アンディ夢(ジェンマ)
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この章の夢小説設定設定:原作通り。
主人公は街で出会った気の強い同年代の女の子。
内容:アンディ夢。一応はほのぼの。
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カランッ……!
扉についた古い金色のカウベルが鳴る。
あたしはそのまま扉を押して開け放って、アンディと烏……シャルルというらしい……を振り返った。
立ち止まってなんだかきょとんとしているように見えるアンディ……それにシャルル……を手招きした。
「さあ、入って! うちのお店だよ!!」
「ああ、これは……なんていうか」
店を見上げたアンディがぼそりとつぶやく。
「またずいぶんデカい店だな……」
同様に店の外見を見ているシャルルが呆れたように言う。
……うん、うち、大きいんだよね。
「これは喫茶店というよりも、レストランなんじゃ……?」
首を傾げて続ける、アンディの肩に乗ったシャルル。
相槌も打たずに、辺りを見回すアンディ。
その目が古い看板に止まる。
壁に埋め込むようにしてあって外せなかったものだ。
<おいしい料理とお酒……それにお菓子……『デンテ・ディ・レオーネ』……>
あたしはアンディの視線を追ってその看板に書かれた言葉を思い出す。
もちろん店名の『デンテ・ディ・レオーネ(たんぽぽ)』は思い出すまでもなかったんだけど。
「何ぼさっとしてんの? 入りなよ、アンディ、シャルル」
あたしは腰に手を当ててわざとにらみつけるようにしてひとりと1羽(?)に言う。
「……」
アンディが無言で足を進めた。
当然その肩に乗ったシャルルも自然と店の中へ。
……シャルルは目を鋭くしてなんだか表情豊かに怪訝そうな顔をしていたけど。
アンディのほうは何を思ってるのか無表情だった。
……でも、不審に思って当然だよね。
あたしはフゥとため息を吐き、パタン……と扉を閉める。
カラン……とカウベルが鳴った。
+++++
落ち着いたクリーム色の壁紙一面に小さな黄色いたんぽぽの花の模様がついている。
淡い黄色の水玉模様のように見える。
全体的にはキレイなんだけど、今は一部汚れたり、破れたりしているところがある。
丸テーブルが8つ、不自然な間隔で置かれている。
いや、置かれるべきところに何もないため、不自然に見える。
もともと置かれていた数と違うのだ。
そして、普通4つ置かれているはずの椅子も、足りなかったり、足りていても同じ椅子じゃなかったりして、バラバラだ。
なんともみっともない。
「……」
壁につけられた足跡や、ヒビの入った木製の丸テーブル、おられた脚を直した椅子などに、アンディの目が次々と移る。
無言ながら、じーっと音がしそうなほど強い視線で。
「……」
あたしは黙って反応を見てる。
その目があたしの側にあったテーブルに残っていた分厚い料理メニューに移ったので、あたしはそれを裏返しにして伏せた。
……こんなものとっておくなんて、未練がましいんだから、母さんは。
まぁ、それはあたしも同じか。
荷物を置いて、あたしは笑顔を作ってアンディとシャルルの方を振り向いた。
「泊まるのに2階のお父さんの部屋使っていいよ。今、うち、お父さんいないから。でもちゃんとキレイにしてあるし、大丈夫。気持ち良く使えると思うよ。案内しようか? 荷物置きたいでしょ?」
さっき持ってみて異様に重かったカバンを指差すと、アンディがぶるぶると首を横に振る。
「いや、これはいい。それよりジェンマ、何か食べさせてよ。お腹空いたんだってば」
……なんとなくわがままな言い方……。
「でも、休まなくていいの? 疲れたでしょ」
「大丈夫」
きっぱりとそう言うアンディ。
あたしは深いため息を吐いた。
……しょうがない。
「……じゃあ、ちょっとその辺のテーブルの椅子に座って、待ってて。あたしはちょっと……着替えとか」
少しだけ言うのをためらって、あたしは自分の服を見て、それからまたアンディたちを見て言う。
破けてしまったシャツは両端を結ぶようにして止めてある。
