アンディ夢(マリン)
夢小説設定
この章の夢小説設定設定:原作通り。
主人公は普通の女の子。
内容:アンディ夢。恋人関係。甘々。
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緑の草原を風が渡っていく。
その風に金色の長い髪が撫でられたように揺れて。
短い前髪が上がって額が覗く。
その額も、鼻も、頬も、真昼の光に白く輝くようで。
私はその横顔を黙って見つめている。
赤みがかった瞳はどこか遠くを見るようで。
それでも真っ直ぐで。
どこまでも真っ直ぐ前を向いていて。
青いシートの上に膝を抱えて座ったアンディは。
どこか遠くへ飛び立つ鳥のような……儚さも感じるけれど……時が来たら飛ぶという決心をしているようにも見える。
そういう心を抱えているように見える。
強い心を持った迷いのない瞳はその時に何を見るんだろう。
その時になったら……。
私はその時になったらどうしているんだろう。
こうして一緒にいるというのに、そんなことばかり気にしてしまう。
アンディは決めたらすんなりと離れてしまいそうだから。
そして、もし、私もそうだったら……?
恋心は波のようなものだと誰かが言った。
それならそれでいい。
いいんだ。
だからこうして一緒にいられる時が大事なのだから。
なんて、そんなこと……。
そんなことを思えるほど、私こどもじゃない。
ううん、おとなでもない。
私はどさっと青いシートからはみ出して草原に寝転がった。
アンディがびっくりして私を振り向く。
「マリン?」
名前を呼ばれたけれど、返事をせずに目を閉じる。
ぎゅっと閉じる。
閉じたまぶたに幻の波が打ち寄せる。
激しく、高く、勢いよく。
青が押し寄せてくる。
私を飲み込もうとしている感情。
本当はそれが私の心そのものでも。
他のこと一切を流して私をさらっていく。
今は……駄目、止められない。
私はアンディが好きだ。
今、もし彼が離れていくなら、きっと泣いてしまう。
私は目を閉じたままぽつりとつぶやいた。
「……溺れそうなの」
「……ここは地面だけど」
しっかりと聞き取ったらしい訝しげなアンディの声。
ふっと暗くなる。
私の上に影が差す。
アンディが覗き込んでいるのだとわかる。
それでもかたくなに目を閉じ続ける。
うっすらと口を開けてまたつぶやきの小ささで。
「……波がここまで来ちゃったの」
「ふぅん」
「もう駄目」
「ああそう」
近くで返ってくる短い言葉にふっと笑いが漏れる。
私の深刻さに比べてアンディってば。
やっぱり、そうだよね、今だってアンディは……。
アンディなら、きっと今だって、普通の『さよなら』ができる。
二度と会えない『さよなら』が。
私にはできない離別がアンディにとっては平気なことに違いない。
なんの影響もなく明日を迎えられるはず。
私がここでひとり倒れていても。
だってあなたは強いもの。
「……ねぇ、マリン」
呼びかける声が近い。
私の横に手が、右と左に手が、胸に重みが、人の温もりが、顔に息が。
……どうしよう、今度は恥ずかしくて、目が開けられない。
「溺れちゃったの……?」
耳元でささやくアンディの低くかすれた声。
ゾクッとする。
色っぽい、と言ったら変だろうか。
アンディはまだ少年なのに。
おかっぱの髪の毛が頬に触れてくすぐったい。
と、思ったら……。
唇にそっと何かが当たった。
「……マリン、ねえ、お願いだから目を覚ましてよ、ボクが助けるから……」
唇にそっと、もう一度、軽く触れて、それが唇を押し開くように動いて、深く重ね合わされ、ふっと軽く息を吹き込むようにされる。
それがアンディの唇であることはわかった。
……キスをされている。
「……マリン、いなくならないで……ボクの傍にいて……」
いったん離れた唇がまたくっついてくる。
唇が私の唇と重なっている。
どんどんと深くなりそうなそれに、慌てて私は目を開いて、ぱっと体を後ろに引いた。
「なっ、なっ……アン、アンディッ、ちょっ……」
「あ、起きた」
平然とした様子で半眼で私を見て言ったアンディは、次の瞬間に唇を押さえてぷいっと横を向いた。
寸前の顔は真っ赤だった。
それを私に見えないように背けている。
「ア……アンディ、今の……」
今のってキスだよね?
「人工呼吸!」
アンディは唇から手の甲を剥がしてきっぱりと言った。
「……え?」
「君が『溺れた』とか言うから!!」
「あ……」
私は赤くなった顔をうつむけた。
口を両手で覆って。
……そうか。
私が『溺れた』って言ったから……。
キスには違いないけれど。
つい唇の感触を思い出してまた顔が……いや体中が……熱くなってしまう。
きっと耳まで真っ赤だ。
恥ずかしくて縮こまっていると、アンディの視線に気付いた。
耳まで赤い顔をわずかにこちらに向けて細めた目でじっと見ている。
「マリンのところまで波が来たならボクも溺れてるよ」
腹が立ったみたいに口をとがらせてそんなことをボソッと言う。
「そうだね。アンディも一緒だね。困っちゃうね」
私は手を頬を覆うことに変えて言った。
ふふっと笑って。
……その意味を。
アンディはわかってくれてるかな?
(おしまい)