シャルル夢(チェチリア)
夢小説設定
この章の夢小説設定設定:原作通り。
主人公は一般人の幼い女の子。
内容:シャルル夢。ほのぼの。
三人称。
*どちらかというと『少女と出会った話』。
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スゥー……。
バサッ、バサッ……。
地上に近付いて、建物の間の細い道をさっと飛んで通り、また上空へ。
目当ての人物を高くから捜す。
そしてまた金髪の頭を見つけると地上に近付いて確認する。
また違ったことに落胆して空へと。
……捜し疲れてきた。
ロボットである自分には『疲れる』なんてないはずだけれど。
しかし確実に翼を動かしにくくなってきた。
地上へと突っ込むように降下する。
そしてシャルルはちょうどよく積み上げられた木箱の上に止まった。
「まったく、アンディのやつ……また迷子になりやがって」
監視鴉になってからもう何十回目かの呟きを漏らす。
「一体どこに行ったんだか……」
同じことを仕事に出かける毎に言っている気がする。
「だから勝手に動くなとあれほど……。こんなごちゃごちゃした街……建物は高いわ、通りは狭いわ、道は入り組んでるわ……捜しにくいったらないってのに!」
こんな独り言を言いたくて言っているわけではない。
愚痴を零す相手も居らず空に消えていくだけの音声は詮無く空しい。
とはいえ、言わずにはおられない。
「っていうか俺がいる意味ないだろーが……」
傍についている自分の言う通りに道を歩いてくれれば迷うことなんてないのに。
……っていうか傍についていない間に動いてくれなければいいのに。
人間臭いしぐさでシャルルは片方の翼の先を額に当てる。
『頭が痛い』と。
そしてため息を吐いてみせる。
そんなシャルルはとてもただの烏には見えないし、しかしロボットにも見えないが、本人は意識していない。
ガタッと足元が揺れた。
木箱がぐらりとして、シャルルは慌てて飛び上がる。
トラックに積まれた荷で、運ばれるところだったのだ。
動き出したトラックは瞬く間に走り去っていって、シャルルは安堵のため息を吐いてそれを見送って、また傍にあった積まれた木箱……今度は少し低めの高さの……の上に止まった。
……と、後ろからがっしと乱暴につかまれた。
「アンディ!! てめぇっ……」
またそんなつかみ方しやがって、と、振り向いて怒鳴りかけた。
だが、自分をつかんでいる人物を見て、シャルルは口を開けたまま呆然とした。
……どう見てもアンディじゃない。
可愛らしい少女だった。
それが自分を両手で挟みこむようにして捕えている。
離すまいという必死な様子で。
すごく真面目な顔をして。
細かく震えて。
「ヴェント、捕まえた!!」
……は?
何、だって?
シャルルはぽかんとした。
+++++
「だーかーらーっ」
シャルルは自分に出せる限りの大きな音声を出した。
「俺はシャルルだっ!!」
「あたしはチェチリアだっ!!」
「ぐえっ」
ぐいと首を絞められてついそんな声が出る。
おかげで慌てて少女……チェチリア……が手を緩めたけれど。
チェチリアは『ヴェント』という名前のカラスを探しているらしい。
監視鴉ではもちろんなく、普通のカラスとのこと。
チェチリアは信じられないというように大きな目を見開いてシャルルを見つめてくる。
「えーっ、なんでなんでぇ~っ!? なんでヴェントじゃないのーっ?」
シャルルは疲れを感じた。
そこまでわかっていてなんで……。
それは詳しいことは話していないけれどそれにしたって……。
どう見ても自分は普通のカラスじゃないだろーがっ!!
ああ、もう、チェチリアとの会話でどこかがすり減ったような気がする。
暴れたせいで羽根もいくつか抜けてしまった。
これ以上はご免こうむる。
というわけで、『じーっ』と少女とにらめっこ、となった。
「う、でも……確かに……あたしのヴェントはこんなに目つき悪くないし……」
「こら!!」
そこは黙っていられなかった。
言われたばかりの悪い目つきをさらに鋭くして『突つくぞ!!』と脅す。
チェチリアは片手を放して『うう~』っと低くうなる。
「確かに……こんなにしゃべんないし……」
「少しはしゃべるのか」
「『カァー』とか……」
「おいっ!!」
カラスが『カァ』は普通だ。
チェチリアが焦った様子で言う。
「あ、あと、『ワン』とか……」
「……」
カラスが『ワン』は普通じゃないかもしれない。
ってか、ソレ、カラスか?