このままはちょっと……。
特に気にした様子もなくアンディは手近にあった椅子を引いて座る。
自分の足に触れるところにカバンを置いて。
シャルルが肩から降りてテーブルに乗る。
ああ……そういう目で見ることないんだろうけど、テーブルの上に鳥が……。
まあ、どうせ今はもうそんな立派な店でもないんだから、気にすることないよねえ。
あちこち汚れまくってるんだし。
それよりも、なんとなく鋭く目を細めてこっちを見ているシャルルの視線が痛い。
「じゃっ、あたし着替えてくるね!」
元気よく言って2階への階段をのぼり始めた。
背後で『なんとなく妙じゃないか?』とアンディに同意を求めるシャルルの声(?)が聞こえる。
それに対してどうでもよさそうに『そう?』と答えるアンディの声も。
……おふたりさん(?)ほどじゃありませんよー。
+++++
住居である2階に上がって、部屋のすべてを確認。
……よかった。
お母さんはまだ帰ってないみたいだ。
あたしは着替えながら考える。
えーっと、母さんの作ったビスケットや菓子パンはまだ残ってるから……後は今朝作ったケーキと……後は何が出せるかな……。
もぐもぐもぐ……。
ビスケット数種類に菓子パン数種類、ババにタルトにティラミス、それにチョコレート。
惜しみなく用意できるお菓子は全部出した。
テーブルに並べたそれをアンディがぱくぱくと食べている。
呆れて見ているあたしとシャルル。
よっぽどお腹が空いてたんだ……。
……そういえば、お店に案内するまでの間にアンディがはぐれそうになること数回。
アンディが勝手に離れてっちゃった時はもちろん、指差して方向を確認してきた時だって……『コッチでいいんだよね?』『あれ、コッチ?』『アッチだ』……驚くべきことにそれが毎回間違ってた。
その度に『そっちじゃないよー!』って止めて。
だってそのまま行こうとするんだもん。
お店(うち)に着くまでにだいぶ時間かかったし。
これじゃあお腹も空くってもんだよね。
あたしはちょっと気になった。
……あんまり聞きたくない気もするけど……。
視線をシャルルに向けて訊ねた。
「ねー、シャルル……アンディって、どれくらいの時間この街をさまよってたの?」
「いや、この街についてからはそれほどでもないが、ここに来るまでの間も歩いてたしなぁ……」
なんか気まずそうにあたしを見ないで口元を羽で覆い隠してもごもごとしゃべるシャルル。
前置きはいいから。
あたしの視線にじっとりと冷や汗を垂らして目を合わせないままでシャルルが続ける。
「5時間くらい……か」
「そんなに!?」
こんな大して広くもない街で……いや、そう思うのは住んでるからかもしれないけど……5時間もさまよえるなんて。
「……だから道を外れるなとあれほど……」
アンディの座っている向かい側の椅子を止まり木代わりにしたシャルルが、今にもつつきそうな冷たい目でアンディをにらみつける。
今の会話を……聞こえているのかってほど……何も気にした様子もなく、他にお客のいない店内でひたすらにお菓子を食べているアンディ。
その隣に座ったあたしはその様子をじっと眺める。
アンディは本当に今はお菓子を食べることに夢中になっているようだ。
……さっき、戻ってきた時に、ワインレッドの分厚いメニューを見られていた時は焦ったけど。
『ジェンマ、食事頼めないの?』って訊かれて。
『それはもう昔のなんだよ、アンディ』って答えて。
食事は今は出せないんだ。
……本当はこのお菓子だって……。
いや、このお店だって今は……。
+++++
あたしはチラッと目を素早く動かして周囲を確認する。
キレイなたんぽぽ模様の壁につけられたいくつもの足跡。
割れたガラス。
割れ目の入ったテーブル。
使えなくなった椅子の代わりに持ってきた家庭用の椅子。
そして、見えない部分も思い出す。
お菓子の材料の粉の袋を破かれたせいで粉まみれのキッチン。
壁にぶつけられて割れた卵でできた汚れ。
足元には料理用のお酒の瓶が割れた時の、細かいガラスの破片がまだ片付けきらずに残っている。
……いったい、元通りにするのにどれくらいかかるだろう。
ううん、元通りにできるだろうか?
