アンディ夢(キアラ)
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この章の夢小説設定設定:同僚。
主人公は同じ執行人の女の子。
内容:アンディ夢。恋人同士。わりと甘め。
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それを聞いた瞬間、アンディの顔がざっと青ざめ、まぶたが半分下ろされた半眼になった。
いかにも嫌そうに眉根がきつく寄せられ、相手をじっとにらむように見据えている。
『ええ~……』と苦いものを吐き出すように低い声で言って。
わかりやすくドン引きだった。
私はそれを隣で苦笑してただ見ていた。
訊ねられた相手はアンディで、私は無関係で、だから。
私たちの前に立っていたコニー……アンディをドン引きさせた張本人……が怒りに目を三角にしてさっと顔を赤くしてアンディに指を突き付けケンカ腰で言った。
「何よ!? なんなのよ、アンディ、その反応は!! 心優しいレディに対して失礼よ!! 男はもっとデリカシーってものを持ちなさいよね!! だいたいここの男共ときたらっ……」
ガミガミガミガミ。
アンディがさらに嫌そうな……もううんざりとした……顔になる。
かわいそう。
そうは思うものの、おかしくて、私はつい横でプッとふき出してしまった。
アンディがジロリと恨むような目でこっちを見る。
「……キアラ……」
同僚の助けを求める声……そうだと思うんだけど……私は慌てて顔を引き締めて、仕事道具を持ち上げて身を守るように胸に抱くと、コニーに向き直った。
「あの……でも、コニー? お料理、上手なんだよね? 自信があるんでしょ?」
まったく知らないくせにそう言ったのは、コニーが私と話していたアンディを見つけると真っ直ぐに向かってきて、こう言ったからだ。
『アンディ! バレンタインに手作りチョコ配ることにしたんだけど、当然あんたも欲しいわよねっ?』
そのとたんにアンディが顔をしかめて最初につながる。
『……欲しいかどうかじゃなくてさ……』
おそるおそるといったふうに口を開いたアンディは、ためらいながらゆっくりと言った。
『……コニー、君ってさ、食べれるチョコレート作れるの?』
……って。
私は浮かべていたコニーに向けての挨拶の笑顔が凍りつくのを感じた。
なにげに辛辣なことを……。
アンディを見ればあからさまに疑うような目でコニーを見ていて。
それはコニーも怒るよね。
『私だってチョコレートくらい作れるわよっ!』って。
そこからコニーの怒涛の口(攻)撃が。
アンディが言うには『どうせマズいってオチじゃないの?』って。
オチ、って……。
ああ、でも、料理下手なコニーが思い浮かぶなぁ。
形も味もめちゃくちゃなチョコができあがったりして……。
普段の様子を見ている限りそんなに……その……細かいところまで気にしなさそうに見える。
見た目が女の子らしいし、食べている一方のように見えるけれど、たぶん仕事で忙しいからお菓子を作る暇がないだけで、もしかしたら作れば上手いのかも、でも。
チョコレートの何をどう作るのかってことで違いが出るとは思うけど、確かチョコレートのお菓子ってどれも作るの難しいんじゃなかったっけ?
そういう作業がコニーに向いているとは思えない……なんて、アンディの発言に関係なく、実は私もそう思った。
だけど、そんなことハッキリ言われちゃ、傷つくよね?
私が『あげる』って言われたわけじゃないし何も言えないけど……。
慌てふためく私を放っておいてふたりはにらみ合いになったのだけど。
これは黙っていられない。
私は遅れたフォローをしようと口に出した。
「コニー、いろいろ家庭的なこと知ってるし、きっと上手なんじゃないかなって」
「えっ……キアラ、それ」
私を振り向くアンディの目が驚きに見開かれてまん丸い。
「『おばあちゃんの知恵袋』みたいなこと?」
「……え?」
コニーがまた『アンディィィーッ!!』と激怒して騒ぐ。
しれっとしてアンディは『だってコニーの<家庭的>ってさ』と言う。
おばあちゃんの知恵袋……じゃ、なくて、もちろん『女の子らしいこと』のつもりだったんだけど。
確かに面倒見のいいコニーは苦労して育ってきたのか変なことに詳しいというか気が利く。
生活に役立つことをたくさん知っていることも本当だ。
私はやっぱり苦笑して言った。
「そうじゃなくて、コニー、女の子らしいから」
女子力があるっていうか。
そう言ったらコニーが目を輝かせた。
「キアラ、わかってる!! うれしい、ありがとうっ! そうよね、コニーちゃん、女の子らしいでしょ!!」
「う、うん……」
苦笑があいまいな微笑に変わる。
それでもコニーは気付いた様子もなく、腰に手を当て、胸を張って、顔を上向けてアンディを見下ろすようにして得意げに言う。
可愛い。
「ほらね、どうよ、アンディ! キアラの言う通りよ! 私ならきっとチョコレートも上手に作れるわよ!!」
「あー、はいはい……」
アンディは疲れたように同意して、面倒臭そうに『くれるならもらうけど』と続けて、肩を落として私のほうをチラリと窺うように見た。
……なんでしょう?