未練がましく親指くわえてシャルルを見ていたチェチリアはもう片方の手も放してシャルルを解放した。
「……やっぱ、違うか。だって、怪我してないもんね」
「は?」
悲しそうにしょんぼりとするチェチリアに、ばさばさと飛んだシャルルは木箱の上に戻り、それから訊ねた。
「怪我してるのか、そのカラス」
チェチリアはますます元気なく肩を落として続ける。
「……うん。もともと飼ってたとかじゃないんだ。羽を怪我してて飛べなかったから保護しただけ。うち、そういうこと、やってるとこだから」
動物の保護……。
ああ、とシャルルは納得する。
木箱に座っている自分を飛べないと勘違いしたのだ。
「ホントは元気になった子はみんな自然に帰さなくちゃいけないんだけど、ヴェントは飛べるようにならないし、そのうち言葉も覚えるようになってきて……。なんか、面倒みてるうちに、可愛くなってきちゃってさ。ずっと一緒だと思ってたのに、水浴びの最中に逃げちゃうんだもん。仲良くなったと思ったのに……」
「水浴び?」
「あ、言っとくけど、ヴェントのだよ。水浴びが大好きなんだ」
「変わってるな」
「うん。みんなもめずらしいって。しかも長風呂なんだよ」
大真面目にそう言って、チェチリアは『ぷっ』と笑った。
「ホント、人間と話してるみたーい。不思議ーっ! どうしてそんなにしゃべれるの?」
「あ、いや……」
気まずくそっぽを向く。
ついつい、向こうが自然なせいもあって、しゃべりすぎてしまった。
今はまだ言ったことの繰り返しのようなことしかそれほど言っていないが……。
考えこむシャルルの顔にずいとチェチリアが顔を近付けた。
「ねっ、お願い、カラスさん! ヴェントを探して!! 同じカラス同士ならヴェントも出てくるかもしれないからーっ!!」
目をぎゅっとつぶって両手を合わせて拝まれる。
シャルルは慌てた。
「ちょっ、ちょっと待て!! 俺も捜してる奴がいてだなぁ……」
ぱっとチェチリアの顔が明るくなる。
「だったらそのカラスはあたしが探すよ!!」
シャルルはむっつりと黙りこんだ。
「……どうしたの?」
チェチリアが不思議そうに問う。
シャルルは困惑していた。
いや、カラスなんだけど……カラスじゃなくて……いやカラスなんだけど。
紛らわしい。
シャルルはぷいっとそっぽを向いた。
まぁ人間のほうが、あいつがどこか建物に入っていた場合、捜しやすいしなぁ。
コホンッとわざとらしい咳を出してシャルルはキッとチェチリアに向き直って言った。
「いいいか? 俺が捜しているのは、に・ん・げ・ん・だ」
カラスだけれども。
そうしてシャルルはアンディの容姿をチェチリアに説明した。
その頃。
「見つけたーっ!!」
アンディはカラスを見つけて背後からわしづかみにしていた。
「ワン!!」
つかまったカラスが吠えた。
「……あれ?」
ひっくり返したりしてよく見る。
カラスはシャルルに微妙に似ていたが。
……ただの(?)カラスだった。
+++++
それから数時間後。
「怪我してるって知ってたらわしづかみになんかしなかったよ……」
心持ち青ざめたアンディがチェチリアに『はい』とヴェントを渡す。
「あ、大丈夫。怪我はもうずいぶん前のもので、今はただ飛べないだけだから」
にっこり笑ってチェチリアはヴェントを下から腹部を包み込むように持って抱える。
「ありがとう、カラスのおにーちゃん」
「えっ」
アンディが驚いた顔をしてチェチリアの肩に乗っているシャルルを見る。
シャルルはコホンッとまた空咳をして、サッと飛んでアンディの肩に移動した。
チェチリアはにこにこして言う。
「あたしの他にもカラス飼ってる人がいるなんて! おにーちゃんのカラス、よくしゃべるね! ヴェントも『こんにちは』とかは言うけど……」
『ええ~っ』とジト目でアンディがシャルルを見てくる。
シャルルはそっぽを向いてそれをかわした。
いまや遅くとも必死にただのカラスの振りだ。
諦めろ。
アンディはため息を吐いてチェチリアに向き直った。
「そういえば、そのカラス……、『ワン』って言ったよ」
「うん! うち、犬がいるから、覚えちゃって」
大切そうにヴェントの喉のあたりを撫でる。
ヴェントが気持ちよさそうに目を閉じる。
「あ、そうだ」
アンディは何かを思い出した様子でごそごそとポケットを探った。
「これ……そのカラスがくわえてたんだけど」
手を出すように促すと、『はい』とチェチリアの差し出した手に落とす。
なんだろうかと横からシャルルも首をのばして見る。
すると、それはきれいな、キラキラ光る赤いガラスの欠片だった。
「大事そうに口にくわえてたもんだから……」
すると、抱えられていたヴェントが首をのばして、それを口にくわえ、チェチリアに差し出した。
「それ、くれるってよ」
シャルルはぼそっと言う。
「ありがとうー!」
チェチリアは本当にうれしそうに受け取った。
そしてシャルルのほうを向く。
「シャルルもありがとー!」
「……ああ」
むすっと頬をふくらませてシャルルは言う。
「飼い主さんも!」
「飼い主じゃなっ……」
シャルルは訴えたかった。
……が、これ以上しゃべるのも、もうしゃべりすぎなのに、と躊躇い、口を閉じた。
アンディがこっそり『ぶぶぶっ』と笑っているのがシャルルは癪だった。
……が、しょうがない。
どうせろくな説明できないんだから。
元気よく手を振って去っていくチェチリアをアンディと一緒に見送る。
結局迷子のアンディを見つけ出したのはチェチリアだった。
『ワン! ワン!』と鳴いているヴェントの声で見つけ出したのだ。
「……なんだかな……」
夕日に溶け込むように消えていく小さな背中を見つめていたシャルルはぽそっとつぶやく。
「……疲れた……」
それを聞き取ったらしいアンディが不思議そうな顔で言う。
「そう? 楽しそうだったじゃない、シャルル。お礼までもらっちゃったし」
シャルルは自分の足元を見た。
そこには女の子の髪の毛を結んでいた飾りのついたゴムが巻かれていた。
『野良と間違ってつかまらないようにね!』
チェチリアの笑顔とともに言葉が思い出される。
カラスをつかまえる人間がそれほどいるとは思えない。
フンと鼻を鳴らしたい気分だ。
シャルルはキッとアンディをにらんだ。
「おい、アンディ! コレ外せよ! 後で必ず外してくれ! ……あ、後でな。後でいいからな」
「はいはい」
投げやりに言ってアンディはゆっくりと歩き出す。
その頭上でシャルルはわめく。
「なんだその返事は! だいたいてめぇが迷子になるから……」
「はいはい」
「はいはい……って(ぶっすー!!)」
「ギャーッ!!」
(おしまい)