……いや、しなくちゃ。
しなくちゃいけない。
どうしても。
「……それにしても、他にお客がいないな」
しばらくして、ぽつりとシャルルが言う。
お店の中を訝しげに見回しながら。
首をひねって。
「それに、ずいぶんと、その……汚れてないか?」
あたしは気付かれないくらい小さくフゥとため息を吐く。
……できれば触れてほしくなかったな。
内心を隠して、あえて明るい口調で言う。
「ここに来るまでに見たでしょー? どっこもこんなもんだよ今は! 昔っからここらを締めてるカスカータ一家と、最近急に力をつけてるロッチアの連中との間で戦争が起きようとしてる」
シャルルは鋭くした目であたしのほうをじっと見てる。
しっかり話を聞いている。
アンディのほうは粉砂糖のかかった菓子パンをゆっくりと口に運んでいる。
聞いているのかいないのか。
あたしは隠し切れない気持ちに声を低くした。
「……ロッチアのほうは、外からチンピラを集めてる。さっきのヤツらがそうだよ。もともとこのあたりを締めてるカスカータもそうだけど、ロッチアの連中はもっと危険だよ。なんかすごい武器持ってるとかいうしさ」
……そして、それに対抗しようとしているカスカータの連中も、多分。
ピタッと食べるのをやめて顔を上げたアンディと目が合う。
片目だけど、じっと真っ直ぐにその赤みがかった目で見つめられて、あたしは見ていられずにうつむく。
ぎゅっと膝に置いていた手はスカートをつかんで。
噛み締めた唇をゆっくりと解いて言った。
「……だから、この辺は今危険なんだよ、アンディ」
……だから。
だから今のうちに出ていって。
ううん、もう間に合わない。
今さらだ。
外から数人分の足音が聞こえてくる。
「お……おい、アンディ」
靴音が聞こえたのか、その不穏な空気にか、慌てた様子のシャルルの声が上がる。
ゆっくりと噛むようにして指についていた粉砂糖をなめとったアンディの、静かな問い。
「……それで、ジェンマ、君の店はどっちの縄張りなの?」
あたしはこんな時なのにふっと笑いたくなった。
「……ごめんね、アンディ。それに、シャルル」
さっと立ち上がる。
ガタン……と椅子を背中で押して。
アンディとシャルルを見下ろして。
「だましたわけじゃないんだけど、あんなことになっちゃったから……。あたしの店は昔からカスカータのものでね。でもロッチアのヤツらが来て、こっちにつけって。断ったら、いろいろと嫌がらせされてね……。さっきの連中、ホントにあたしの知らないチンピラなんだけど、向こうは多分こっちのこと知ってるんだよね。あたしがこの店の娘だってこと……」
うちの店はこの街で古くからやっているレストランで、街への発言力も影響力も大きい。
当然カスカータの支配下に入っていて、それはロッチアに目をつけられることにもつながって。
でもうちは新しく力の強いマフィアが出てきたからって、簡単にそっちにつけるわけではない。
裏切るわけにいかない理由があるのだ。
だけど、だからといって、カスカータも無理やり力でこの辺を従わせているだけで、別に守ってくれるわけじゃない。
それどころか、奪う一方だ。
ヤツらは金さえ手に入ればいいんだ。
縄張りを広げることしか頭にないマフィアだ。
あたしたち個人に何かしてくれるわけじゃない。
「だから……」
ロッチアの呼び寄せたチンピラ。
この店に嫌がらせしているのはロッチアの連中。
手に入らないからとうとうあんなことまでしてきて。
それでああいうことになれば、ただですむわけがないと思った。
……だから。
あたしは店の扉をにらみつける。
客を招くより、招かれざる客が来るほうが早かったようだ。
+++++
カランッ……!
