言い切るマイちゃんは愛敬たっぷりだからさ。
それにしても、と、マイちゃんをじっくりと眺める。
……バジル君はマイちゃんのことをバカだバカだと言うけれど。
怖いものを知らないのか、怖いものがなくなってしまったのか、怖いと思う感情そのものがぶっ壊れてなくなってしまったのか。
……それは確かに欠陥品ではあるけれど、いい欠け具合だ。
何かを恐れるという感情は生きていく上で結構重要だったりするんだけどね。
本人にとっては。
このコは基本自分が大事ではないようだし、利用価値でいえば、この作られた無防備さ……そう見えるということだが……は役に立つ。
俺は眺めるのをやめて、にっこり笑って、公園の方角を指差す。
「じゃあ、行こうか。ああ、もちろん、これは俺のおごりだから、心配しなくていい。途中でジュースを買って行こう」
「やったー! ハーイッ、行きましょう!!」
両手をバンザイしてマイちゃんがくるくると嬉しそうに回る。
そして先に立って歩き出す俺に、なんの警戒もなくついてくる。
にこにことして。
……これ、このままホテルに行ったとしたら、どうするんだろうね?
俺のせいじゃないよなぁ。
脳裏に浮かぶバジル君が『ロリコン!!』と俺のことを罵る。
……ふむ。
俺はふと立ち止まる。
+++++
「どうしたんですかァー?」
振り向くと、マイちゃんが丸い目をして、不思議そうに俺を見上げている。
「……マイちゃんは俺のことどう思う?」
その頭に手を置いて撫でたいなぁと思いながら問うと、『んー』と唇に人差し指を当てて考え込んだマイちゃんが、しばらくしてこくんっと首を傾けて言った。
「……そうですねェ。男は腹で満たされるけど、女は心で満たされるですよ」
「……は?」
「だから、あたしは肉まんを食べるだけなんです」
「……はぁ」
……何を言ってるんだろう?
話が通じているかどうか不安になる。
いや、真剣に、頭の具合が……。
完全に可哀想なものを見る目に切りかえると、マイちゃんがぶんぶんと慌てた様子で手を横に振った。
「あッ、心なんてどこにあるんだって感じですよねッ! 脳です、お脳みそ!! 妄想だけで乙女はおなかいっぱいになれるイキモノなんです!! デザートは別腹です!! そこんところはバジル君に満たしてほしいなって思ってます、はい!」
「……要するに、俺は眼中にない、と?」
マイちゃんがにこーっとしてうなずく。
「そゆことですね」
……呆然。
つまり、俺のことはどうとも思ってなくて、ただ肉まんが食べたいだけだと?
このコは笑顔でそんなことを言ってるわけか。
……あれ、今俺は、バジル君に負けてる?
それは許せないなぁ。
男のプライドの問題だ。
一度目を閉じて深呼吸。
引きつる顔を無理やり笑顔に変えた。
「マイちゃん……」
ぐっと肩をつかんで近寄ると、マイちゃんがたじろぐ。
「なんですか? 怖いですよ」
……あ、怖いって感情あるんだ。
いや全然怯えてないな。
口で言ってるだけだ。
……ますますこれはこのままでは済ませられないな。
男として見てもらえていないのと同じだ。
そのままマイちゃんの肩を押して乱暴に壁に押しつけた。
ぐっと距離を縮めて、体をくっつけて、マイちゃんの頭の横に手をついて逃げられないようにする。
そして赤く輝く瞳で獲物を見下ろす。
すると、きょとんとしてぱっちり目を見開いて俺を見上げていたマイちゃんが、ゆっくりとうつむいた。
「……いい匂いしますね、ダリオさん」
おや。
……これは意外だ。
その気があるのか、困った様子でもなく、真面目な顔をしてそんなことを言う。
これはこのまま進めてしまってもいいのかな。
そう不思議に思う。
てっきり『バジル君が好きだから』とかなんとか直前で拒否られると思っていたんだけど。
それならまぁいいや、唇をもらおうと、ゆっくりと顔を近付けた。
すると、顔を上げたマイちゃんが、本当に真剣そのものの様子で言う。
「肉まんが、いい匂いですね、ダリオさん」
「……」
またマイちゃんが下を向いて、俺の腕の中の紙袋を細めた目でじっと見る。
俺はその時に自分が肉まんを持っていたことを思い出した。
確かに美味しそうな匂いが辺りに漂っている。
紙袋を見つめるマイちゃんはこどものように真剣で。
……そう、こどものようで、俺が何をする気かもわかっていないようで。
ひたすらに袋を見つめている。
「マイちゃん……もしかして、おなか空いてるの?」
「はい」
恐ろしくきっぱりとした返事。
……ああ。
キスしようとしてたんだけど。
これは……困った。
しかし腕に肉まんの袋を抱えてその匂いに包まれてじゃムードも何もない。
握りしめていたマイちゃんの手首を放し、すっと身を離して、自然な距離を作る。
残念だけど、今はよそう。
「……食べながら歩こうか」
「はいッ」
マイちゃんが元気よくお返事する。
ガサガサと紙袋から肉まんを取り出し、マイちゃんに手渡す。
マイちゃんは『わァーいッ』とはしゃいでそれを受け取る。
大きく口を開けてぱくっと肉まんに食いつくマイちゃんを見下ろす。
すごいタイミングで拍子抜けするようなことを言ってくれたけど。
……もしかして。
わかっていないフリをしていただけだったりして。
無邪気さを装っていたとしたら。
マイちゃんは見た目は一心にもぐもぐと肉まんを食べている。
だが……神経をこちらに向けていることがわかる。
適度に距離を作って俺と離れて歩いていて。
これは手が出しづらい。
「手強いな……」
「んー? 何がですかー?」
「……いや、なんでもないよ」
……可愛いと本気で思ってるんだけどね。
だから諦めずにやさしいお兄さんのフリを続けてそのうちチャンスがあったら手に入れようか。
バジル君にマイちゃんはもったいないからね。
俺は気が長いほうだよ。
ひそかに心の中で決めて、それを明かさずに、俺は袋から自分の分の肉まんを取り出して口に押し込んだ。
(おしまい)