私は笑顔で言葉を待つ。
だけどアンディの口からはため息が漏れただけだった。
「じゃっ、楽しみにしててね! あっ、そうだ、上手くできたらキアラにもあげるわ!!」
そう明るく笑顔で言ってコニーは『バイバイ』と手を振って離れていった。
私もバイバイと手を振り返す。
コニーがいなくなったところで、それまで黙っていたアンディが、ぽつりと言った。
「……君は嫌じゃないの……?」
「えっ?」
私は瞬間的にアンディはコニーの手作りチョコレートがそこまで嫌なのかと思った。
そこまで言う?
それでも念のため一応アンディを覗き込んで訊ねてみる。
「ねぇ、アンディ、『嫌』ってなんのこと?」
まだ疲れたような顔をしていたけど、そのうえでそれを痛むように歪めて、私を見て、少しもどかしそうに苛立った様子でアンディはとげとげしく返した。
「ボクが他の人からチョコレートもらうこと、キアラは嫌じゃないの? あんなこと言っちゃってさ」
「え……?」
「残酷だね」
大きな目がとがめるようにわたしを見つめている。
ずいと距離を詰められて、反射的に後ろに下がると、アンディが詰め寄ってくる。
逃げるうちにとうとう背中が壁についた。
被さるようにしてアンディの体が自分の前にある。
逃げ道がない。
「平気なんだね。キアラってちょっと冷たいんじゃない? ボクのこと、どう思ってるの? 恋人なのに」
「ア、アンディ……」
……の、ことは。
間近にある顔にドキドキしてパニック状態で言うべきことが何も浮かばない。
しょうがないから私はいつも思っていたことを口に出した。
「好き、だよ?」
「……」
少し開かれたままのアンディの口は何も言葉を出さずに静かに近付いてきた。
熱くなった顔をうつむけてギュッと目を閉じる。
唇が重なると思った。
息のかかる距離で止まって時間が過ぎる。
離れていく気配に、おそるおそる目を開けると、アンディがじっと静かに私を見ている。
さっきの数秒よりは遠いけどそれでもまだわりと近くにある顔にまたビクッとした。
ただ、覆いかぶさるようだった体も少し離れているので、私はさっと横にずれる。
用心してアンディをにらみつけるようにして。
叱られたようにアンディがしょんぼりとした。
「好きだ好きだっていうけどさ……」
気落ちした様子でぼそぼそと言う。
腰のところできつく握られた拳が震えていることに私は気付いた。
足も逃げ出そうとするのを堪えるように踏ん張っていることがわかる。
「そんな簡単に言う『好き』なんて迷惑だよ」
ぽそっと言って、ぷいっと横を向く。
うつむいていたのをあげたその頬は少し赤かった。
しかも少しふくらんでいた。
あ……。
私は自分のしたことの重大さに気付いてハッとなった。
「じゃあ、そういうことで」
どういうことかはわからないけど、とにかくそう話を終わらせて踵を返して去ろうとするアンディに、私は慌てて大声を上げた。
「待って、アンディ!」
止まってくれないかと思ったアンディがピタッと足を止めて振り向く。
でも怒りにとても冷たい顔をしていたのは予想通りで。
それでも言わなくちゃと思って怒鳴るように言った。
「バレンタインにチョコあげるから!」
「……」
氷のように突っ立って、私を無表情で見つめていたアンディが、ふっと頬を緩める。
ふわ……と咲きかけの花の蕾のようにほんの少し柔らかくなった。
口元も、その空気も。
微かな苦笑のようなものを浮かべて、アンディは温かい声で言った。
「ボク、キアラが思ってるほど、こどもじゃないよ」
けど、と、少し赤くなってうつむく。
「く、くれるなら、もらうから」
恥ずかしそうにそう言って、くるりと背を向け、バタバタと走っていく。
私は体中の力が抜けて床にペタリと座り込んだ。
まだ心臓がバクバクしている。
「……こ、こどもじゃんっ……!」
もう見えない背中に悔しくてそうぽつりと言う。
「くれるならもらう、って……」
コニーにも同じことを言っていたなと思い出す。
思い出してため息を吐く。
そして笑う。
もうっ、本当に……。
素直じゃないのはお互い様だよ。
(おしまい)