店の扉につけたカウベルが鳴る。
ドカドカドカと遠慮なく踏み込んでくる連中。
その数は6人。
手には銃。
うそ……まさかそこまで……。
あたしはハッとして口を手で押さえる。
別に顔見知りってわけじゃないけど、あのチンピラはロッチアが呼び寄せたもので、あたしがこの店の娘だってことはわかるから、きっと後で仕返しに来るだろうなとは思ってたんだけど。
こんなに早く……しかも銃まで持ち出してくるなんて……。
本当に危険なヤツらだ。
あたしはチラッと目だけ動かして隣を見る。
アンディ……。
まだ座ったまま、足元のカバンを持ち上げて膝に置いている。
そして、入ってきた連中を静かにうかがっている。
あたしは目をロッチアの連中に戻した。
なんだろう、あの銃……横っ腹になんか模様がある……。
だけど、じっくり観察する間はなく、中央に進み出た高そうなスーツの太った男がニヤつきながら口を開く。
「よぉ、お嬢ちゃん。この間の返事をもらいに来たんだけど、お礼もかねて。さっきはツレがうちの大事なお客様をおもてなししてくれたんだって? ヤツら感激して泣いて帰って来たよ。俺も味わいてぇもんだなぁ、そのすごいカバンの一撃ってやつを。……あ?」
男の目がアンディに止まった。
もともとしかめ面のように歪んでいた笑みが完全に消え去り、険しさだけが残る。
「……なんだ、ガキ。今この店はやってねぇんだよ。状態見りゃわかんだろ? あん? とっとと出てけ……」
「あっ! あのガキです!! カバンぶち込んだヤツ……おかっぱ頭に眼帯だって言ってました!!」
横から割り込んだ仲間の言葉に、男は盛大なため息を吐き、大きな手の平で顔を覆って大げさに嘆いた。
「ったく、ふざけやがって……ガキって本当にガキかよ。アイツら役に立たねぇなぁ……まぁいいや。おい、ガキ! 居合わせたのはてめぇの運が悪かったと思って諦めるんだな」
アンディに向かって唾を吐くように言って、あたしのほうに気持ちの悪い笑顔を向ける。
「さぁて、お嬢ちゃん。お母さんなんて言ってた? 聞いてきてくれたんだろ? 俺たちロッチア一家と仲良くできるかどうか。こうしてここにいるってことはさ。それとも、お嬢ちゃんを死体にして送ってほしいとでも?」
男が……男たちがいっせいに銃口をあたしに向けた。
あたしはキッと男をにらみつける。
答えなんて決まってる。
この店はカスカータのものだ。
でも、そんなことより……それよりも……。
あたしやお母さんやお父さんや家族、そしてお店に来てくれるお客さんたちのものだ。
「この店は誰にもやれない」
声は震えるけど、きっぱりと言う。
それが何を意味するのかを承知で。
だけど、これ以外に答えなんてない。
案の定ただ向けられていただけの銃に力がこもる。
男がいまいましげにあたしをにらみつけて。
口の端を凶悪な笑みにつり上げて。
「……そのお返事は俺がボスに届けるよ。お嬢ちゃんは死体になってお母さんに伝えな。もういいんですよ……って言ってたってなぁ!!」
……バンッ!!
男の銃から放たれた弾丸が真っ直ぐにあたしに向かって飛んでくる。
しっかりと見たわけじゃない。
その時には目を閉じていたから。
縮こまってギュッと目を閉じて待った。
その時が来るのを。
だけどいつまで経ってもなんの変化もない。
いや、ずいぶんと時間が経ったように感じていたけど、わずかの間……。
バンッ!! と大きな音がして、そのすぐ前にガタッという音がしたような気がして、その後にダン! という音、同時に金属のこすれるような音が……そして、もう一度大きなバンという音がして。
静かになった。
それから男たちの低い驚きの声がいっせいに上がるのが耳に届いて。
……あれ?
あたしはおそるおそるゆっくりと目を開ける。
……どうなったの?
あたしの目の前に……銀色の板?
2本の足……あ、テーブルに乗ってるんだ……翻る赤いコート、見上げるとフードを被った後ろ姿……。
あ、アンディだ。
……その手に持っているのは、よく見ると板じゃなくて、長い鎖のついたギロチンだ。
あれに当たって弾がこっちに来なかったのか。
あ、そうか、なるほど。
アンディがテーブルに乗ってあのギロチンで銃弾からかばってくれたんだ。
あれを持つからアンディは指についた粉砂糖をぬぐっていたんだ……。
すべるもんね。
そんな場合じゃないのに妙に冷静に分析して納得している自分がいる。
いや、そんなこともすぐにわからないくらい、混乱はしてるんだけど。
……でも、っていうことは、もしかしてアンディは……。
あたしの心の中を読むように、前に立ったアンディの向こうにいる男が、悲鳴のように高く細い声で言う。
「その赤い服……それにギロチン……おまえまさか、レッド・レイヴン……!?」
自分が言われたかのようにビクリとしてあたしはアンディを見上げる。
まさか……ただものじゃないとは思ってたけど、本当にレッド・レイヴン……!?
視線に応えるように一瞬だけ振り向いたアンディはあたしを一瞥して顔を戻した。
無表情に、目にも何も浮かべずに、ただあたしを見て。
無言で男たちに向き直る。
そして、タッとテーブルから床に降り立つと、後ろ姿なのでよくわからないけど、ガサッと音を立てて何かを取り出す動きをした。
……なんだろう?
「ロッチア一家、頭領ジャコモ・ロッチア、違法武器(スキャッグス)の所持を確認、調査の結果、現状を乱す危険分子と判断、よって……速やかに刑を執行します」
低く冷たく響く声で抑揚もなく言い切ったアンディがギロチンをかざす。
いまや男たちすべての銃がアンディを狙っている。
……いけない!!
あたしはくるっと後ろを向いた。
もちろん、逃げるためだ、この場から。
間違っても人質になんてなっちゃいけない。
これ以上迷惑はかけられない。
扉のほうは男たちがいる。
あたしは住居である2階へと続く階段のほうへ走った。
……っていうか。
シャルルがこっちに向かって飛んでくる。
鋭いくちばしを光らせて。
細くした目を輝かせて。
真っ直ぐにあたしのほうへ向かって飛んでくる。
バサバサーッと。
ああああああっ!!
……なんで? なんで!?
声は出さずに心の中で悲鳴を上げて階段のほうへ猛ダッシュ。
背後を気にする余裕はない。
途中でキッチンに置いてあった料理用ワインの大瓶をひっつかんで、それを持って階段を駆け上がった。
背後から羽音と声が聞こえる。
「ジェンマ! どうする気なんだ、そんなもの!!」
シャルルだ。
そんなもの、とは、手に持った大瓶のことだろう。
決まってる。
あたしは背後に向けて怒鳴り返した。
「アイツらがあたしのとこに来たらこれでぶちのめしてやるんだよ!!」
「女の細腕でそんなもの振り回せるか!!」
「できるよ! お菓子作りって結構力いるんだよ!! 自信があるから、大丈夫!!」
「……」
何か考え込むような妙な沈黙があった。
あたしは気にせず廊下を走って一番奥の扉を開けた。
バタンッ!!
扉が壁にぶつかるほど勢いよく開けて、中に走り込む。
ほぼ同時に飛んで入ってきたシャルルがジロリとあたしを横目に見る。
「……ひとりにしても大丈夫そうだな」
そのまま窓のほうへ飛んでいくので追いかけて窓を開け放った。
そうしないと窓にぶつかる。
シャルルが窓から外に飛び出していく。
バサーッと上がって空のほうへ。
……あれ? アンディ置いてっちゃっていいの?
ふと浮かんだ疑問に一瞬ぼんやりとして、階下から聞こえた音にハッとして、あたしは慌てて戻って扉を閉め、その横に立った。
瓶の首を握りしめて。
腰を落として、息を殺して、耳を澄ませて。
いざという時のために。
神経がとがっているせいか、音がやけに大きく、響いて聞こえる。
バンッ!! とか、ガシャンッ!! とか。
何が起きてるかなんて想像もしたくない。
……うう、気持ち悪い……。
気付くとしっかり息ができていない。
緊張のせいだ。
なんかぐるぐるする。
だけど頭のほうはやけに冴えている。
深夜にふいに目が覚めて眠れない時のようだ。
……これが悪夢であってくれたらいいんだけど。
+++++
(つづく)